すべては計算通り!?

  テキサス州 ルティア夫妻の隠れ家 二〇一五年六月一二日 午後九時三〇分

 話の途中で外の空気が吸いたくなったシンシアとモニカは、“ガチャン”と窓を開ける。……これまで空気がこもっていた場所にいたこともあり、ひんやりとした外の空気は美味しい。


 すると二人の眼には、何者かがこちらへ向かってくるような人影が見える。暗くて素顔は確認出来ないが、タイミングからしてルティア夫妻が待ち合わせをしている人物に違いない。その人影を目視したシンシアは、

「あれを見て、モニカ。……間違いない、『ルティアNO.Ⅳ』だよ!」

「本当だね、シンシア。フフフ……やっとが来たんだね!」

まるで家族が迎えにきたかのような屈託な笑みを浮かべている。その気持ちはモニカも同じようで、これまで見せたことがないほどの柔らかい笑顔だ。


 そんな夜の窓辺に映る二人の笑顔だが、なぜか安心を与えるのではなく不安を与えるような微笑み。まるで心の中で、何か悪だくみを考えている悪魔のような微笑みだった。


 シンシアとモニカの心をこれ以上察することが出来ない中、『ルティアNO.Ⅳ』は窓辺に佇んでいる二人を見て笑みを浮かべる。夜に歯並びの良い白い歯が浮かぶのだが、その笑顔が何ともいえず不気味だ。そんな『ルティアNO.Ⅳ』に対し、同じように微笑みで返すシンシアとモニカだった。

 そんな彼女たちの真意を知るはずのないルティア夫妻は、やっと到着した『ルティアNO.Ⅳ』を歓迎する。何食わぬ顔で『ルティアNO.Ⅳ』は挨拶を交わし、そのままリビングへと向かう。


 その後ルティア夫妻は『ルティアNO.Ⅳ』から近況報告を聞き、外で何を学び何を見てきたかノートに書き記している。……この時ばかりは安心しているのか、これまで固い表情だったルティア夫妻にも自然と笑みがこぼれる。どうやら香澄たちの考察通り、ルティア夫妻が『ルティアNO.Ⅳ』に対し、特別な感情を抱いていることは間違いない。

「この間アーサーが電話で伝えたと思うけど、向こうに着いたらあなたにも再検査を受けてもらうわ。……でも安心して。あなただけには不自由な暮らしはさせないわ!」


 母親代わりとも呼べるリサの言葉を聞き、『ルティアNO.Ⅳ』は非常に嬉しそうだ。“ねぇ、あの二人はどこにいるの?”と『ルティアNO.Ⅳ』が尋ねると、

「あぁ、あの二人なら二階の部屋にいるわ――けれどあの子たちはあなたと違って頭の悪い子だから、私たちも手を焼いているのよ」

リサは途端に不機嫌になりつつも、テーブルに置いてあるコーヒーを一口飲む。

「今二人とも部屋にいるはずだから、ちょっと連れてくるよ」

とアーサーが言い残すと、彼はそのままシンシアとモニカが待つ部屋へと向かう。


 それから数分後、シンシアとモニカを連れて戻ってきたアーサー。だがその視線は冷たく、『ルティアNO.Ⅳ』の問いかけにも何も答えようとはしない。それどころか今にももめごとを起こしそうな、険悪な雰囲気が部屋中に漂っている。

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