死神の鎌

 テキサス州 ルティア夫妻の隠れ家 二〇一五年六月一三日 午前〇時三五分

 モニカの予想外とも呼べる言葉を聞いたリサは、自分の耳を再度疑っている。その間にも体に毒がまわり続け、今にもリサは絶命しようとしている……

「今頃気が付いたの、リサ!? いえ……最初から私たちはマインドコントールなんか、されていなかったのよ!」

「そ、そんなはずはないわ。あ、アーサーがかけたマインドコントロールは、確かに完璧だったはず……」

いまだにシンシアの言うことが理解出来ないリサ。その事実を認めるということは、自分たちが研究に費やしてきた数十年がすべて無駄になってしまうことだ。

「アーサーとリサのおかげで、私たちは生まれてからすぐに自我に目覚めたの。……だけど当時はまだ赤ん坊だったから、どうあがいてもあなたたちに対抗する手段がなかった」

自慢げに語るシンシアの補足説明をするかのように、彼女の横に立っているモニカも口を開く。

「そこで私たちはあえてマインドコントロールされている振りをして、真意を隠し通しながら生きてきたの。……そうしたら案の定、あなたたちは“実験や研究が成功した”って舞い上がってくれたから、私たちはそれに合わせていただけ。ハハハ!」


 土壇場になって完全に立場が逆転してしまった、シンシアとモニカの両名とリサ。予想外とも呼べる真相を知ってしまったリサは、悔しさのあまり歯を食いしばる。するとリサの視線には、数分前に自分が落とした拳銃が目に留まる。

「な、『NO.Ⅳ』。わ、私からの……母親からの最後の命令よ。シンシアとモニカを……いえ、このしなさい! 今まで私たちの言うことを聞いてきたあなたなら……で、出来るはずよ」

最後の力を振り絞り、自分の子ども同然に可愛がってきた『ルティアNO.Ⅳ』に命令を下すリサ。


 心の中で“私はもう助からない……”と思いつつも、『ルティアNO.Ⅳ』が自分の思惑通りに動くとリサは確信していた。だがリサの予想を裏切るかのように、『ルティアNO.Ⅳ』は微動だにせずただ立ちすくんでいる……

「な、何をしているの、『NO.Ⅳ』!? はやくこの二人を……殺しなさい!」

 次第に苛立ちを覚え始めるリサ。そんな彼女にことの真相を語るかのように、『ルティアNO.Ⅳ』は一〇分程前に、リサが口にしていた缶コーヒーを目の前に置く。同時に毒の混入に使用したと思われる、を取り出した。

 『ルティアNO.Ⅳ』が置いた缶コーヒーと毒薬入りの小瓶……これらのパズルを組み合わせた結果、リサの脳裏に恐るべき恐怖が描かれた。

「そ……そんな。『NO.Ⅳ』、あなたまで最初から私たちを……騙していたの!? あ、あなただけは彼女たちは違う、そう……思っていたのに……」

【…………】

最後の遺言とも取れるリサの言葉を聞いた『ルティアNO.Ⅳ』は、何も言わずに不敵な笑みを浮かべている。


 研究成果として誕生した『ルティアNO.Ⅰ~NO.Ⅳ』を、“すべて自分たちの手の平で動かしていた”と慢心していたルティア夫妻。だが真相はまったくの逆で、『ルティアNO.Ⅰ・NO.Ⅱ・NO.Ⅳ』がルティア夫妻や【ルティア計画】の関係者を陰で操っていたのだ。

「ちなみにあなたたち以外の関係者の一部は、すでに私たちが殺しておいたから安心して。殺害方法は……あなたたちと同じ方法でね!」

悪魔のようなシンシアたちの笑い声が、部屋中に響き渡る。

「あの世で夫のアーサーと昔話でもするのね、リサ。……さぞかしお話が弾むことでしょう!」

 ここにきて本性を現したモニカも、シンシアに続いて最期を迎えるリサを蹴落とすのだった。そして表向きはルティア夫妻と上手く付き合っていた『ルティアNO.Ⅳ』でさえも、リサの最期にはドス黒い本性とも呼べる悪魔の笑顔を見せるのだった……


 死の間際になって事の真相を知ったリサも、間もなくして力尽きる。ルティア夫妻にとって、悔やんでも悔やみきれない瞬間だ。

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