香澄のカウンセリングレポート(五)

       『香澄のカウンセリング(調査)レポート(五)』


 [二〇一五年七月七日 午前〇時〇〇分……時刻も真夜中の午前〇時〇〇分を迎え、私たちは計画を実行することになった。数々の現場に残された証拠から、ダグラスとレベッカの両名はエリーを犯人だと名指しする。エリーが事情聴取を受けていた際に、レベッカは彼女のバックから一本の小瓶を発見する。

 その小瓶に毒が混入していたと判断したレベッカは、警察が来る前の間エリーの身柄を拘束する。そしてサークル顧問としての責任と思ったのか、フローラもレベッカと一緒に同行する。


 エリーが別室へと向かう途中、弟のエドガーを殺害されたことに逆上したのか、アルバートは彼女に取っ組みかかる。その剣幕は異常で、今にもエリーを絞め殺すといった感じだった。興奮するアルバートを落ち着かせようと、彼の襟元を抑えつけるダグラス。そしてダグラスの説得によって、ようやく落ち着きを取り戻したアルバートだった。


 リビングでミネラルウォーターを飲み干し、少しは落ち着きを取り戻した様子のアルバート。だが警察が来るまでまだ時間があったので、私たちはエリーがどんな方法で毒を混入したが議論することにした。


 すると私たちの会話に誘われるかのように、アルバートは自分の考えを述べていく。私たちは最初アルバートの考えに賛同しつつも、後に彼の言動の矛盾点を指摘していった。アルバート本人にしてみれば、私たちの反応には戸惑ったことだろう。

 しかしこれこそが、私が考えていた計画の具体的な内容でもある。表向きはエリーが犯人だと皆に伝えられたが、真犯人はアルバートであると私は確信していた。だが相手は『ルティアNO.Ⅳ』ことIQ一八〇の天才児であるため、単純に証拠を突きつけても自白する可能性は低い。むしろ逆に状況証拠のなさを指摘され、いとも簡単に包囲の輪をくぐりぬけてしまうだろう。


 そこで私はという、大胆不敵な策を思いつく。表向きは弟のエドガーが亡くなった嘆き悲しむ、兄の姿をアルバートが演出する――私は考えた。そこで私は最初にアルバートの警戒心を解かせるために、あえてエリーが犯人だという嘘をでっちあげた。

 それによって案の定、アルバートは私たちへの警戒を解いてくれた。しかし彼のことこそが、私たちの本当の狙いでもある。


 だがいずれも決定的な証拠としては、どれも不十分であるのが現状だ。その点を考慮しつつも、着実にアルバートを追い詰めていくダグラス。その手法は実に見事で、これまでに数多くの犯罪者の逮捕でつちかったという自信によるものだろう。


 最終的に現状証拠だけではアルバートを犯人と断定出来ないと判断した私たちは、彼に犯人に名乗り出てもらうことにした。私とジェニー、そしてダグラスの三名はあえてアルバートの機嫌を損ねるような発言を繰り返す。

 その策略に見事はまってしまったアルバートは、犯人しか知りえないであろう情報を口走ってしまう。今回の犯行で使用されたと思われる毒薬の名前を、アルバート自らの口で喋ってしまったのだ。これがアルバートを犯人だと断定する決定的な証拠となり、同時に私たちに勝利を確信させた瞬間でもあった。


 今回アルバートへ仕掛けた心理戦は、なんとか無事成功に終わった。仮に相手はIQ一八〇の天才児でもあるため、私の考えもすでに読まれているのではと内心焦りもした。

 しかしFBI捜査官のダグラスとレベッカの協力をはじめ、親友のジェニーやAMISAに属するフローラの協力のおかげで、こうして無事アルバートの陰謀を阻止することが出来た。むろん自分一人だけの力では出来なかったことなので、突然でもある私の提案を快く承諾してくれた彼らには、感謝してもしきれないくらいだわ。


 しかし事件を解決するという目的のために、親友のエリーに対して殺人事件の犯人にするという汚名を着せてしまったことは、どう言い訳してもまぎれもない事実

――事件解決後、私たちはエリーに対して心から謝罪した。

 当初は恨み事の一つでも言われると思っていたのだが、私たちの予想に反しエリーは“私、興奮してしまったわ”と語る。エリーという子が何を考えているのか、私には分からない。……エリーの性格や真意を解明することは、ある意味今回の事件の犯人探しより難しいことかもしれない。


 同じ心理学サークル部員 エドガーの死は誠に遺憾であるが、私たちは何とか【ルティア計画】の陰謀をつきとめることが出来た。その過程の中で【新・ルティア計画】も実行されそうになるが、私たちは無事それを阻止する。

 だがアメリカを脅かす存在でもあった『ルティアNO.Ⅰ~Ⅳ』らは、今回の事件解決により全員逮捕および死亡した。同時に【ルティア計画】に関わったとされる関係者についても、FBIが全力をあげて逮捕に取り組んでいる。

 以前のレポートでも同じことを述べた記憶があるが、やはり人は一人では何も出来ないことを改めて痛感する。……この先どんな困難が私に振りかかろうと、そのことを忘れない限り前に進むことが出来るだろうと、私は確信している。


 なお今回の事件の要約をはじめ、前回のレポートで不明確になっていた犯行動機などの詳細については、下記に別途明記する。一部重複する文面も含まれているので、その点を意識した上で内容を確認すること。

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