事件の真相(三)

     フロリダ州 フローラの別荘 二〇一五年七月七日 午前二時〇〇分

 誰もがアルバートへ軽蔑するような視線を送る中で、ダグラスが最後の質問を投げる。

「これが最後の質問だ、アルバート。……今回の事件で君は飲み物に毒を仕込んだということは、ここにいる全員を殺害するつもりだったのかい!?」

「あぁ、そうだよ。あんたらFBIやAMISA・そして香澄たちが首を突っ込むから、これを機に全員の口を封じようと思ったんだ。俺たちの計画を邪魔するものは、絶対に許すわけにはいかないからな!」

 まったく悪びれた様子もなくここまで淡々と自供するアルバートに、香澄たちは心底呆れてしまう。誰もがアルバートに敵意を向けるなかで、エリノアが“どうして弟のエドガーまでも手にかけたんですか?”と質問する。

「……あんたらもカルテを見たなら多少は知っていると思うけど、エドは昔から協調性がなく団体行動が苦手な奴なんだ。まったく、手のかかる奴だったぜ」

「な、何を言っているんですか? 私たちが知る限り、エドに協調性がない性格とは無縁な気がするのに……」

「あぁ、それはあれだな。心理学サークルが始める少し前に、エドはいつも薬を飲んでいたんだ。あの薬には精神安定の効果があってな……その薬を服用すると一時的に発作が治まるんだ。その薬の効果によって、一時的に社交的に見えたんだろう。……むしろ俺の方が本当は社交的なんだぜ!」


 香澄たちが社交的だと思っていたエドガーの性格についても、薬による一時的なものだとアルバートは説明する。だがその説明に反論する香澄。

「あなたが社交的? 冗談でしょう!? 第一あなたは私と初めて出会った時に、社交的とは思えない言動や行動を取っていたじゃない!」

「それも演技だ。……初対面で香澄を不快にするような言動を取ったことで、あんたは俺に対する印象が悪くなっただろう? 人は初対面で悪い印象を与えられると、その相手に対して興味や関心が薄れる。確か心理学用語で……『メラビアンの法則』って言ったかな? 俺はその法則を逆に利用して、あえて香澄や部員たちに嫌われるような言動を取り続けた。……だがそのおかげで、俺はこれまで自由に動くことが出来たんだぜ。まったく、最高の気分だよ!」


 なんとこれまで香澄たちへ与えていたアルバートへの悪印象についても、彼の計算の内だったのだ。実際に香澄たちは、“アルバートは普段、家で何をしているか? どんな食べ物が好きで、どんな女性が好きなのか?”など、年頃の女性なら誰もが一度は考えても不思議ではない気持ちにすらならなかった。

 香澄たちにとって自分があえて空気のような存在になることこそが、アルバートの本当の狙いだった。……香澄たちの心理を巧みに操るアルバートは、まさに天性の犯罪者とも呼べる。

「一応同じ施設で育った仲間だから、エドにも俺たちの気持ちが分かると思っていた。しかし俺が何と説得しても、エドは手を貸そうとしなかった。……だから不必要なことを喋られる前に、先にこっちがしかけたんだよ!」

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