泣いた鬼.六
ミの小屋は未だ完成していないので、必然と三人でレンさんの家に帰ることとなった。
昨日よりも人数が増えたことに、ヒノトとツヅミが喜んだのは言うまでもない。
奥の方からばたばたと音が聞こえたかと思うと、たちまち、まるでわらわらと餌に群がる子犬達のようなガキ共に取り囲まれた。
当の雷華は戸惑いを隠せない様子だ。
「申し訳ないです、レンさん。こんな人数で押し掛けて。今日中に小屋を直せれば良かったのですが……」
そんな雷華達を横目にそう伝えてはいるが、小屋が直らなかったのは、途中でお前がわらび餅を食べたいと言った所為ではないのだろうか。
「いいんだよ、みーちゃん。人数が多ければそれだけ楽しいし、子供達も喜ぶからね。何ならあと二、三人は連れてきても大丈夫だよ。食べるものはさ、たくさんあるんだから」
レンさんは気持ちの良い笑顔でそう言った。
本当にこの人は何でそこまで世話を焼いてくれるのだろうか。
「おねーちゃん頭に何か生えてるー」
「何これー何これー」
「ちょっと、くすぐったい。はははは、ちょ、やめて、くすぐったいってば」
早速雷華はヒノトとツヅミのおもちゃにされていた。少々やかましいが、俺としては標的が変わってくれて好都合であった。ジュソ相手ではてんで駄目だが、これはこれで使い道があるようだ。
「なんでそうなる!」
「ならばどうなる?」
ミは布団を三人横並びに敷いた。自然と間に挟まれる雷華の布団は、俺の布団に妙な程近くなる。
「こんな広い部屋なんだ。もっと広く使えばいいだろう。こんな近づく必要がどこにある」
まったく、毎回こんなやり取りをしなければならないのか、俺は。
「その方が寂しくなくて済む」
「またそれだ。お前は自分のことばかり考えている。そのガキだって一応は女だぞ」
「雷華、キョウなら大丈夫だ。レンさんから変なことはするなと念押しされているからな」
「お前、その言い方だといつもは変なことをする奴みたいになってるぞ。言い改めろ」
「あ、あの……、ぼ、僕なら大……丈夫……です……」
突然割って入ったかと思うと、雷華は言い難そうに言葉を絞り出した。
顔は耳までゆで蛸のように赤く、何故だかこちらと目を合わせようとしない。言葉ではそう言うが、きっとミの傍若無人な様子に心底頭に来ているのだろう。
「よし、決まりだな」
そう言うや、そそくさと布団に潜り込んでしまう。続けて雷華も顔を真っ赤にしたまま布団に入る。
何が決まりなのだ。この件に関して俺の主張は完全に無視される方向らしい。
「お前まで、いいのかそれで!」
「キョウ、言っておくが、こっそり布団を移動させても無駄だぞ。わたし達がそれに合わせて移動するからな。何度も繰り返すようなら面倒だから、もうキョウの布団に直に入るからな」
また突拍子もないことを言いだした。何のつもりの脅しなのだろう。これには雷華も布団の中で戸惑いを隠せないようだ。布団を頭までかぶり「ぼくは……そんな……でも……」と何やらぶつぶつと呟いている。
「お前、余程切られたいらしいな」
こいつが何故、布団の位置にそこまでのこだわりを見せるのか心底わからなかった。以前だって布団の中で少し話して、それだけであったのに。まあ、それ以外のことがあったならあったで困るのだが。
行燈の明かりを消し、布団に入るとミの、
「ふふふふ」
という、妙に嬉しそうな笑い声が聞こえてきた。
気味が悪い。
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