香澄の忠告
フロリダ州 フローラの別荘 二〇一五年七月六日 午後九時三〇分
血相を変えてパーティー会場へ向かう香澄と、そんな彼女を後ろから追いかけるジェニファー。だが香澄が追加用の料理皿を持ってくるのを忘れたため、仕方なくジェニファーが二人分持ってきた。
香澄たちがパーティー会場を見渡すと、自分たちのすぐ左側にフローラとダグラス・レベッカ両捜査官が楽しそうに話をしている。“これはチャンスよ!”と思った香澄は、
「あっ、フローラ。追加用のお料理、持ってきましたよ」
とさりげなくフローラたちへと近づく。
「ありがとう、二人とも。ちょうどサラダが切れていたから、そのお皿から盛ってくれる?」
「はい」
とっさに香澄がテーブルへ視線を送ると、運の良いことにフローラたちのシャンパングラスが全員分置かれている。だが香澄は直接何かを伝えるのではなく、サラダを追加するフリをしつつ、さりげなくシャンパングラスが床に落ちるよう雑にお皿を並べた。
すると案の定“ガチャン”という何かが割れる大きな音がパーティー会場へと鳴り響く。そして一同の視線は香澄へと向ける。
「……ごめんなさい、みんな。ちょっとグラスを割ってしまっただけなの。気にしないでパーティーを続けて」
香澄の一言を聞いて、レイブン兄弟はすぐに世間話へと戻る。
指を怪我しないように、ホウキを使って割れたグラスを片づける香澄。普段は冷静な香澄らしくない失敗をしたことに不思議に思いつつも、すぐにフローラとレベッカが手伝ってくれた。
「私も手伝うわ、香澄。……でも珍しいわね、あなたがこんなミスをするなんて」
「とにかく今は割れたグラスを片づけましょう。さぁ、かすみ。ここは私たちが片づけるから、あなたは破片を入れるための袋を持ってきてちょうだい」
「袋はキッチンの下の棚に入っているから、それを使って」
「はい、分かりました」
香澄たちだけでは大変だと思ったのか、横で事の一部始終を見ていたダグラスもグラスの片付けを手伝ってくれた。
お互いに割れたグラスを片づけながら、一欠片ずつゴミ箱へと入れていく。五人で協力して片づけたのか、ほんの数分足らずで掃除は終わった。
「よし、これでいいかな。カスミ、怪我はしていないかい?」
「はい、大丈夫です。……みなさん、ありがとうございました」
割れたグラスの片付けも終わり、これでパーティー会場へ戻れる――皆がそう思っていた。だが香澄は“ちょっと待ってください”と手で合図を送る。
「? どうしたの、かすみ」
“まだ片づける物でもあるの?”という意味を込め、香澄へ問いかけるレベッカ。すると香澄は再度“少し耳を貸してください”と、再度ハンドシグナルを送る。
最初は何かの悪ふざけだと思っていたフローラたちだが、香澄の目はいたって真剣。ましてや香澄は、こんな時に悪ふざけをするような性格ではない。
香澄の真意を確かめるため、隣にいたレベッカが彼女の言う通り耳をそっと傾ける。そんなレベッカに対し香澄は、
「先ほど私たちが新しく補充した飲み物の中に、例の毒が混入している可能性があります……」
と小声で先ほど自分が違和感を覚えた内容を伝える。そしてそう思った根拠も伝えると、レベッカの顔色も次第に青ざめていく。
「……わ、分かったわ。すぐにFBIへ連絡するわ。楽しかったパーティーも、残念だけど中止ね」
あまりにも恐ろしい事実を聞かされたレベッカは、香澄と同じようなハンドシグナルでダグラスを呼び寄せる。そしてレベッカから香澄から聞いた内容を確認すると、案の定ダグラスの表情にも困惑の色が見える。同様にジェニファーとフローラには、香澄から事情を説明する。……この時初めて自分たちが調査を終えたと確信していた【ルティア計画】の続きのシナリオを知り、身震いする。
飲み物に例の毒――つまりダチュラが混入されている可能性が浮上する。そのことを知った香澄は皆に、“体調はどうですか?”と血相を変えながら尋ねる。
「私とダグ・そしてフローラはまだシャンパンを飲んでいないから、多分大丈夫よ。……あなたは大丈夫、ジェニー?」
「はい。私も先ほど補充したコーラやソーダはまだ飲んでいないので、大丈夫です」
「私も飲み物にはまだ口を付けていないわ。よかった、みんなとりあえず無事なのね」
だが何者かが飲み物へダチュラを混入されていたということは、これは香澄たちを狙った大量殺人の可能性が浮上する。何より普通の入手ルートでは手に入らない毒薬でもあるため、香澄たちの脳裏にある事実が思い浮かぶ。
「ちょ、ちょっと待ってください!? ここで例の毒薬が発見されたということは、あの三人の中に『ルティアNO.Ⅳ』がいるということですか!?」
「……残念だけどそういうことよ、ジェニー。フローラたちがさっきAMISAやFBIに連絡してくれたから、今は混乱拡大を予防しないと!」
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