出国前の待ち合わせ

  テキサス州 ルティア夫妻の隠れ家 二〇一五年六月一二日 午後九時〇〇分

 時刻は夜の九時〇〇分を迎え、周辺も漆黒の闇が支配している。すでにメキシコへの逃亡準備を整えたルティア夫妻だが、何故かシンシアとモニカを連れて国境へ向かおうとはしていない。

「……遅いわね、そろそろ到着しても良い時間なのだけど」

何度も飾ってある置時計の時刻を“チラチラ”と確認しながら、何かが到着するのを待っているリサ。

「慌てるな、リサ。私たちが出発する予定の時刻まで、まだ数時間ある。……万が一出発時刻になってもこちらへ来なかったら、その時はその時だ。むしろこちら側からの突然の連絡だから、その可能性も十分考えられる」

「でも今回国外へ連れて行くのは、シンシアとモニカだけでしょう? あの子まで呼ぶ必要は――」

「――ここだけの話だけど、実はあの子にも再検査を受けてもらう予定だ。むろん再治療を受けてもらう事情は伝えてあるし、あの子もそれは承知済みだよ」

 

 どうやらルティア夫妻は国外逃亡する前に、誰かと待ち合わせをしているようだ。しかも「検査」や「治療」という言葉が彼らの口から度々発せられることから、待ち合わせをしている人物とは、『ルティアNO.Ⅲ・NO.Ⅳ』もしくは関係者だと思われる。

「とにかくもう少し様子を見てみよう。あの子が来たら起こすから、リサは少し横になりなさい」

それを聞いたリサはリビングのソファに体を寝かせ、しばらくの間仮眠を取る。


 コロラド州でルティア夫妻に誘拐されたシンシアとモニカの両名は、隠れ家の部屋で時が来るのをただじっと待っている。誘拐されたことで気が動転しているかに見えたが、以外にも二人は冷静さを保っている。それどころか“ひそひそ”と周りに気を使いながら、何かを話しているようだ。

「私たち、また研究所に連れて行かれるんだね……」

「大丈夫よ、モニカ。今までは離れ離れに暮らしていたけど……今はこうしてあなたの側にいるわ。……いつまでも!」

 ワシントン大学で見せた時と同じように、まるで姉妹のように寄り添い合うシンシアとモニカ。やはり再治療を受けることに抵抗があるようで、ルティア夫妻に対してそれなりの恐怖感を抱いている。

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