香澄のカウンセリング(調査)レポート(四)
『香澄のカウンセリング(調査)レポート(四)』
[二〇一五年六月一二日(午後)……約束の時間より少し遅れて、FBI捜査官のダグラスとレベッカの両名が自宅に到着する。そこで私たちは彼らが所属するFBIの情報、そしてフローラが属するAMISAの情報をお互いに比較した。二つの情報をまとめると、【ルティア計画】の首謀者でもあるアーサーとリサの行方に関するもの。
二つの可能性を考慮した結果、私たちはダグラスの指示によりAMISAの情報源を信じ、かつてルティア夫妻が暮らしていたオクラホマ州へと向かうことになった。現地へと向かう際に使用する飛行機については、FBIが事前に手配してくれたようだ。【ルティア計画】解決に向けた取り組みにおいて、時間はとても重要。このような細かい気配りは、本当にありがたい。
またルティア夫妻の行方以外にも、FBIが新たにつかんだ情報はもう一つある。FBIの捜査によると、すでに数名ほど【ルティア計画】の関係者が殺害されているようだ。その死因も共通しており、ダチュラという毒薬が使用された可能性が浮上する。
少量でも強い幻覚作用や錯乱・全身けいれんなどの症状を発症することが、ダチュラの特徴。しかも強烈な幻覚作用を引き起こし、かつ通常の毒薬に比べ数倍以上もある――など非常に恐ろしい特性がある。
犯人であろうルティア夫妻はこのダチュラを白い液体にして、それを飲み物や食べ物などに混入したのだろう。力のない者でも多くの人を殺害出来る、最強の毒薬だ。
実はアメリカに来る前に、私が独学で薬学について学んでいた。当初は人助けのために学んだ薬学だったが、まさかこんな形で役立つとは夢にも思っていなかった。
二〇一五年六月一三日……私たちがルティア夫妻の自宅へ突入することには、日時も一三日午前〇時〇〇分と変わっていた。銃撃戦になることを考慮して、ダグラスとレベッカをはじめとする、FBI捜査官らが先に強行突入する。そして安全が確認されると同時に、私たちも家の中に入ることが許された。
しかしここで私たちの思惑は大きく外れてしまい、ルティア夫妻の姿は発見されなかった。だがまったく手がかりがないわけでもなく、彼らが隠れ家に使用するために購入したと思われる、中古物件のパンフレットを発見する。
物件の場所もテキサス州にあることをつかんだ私たちは、ルティア夫妻がメキシコへと国外逃亡する可能性を考慮する。仮にメキシコへ逃亡されてしまったら、もう私たちには打つ手がない。一刻も早くルティア夫妻、そして『ルティアNO.Ⅰ・Ⅱ』だと思われるシンシアとモニカ両名の身柄を拘束するために、急いでテキサス州へと向かった。
同日の午前六時〇〇分……やっとの思いで隠れ家をつかみ再度突入するのだが、そこで待っていたのは驚きの結末だった。【ルティア計画】の首謀者だと思っていたアーサーとリサの両名が、なぜかリビングで亡くなっている。彼らの手にはそれぞれ銃と白い液体が残っていた。一体なぜ、彼らは自殺をする必要があっただろうか?
あっけにとられている私たちの前へ、キッチンに隠れていたシンシアとモニカの両名を発見する。彼女たちから詳しい事情を聞くと、“問題を起こすばかりの自分たちへ、アーサーとリサが毒を飲んで死ぬように強要された“と語る。だが死にたくないという気持ちから、シンシアとモニカは“毒を飲むふりをしつつも、二人のスキを見て彼女たちは彼らの飲み物に毒を混入した”と話す。
また以外にもシンシアとモニカは私たちに協力的で、彼女たちが知っている【ルティア計画】の全容を私たちは知ることが出来た。
しかしこの時、私たちは知る由もなかった。まさかこれが【新・ルティア計画】と呼ばれる、世にも恐ろしいプランへのプロローグだったことを……
二〇一五年七月六日 午後八時〇〇分……【新・ルティア計画】のことなど考えもつかなかった私たちは、これで事件や調査は終わったと思いこんでしまう。それに伴い、知人のフローラは残った心理学サークルのメンバーを集め、最後の懇親会を行うことを皆へ伝える。その内容はフローラが個人的に所有する別荘へ集まり、そこで立食パーティーをするという内容。
余談だが、これほど大きな規模の別荘を個人で所有出来るフローラの財力は、おそらく相当なものだろう。だがワシントン大学の教員・臨床心理士・AMISA職員――などの顔を持つフローラにとってすれば、これは身分相応なのかもしれない。
最初で最後の懇親会ということもあり、私をはじめ親友のジェニーとエリーもこの日ばかりは羽目を外し、パーティーの雰囲気を満喫している。そして男性サークル部員のエドガー・レイブンとその兄 アルバート・レイブンも、用意された食べ物や飲み物を堪能している。
しかしどこか事件に謎が残ると疑問に思ったのか、新たなメンバーとしてFBI捜査官のダグラスとレベッカも急遽参加することになった。だがFBIの身分を伏せる必要があったので、彼らはフローラの友達ということで皆へ紹介する。彼らが来たことによって、何も事件が起こらないと良いのだけど……
そんな私の願いをあざ笑うかのように、事件は起きてしまった。パーティーを楽しんでいたサークル部員のエドガーが、突然倒れてしまう。エリーの悲鳴によって私たちは現場へとかけつけるが、すでにエドガーは手遅れだった。兄のアルバートが必死に呼びかけるが、エドガーからの返事はもう二度とないだろう。
実際にエドガーが亡くなってしまった以上、これ以上身分を隠す必要はないだろう――そう状況判断したダグラスとレベッカは、自分たちがFBI捜査官であることを自ら名乗り出る。そして自分たちの指示に従うように述べると同時に、彼らがEdの遺体を調べる。その調査によると、どうやらエドガーの死因は毒殺によるもの。
彼らから毒殺という言葉を聞いた瞬間、私は心の底から恐怖してしまう。私が遺体を発見する少し前、ジェニーがテーブルに白いシミらしきものを発見する。今日のパーティーの食事には、牛乳やクリームシチューなどの白い液体は一切使用されていない。私はこの白いシミを発見した矢先、これが【ルティア計画】の関係者ならびにアーサーとリサ殺害に使用されたダチュラであると確信する。
彼らを殺害した犯人――つまりこれまで正体不明だった『ルティアNO.Ⅳ』が、私たちの中にいるということになる。しかも私とジェニー、そしてフローラの身元はすでにAMISA・FBIによって確認済みなので、犯人は必然的にアルバートもしくはエリーのどちらかとなる。
そこでダグラスとレベッカは二人のアリバイを確認するため、彼らの事情聴取を行った。なお彼らには、私とジェニーとフローラの三人がFBIの協力者であることは知らない。なので表向きは私たちも事情聴取を受けるという意味で、各自タイミングを見計らって臨時の取調室へと向かう。
またジェニーが発見した白いシミ・ダグラスとレベッカ両名による現場検証の結果、毒薬のダチュラはシャンパンに混入されたことを、私とジェニーとフローラは別室で確認する。だが情報公開は必要最低限にすべきと判断したのか、アルバートとエリーの両名には“エドガーは正体不明の毒物を混入されて亡くなった”と、あえて
事情聴取を行ったダグラスとレベッカに話を聞くと、ある人物の言動に不自然な点を私は発見する。現時点では確証こそなかったが、“今このタイミングを逃したら、次誰が殺害されるか分からない”と危機感が募り、無理を承知でダグラスとレベッカへある提案を持ちかける。むろん最初は意を唱えるダグラスだったが、“相手が『ルティアNO.Ⅳ』なので、こちらも多少のリスクは負うべきよ”とレベッカは私の意見に賛同してくれた。
そしてレベッカが私の味方になったことを知ったダグラスも、“分かった、その計画にかけてみよう”と判断を承諾してくれた。これでいよいよ、『ルティアNO.Ⅳ』のしっぽをつかむことが出来るチャンス。……待っていなさい、私が絶対にあなたを捕まえてみせるわ!
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