虎は死して皮を、人は死して何を.一

 人は死んでも何も残さない。

 それこそ名誉や功績のようなものは残るであろうが、それは死んだが為に残ったものではない。それを差し引けば人には何も残らない、何も残してはやれないのだ。

 ならばジュソはどうだろう。

 ジュソは人の恨みから生じる。恨みとはいえ立派な人の感情。それならば、人が残したものであると言えるのではないか。

 否、それは違う。

この島に、ジュソに対して共通の認識や学問的な決まりがあるわけではないが、わたしは幼い頃からそう教えられてきた。

 ジュソは人の恨みから生じたもの。生まれたもの。

 間違っても人から成ったものと解してはならない。

 人はそれを予め持っているわけではない。死んだからといって、手から毀れ落ちるようにして残る筈もないのだ。残らない。残ってはならない。

 だからジュソとは恐ろしいモノなのだ。そう、教えられてきた。

 化け物として生まれ、化け物として消えていく。

 幼い頃からそう、教えられてきた。

 ジュソ。

 死者の恨みが生前の姿を形作り、ジュソとなる。

 そしてその手に握られるキョウキは、自身の致命傷と同じものを与えるべくして形作られる。だが、その形は恨みという感情により歪に歪められ、見るも恐ろしい外形を成す。  

 泥と泥が織り混ざるように、どす黒い感情が人の命を飲み込もうと。

 まさに人を呪い殺す為の凶器。恨みを持った化け物の狂気。

 死者に感情は無い。たとえジュソという化け物を生じさせたところで、死者の恨みが晴らされるわけではない。

 人は何も残さないのだから。

 残酷なことだ。これを呪いと言わずして何と言う。

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