エリノアのアリバイ
『エリノアのアリバイについて』
一 毒が混入されたと推測される時間帯について、エリノアは皆と一緒にコーラ・ソーダ・シャンパンなどの飲み物をパーティー会場へ運んでいた。そして飲み物を運び終えた後は、そのままコップとシャンパングラスを運ぶ。
二 エドガーが亡くなった時、エリノアはおつまみのおかわりを取ろうと思っていた。しかし突然コップが割れる音が後ろから聞こえたため、とっさに視線を移すとエドガーが苦しんでいた――とエリノアは語る。
フロリダ州 フローラの別荘 二〇一五年七月六日 午後一〇時一五分
「なるほど、分かりました。……もういいわよ、エリノア。ありがとう。……最後に私たちへ、何か聞いておきたいことはある? 答えられる質問には、可能なかぎり答えるつもりよ」
エリノアのアリバイを確認したダグラスとレベッカ。“最後に質問はない?”と問いかけると、固く緊張していたエリノアの唇がゆっくりと動く。
「……あ、あの。エドガーの死因は毒殺って言っていましたけど……何に混入されたんですか? 食べ物……それとも飲み物?」
「詳しいことはFBIに戻って調べてみないと、何とも言えない状況ね。毒の種類は不明だけど、あの苦しみ方からするとおそらく即効性のものだと思うわ」
差し障りのない範囲で、怯えるエリノアに説明するレベッカ。
するとエリノアから、ある驚くべき言葉が語られる。
「だ、だとすると……わ、私は殺されなく可能性は低い……ということですね?」
「……それはどういう意味、エリノア?」
何を言っているのか分からないという顔をするレベッカへ、エリノアは事情を説明する。
「か、仮に飲み物に入っていた場合の話ですよ。実は私……今回パーティーで用意された飲み物は、一口も飲んでいないんです。数日前に歯の治療をしたばかりなので、当分は甘い飲み物は控えようと思っていまして。でも今回のお食事にはジュースが出ると思って、甘くない飲み物をお家から用意持ってきました」
「差し支えなければあなたが持ってきた水筒、少し見せてくれる?」
“少し中身を見せて欲しい”というレベッカの質問に、“はい、どうぞ”と用意していたバッグから水筒を取り出すエリノア。
事前に用意していたシャンパングラスに、水筒に入っている飲み物を少し淹れてみる。すると中から黄金色の液体が流れ落ち、レベッカはとっさに香りをかぐ。
「いい匂いね。これはひょっとして……ラベンダーの香りかしら?」
「はい。この間私が香澄たちへカンザス州のおみやげを渡した時に、お返しとして『ラベンダーの茶葉』を一缶いただきました。以前香澄が淹れてくれたラベンダーティーを飲んでみたらとても美味しかったので、今でもこうして水筒に入れて持ち歩いています」
試しにレベッカもラベンダーティーを一口飲んでみると、口の中には独特の濃厚な味わいが広がる。しかし自分の体に何の異変も起きなかったことから、“エリノアちゃんの言っていることは本当ね”と心の中で思うレベッカ。
危険なものではないことを確認したレベッカは、エリノアのバッグに水筒を戻す。その際にレベッカはバッグの奥からプラスチック製の小瓶を発見するが、残念ながら中身は空っぽ。
サークルパーティーと一本の小瓶――どう考えても結びつかないセットだ。心の中でエリノアへ不信感を抱いたレベッカは、水筒を戻すと同時にこっそりと小瓶を抜き取る。……後で鑑識に回し、毒物検査をしてもらうためだ。
「分かったわ、ありがとう。ではエリノア、次にフローラを呼んできてくれる?」
「フローラですね? はい、わかりました。失礼します」
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