事件の真相(四)

     フロリダ州 フローラの別荘 二〇一五年七月七日 午前二時一〇分

 人の心はここまで醜くなれるものなのだろうか? 確かに狂気に支配されたとも呼べるルティア夫妻だったものの、自分の子どもを愛するという意味ではまだ人間らしさが残っていた。

 しかし今香澄たちの目の前にいるアルバート・レイブンという男性には、そういった良心の呵責かしゃくがまったく感じられない。またこれ以上危害を加える様子を見せないことから、ダグラスとレベッカもアルバートを射殺することは出来ない。

「俺は天才なんだよ! IQ という驚異的な数値を記録する、天才だ。いや、天才を超えた神と言ってもいい。お前ら凡人には、俺の言っていることは理解出来ないだろう!?」


 事情聴取を行っていたリビングには、狂気に支配されたアルバートの笑い声が響き渡る。そして誰もアルバートの問いかけに返すことはなく、ただじっと彼を見つめていた。

 しかし香澄だけはそうではなく、アルバートの目の前に置いてあるテーブルにそっと手を置く。そして目をつぶりながら軽く深呼吸をして、彼の問いかけにこう述べた。

「私に分かっていることは、ただ一つだけ。……自由のない世界で生き地獄を味わいながら、一人寂しく一生を終えることよ。そこではIQ 一八〇もまったく関係ないし、あなたが得意げに語る計画やゲームなんて一切通用しないわ。……そしてあなたはそこで、自分が犯した過ちを悔いるの」

「…………」

あくまでも冷たい視線を送るアルバートに対し、最後に香澄はこう別れを告げる。

「ひょっとして……少し考える時間が欲しいの? ふふ、大丈夫よ。慌てて答えを出さなくても、あなたにはこの先……考える時間はたくさん残っているのだから!」


 最後の最後まで落ち着いた口調で、アルバートへ言葉を投げる香澄。だがそんな丁寧な口調で優しく語る香澄の一言一句が、隣で聞いていたフローラたちの心に深く突き刺さる。……まったく反省の色を見せないアルバートに、香澄の言葉は届いたのだろうか?

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