妹.二
恐らく、キョウはジュソを恨んでいる。
そしてそれが故にジュソを討っている。
本人の口から聞いたわけではないが、そう思った。
そして何度か共にジュソを討つうちに、その思いへの確信は深まっていくばかりであった。
キョウは、ジュソを切る時笑うのだ。
それはいつもわたしを阿呆だのとろいだのとからかう時に見せる、嘲るような笑みではなく、嗜虐を含んだ、とでも言えばいいのだろうか、とにかく凄惨なものであった。
その笑みは、しかし笑みであって決して目は笑わない。唇だけを残虐に剥くのである。
あの仏頂面が刀を抜いた瞬間から背筋が寒くなるような表情を見せる。そして獲物の首を刎ねるその一瞬、口元の笑みとは裏腹に表情の冷たさはより一層大きくなり、ジュソが消えるのと同時に、それは手にすくった雪の一欠けらがいつしか解けてしまうかのように、なだらかに顔から引いていくのだ。
満たされるように。あるいは失うように。
刀を清め、収める頃には、いつものその表情が心寂しくすらあった。
解けた雪は、手から毀れ落ちるその雫は、果たして何処へ向かうのだろう。
「キョウちゃーん! やめてーははは!」
「駄目だ、許さん。この期に及んで俺を嘘吐き呼ばわりした罰だ」
「ごめんなさーい! はははは!」
キョウが笑っている。ヒノトと一緒に。それを眺めるツヅミや雷華も笑っている。
こんな笑顔がすべてであれば良いのにと思った。
わたしは知っていた。
恨むが故に笑う。
人が復讐をする時に見せる狂気。
キョウキ以上に鋭く禍々しい狂気。
嘲笑い、冷笑し、相手の恐怖を知ってなお、心で冷酷にほくそ笑む。
恨みを持つ人間がどのような表情で復讐に及ぶか、わたしは知っているのだ。
それは……目を背けたくなる程に……。
そんなことを考えてからであろうか、ならばわたしはどのような表情でジュソを切っているのであろう。そう考えるようになった。
それは今まで一人であったが為に、キョウや雷華の目が気になったのではない。単純に、周りに人がいるならば、その目にはジュソを切るわたしはどのように写るのだろうという、素朴な疑問であった。訊かずに知れるならば知りたい、そのくらいの気持ちだ。意味など無いに等しい。どのような表情であっても、それを恥と感じるような繊細な心は持ち合わせていないし、そのような繊細な心でジュソと対峙できるなどとも思っていない。
キョウはわたしのことを事ある毎に鈍いだの、鈍感だのと言うが、それは左程悪いことだとは思っていないのだ。
今まで、一人のわたしはどのように、どのような目をして、あるいは表情で、ジュソを切ってきたのだろうか。そしてそれは、キョウ達と出会ってから変わったであろうか。それともちっとも変わらなかったであろうか。
本当に今更だ。
今更そんな疑問を持ったところで何の意味も無い。今のわたしにはジュソを討つ術が無いのだ。今のわたしはただの人間。ジュソに憑かれた、この島の呪いを一身に受けたただの、普通の人間。
他の呪われた者達と同様に、憑いたジュソが、ヒナがわたしを殺しに来るまで布団の中で怯えながら待つことしかできない、弱い人間だ。
「みーちゃーん。キョウちゃんがいじめるのー」
これでもかという満面の笑みでヒノトが抱きついてきた。
「よしよし、わたしが守ってやろう」
わたしは怯えている。
わたしを刺した時の、ヒナのあの笑みを見るのを。
それが本当に恨みを持つ者の
それが本当に恨むということなら。
知れるのならば、知りたい。
ねぇヒナ。お姉ちゃんはちゃんとジュソを恨めていたのかな……。
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