10章 予想外のハプニングに遭遇!?

The raid(家宅捜索)

少年と過ごした日々

                一〇章


   カンザス州 ルティア夫妻の家 二〇一五年六月一三日 午前〇時〇〇分

 AMISA・FBI双方から近況を確認した香澄たちは、ルティア夫妻がかつて住んでいた自宅を突きとめる。そこにルティア夫妻・『ルティアNO.Ⅰ~Ⅱ』が身を潜めていると考え、一同はオクラホマ州のオクラホマ・シティへと向かっている。

 香澄たちは予定通りの時刻にカンザス州へと到着し、そこからルティア夫妻の家へと向かう。だがルティア夫妻らが武装していることを考慮して、先にデイル・クレット両捜査官を先頭にしつつ、FBIが突入することになった。

 家の電気は点いておらず、玄関口には鍵がかかっていた。だが彼らが武装している可能性も否定できず、FBIが強行突入する。防弾チョッキを着用したダグラスが指揮を取り、勢いよくドアを蹴破る。

「FBIだ! 無駄な抵抗は止めて、大人しく出てこい!!」


 家全体に響き渡るように声を荒げ、投降するよう呼び掛けるダグラス。続けてレベッカをはじめ、他のFBI捜査官も突入を開始する。

 ダグラスたちはその後も家宅捜索を行うが、一向にルティア夫妻らが身を潜めていたような気配は感じられない。数十分かけて行方を探すのだが、結局彼らの姿を見つけることは出来なかった。


 家の安全が確認されたことを受けて、ダグラスは香澄たちを護衛しているFBI捜査官へその旨を伝える。ここで初めて、ルティア夫妻が住んでいた家に入ることを許される。

「ここがルティア夫妻たちが住んでいた家……ちょっとした豪邸ね」

「本当ね、ジェニー。……数年前にみんなで訪れた、のお家みたいね」

思わずフローラが口にした“トム”という言葉を聞くやいなや、眉間にしわを寄せ不機嫌になる香澄。

「フローラ、今は感傷に浸っている時はありません。今は集中力を保ち続けなければいけないのに……みんなあの時のことを思い出さないようにしているのに!」


 冷静な香澄が声を荒げたことに、思わず身をひいてしまうジェニファー。だがそれはフローラも同じで、その場にふさわしくない軽率な発言をしたことをすぐに謝罪する。

「それもそうね。……ごめんなさい、香澄。こんな時こそ、私がしっかりしないといけないのに……」

すぐに気持ちを切り替えて、“さぁ、私たちも彼らのお手伝いをしましょう!”とフローラは二人を励ます。

 だがそう語るフローラの口ぶりとは対照的に、彼女の瞳はどこか遠く彼方の空を見ているような気がした。そんなフローラの気持ちを察したのか、香澄とジェニファーの表情にも、どこかしら陰りが見え隠れする。


 しかしフローラの何気ない一言によって、香澄とジェニファーらの胸の奥底に眠らせていた、一年ほど前に他界した少年 トーマス・サンフィールドとの楽しかった想い出が一時的に蘇ってしまう。それが原因なのだろうか――両手で顔を覆いながら、今にも泣き出しそうな顔をするジェニファー。

 そんなジェニファーの気持ちを察したのか、肩にそっと手を置きいつもの優しい微笑みを浮かべる香澄の表情が、どこか印象的だった。

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