香澄の名推理
カンザス州 ルティア夫妻の家 二〇一五年六月一三日 午前〇時三〇分
香澄とレベッカがリビングへ到着してから数分後、ダグラス・ジェニファー・フローラという順番で彼らもやってきた。先頭を歩くダグラスの手には、何かの資料が握られている。調査に何か進展があったと思ったレベッカは、
「ダグ。私たちと同じで、あなたたちも何か見つけたようね」
と言いながら右手で合図を送る。それを見たダグラスも同じように合図を送りながら、
「まぁね、レベッカ。早速だけど、二人が得た情報から聞いてもいいかな?」
香澄とレベッカが得た情報について質問する。
「えぇ、もちろんよ。私たちが得た情報というのは――」
ルティア夫妻が残したノートを見せながら、事の一部始終を語るレベッカ。そしてその話を聞いて頷きながら、頭の中で状況整理をしているダグラス。
一方のダグラスたちも何かを発見したようで、その詳細についてフローラの口から語られる。
「実はね、香澄。私たちもある手がかりを見つけたのよ。……まずはこれを見てくれる?」
フローラはそう言いながら、左手に持っていた何かのパンフレットのような物を香澄とレベッカへ見せる。とっさに香澄が手にすると、そこには『今流行りの中古物件特集』と表紙に書かれていた。
「これは……不動産のパンフレットですか? あっ、もしかして!?」
勘の良い香澄は、この資料が持つ意味にすぐ気がつく。同様の理由から、香澄の横にいたレベッカもその真意をすぐに悟った。
香澄とレベッカが資料を順番にめくろうとすると、パンフレットには付箋が貼ってあった。その付箋が貼ってあるページをめくると、テキサス州で販売されている中古物件に二重丸が残されていた。
「販売価格は――約四五万ドル!? 日本円にすると、大体五千万円近くもするじゃない!? こんなに高い物件でも中古なのね」
「本当にすごいわね。……でもこれがここにあるということは、ルティア夫妻はこの家を購入した可能性があるってこと?」
驚きを隠せない香澄にレベッカが賛同しつつも、さりげなくダグラスに購入者を問いかける。
「おそらく……ね。さっきFBIへ連絡して、この不動産の社長の住所を調べているところだ」
それから間もなく、ダグラスのスマホの着信音が鳴り響く。ダグラスがとっさに電話に出ると、案の定相手はFBI。どうやらデータベースから社長の住所を割り出し、電話で二重丸が付いている物件の購入者を調べてくれたようだ。
電話で相手に一言お礼を述べた後に、ダグラスは情報を香澄たちへ伝える。
「購入者の身元が判明しました――名前はエリザベス・レナード。年齢は三〇代後半~四〇代くらいの独身女性で、数ヶ月前にインターネットから購入された……ようです」
「エリザベス・レナード? 私はてっきり、ルティア夫妻の名前が出ると思っていたのに。香澄もそう思いますよね?」
「いえ。私はこのエリザベス・レナードという女性こそ、リサ・ルティア本人ではないかと思うわ」
「えっ!? それってどういうことなの!?」
香澄の予想外とも言える発言に、ジェニファーはただ納得いかない素振りを見せる。どこか不満げなジェニファーに、自分の考えを述べる香澄。
「ポイントは二つ。一つめにレナードというファミリーネーム。これはおそらく、リサ婚約する前のファミリーネームではないかしら? 独身と偽ったのも、夫のアーサーを守るためだと思うわ」
「――ということは、このエリザベスっていうのも偽名?」
香澄のいつもながらの冷静な判断力や思考力に関心しつつも、次の質問を投げるジェニファー。すると香澄は、
「これも偽名ではないわ、ジェニー。エリザベスという名前の愛称には、色んな種類があってね――その中の一つに『リサ』という愛称があるの。だから私たちが〝リサ“と呼んでいた女性の本名は、エリザベス・ルティア(レナード)だと思うわ!」
リサ・ルティア=エリザベス・レナードと思う理由を述べた。
人は何らかの悪だくみを考えている時に、“自分の身元はばれたくない”と思う傾向がある。そのため偽名を使うケースが多いが、リサに関してはまったく逆だ。あえて自分の本名で買い物をすることで、“ルティア夫妻は偽名を使っている可能性が高い”とミスリードさせることが出来る。
だがそんなリサの狙いも、香澄の前では瞬時に見破られてしまった。香澄の冷静な判断力と推理力を間の当たりにしたレベッカは、おもわず拍手を送る。
「……すごいわね、かすみ! たったあれだけの情報で、よくそこまでプロファイリングしたものね。……ただの知的好奇心旺盛なお嬢さんではなかったのね」
「ありがとうございます! でもレベッカ、また私のこと〝お嬢さん“って呼んでいますよ。さっき約束したばかりじゃないですか!?」
「あら、私ったら……ごめんなさい。今度から気を付けるわね、かすみ」
さらに不機嫌になる香澄だが、以外にも彼女は子供っぽい性格なのかもしれない。
「二人とも、今は和んでいる場合ではないのですが。……あっ、デイル捜査官。続きをお願いします」
このままでは話が進まないと思ったのか、とっさに空気の流れを切り替えるジェニファー。そして彼女に指名されたことをうけ、調査の続きを説明するダグラスだった。
「と、とにかく僕らはこれからルティア夫妻が買ったとされる、テキサス州の家に行こうと思います。オクラホマ州から一つ南の州だから、車で数時間もあれば行けるでしょう」
本来ならみんなのまとめ役となるはずのダグラスだが、自分が言いたいことを先に香澄に言われてしまう。だが今回は時間を有するケースでもあるため、ダグラスはその気持ちを自分の胸に納める。
「私の車にはかすみ、そしてダグの車にはジェニーとフローラ……の乗り合わせでいいかしら?」
「はい。私たちの準備は出来ています」
「……今度こそルティア夫妻たちの身柄を確保しましょう」
「そうね。……私もAMISAの職員として、彼らを野放しには出来ないわ!」
普段は冷静で穏やかな性格のフローラでさえも、今回のルティア夫妻逮捕にかける意気込みは人一倍。本来はAMISA職員のフローラが率先すべき内容ではないのだが、アメリカ政府直々の命令でもある。フローラの愛国心が試される、そんな瞬間でもあった。
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