Flee the country(国外逃亡)
ルティア夫妻の策略
アメリカ某所 ルティア夫妻の隠れ家 二〇一五年六月一二日 午後六時〇〇分
ハリソン夫妻の自宅で香澄たちがFBIから詳細を聞くほぼ同時刻、ルティア夫妻はアメリカ某所に身を潜めていた。二人はシンシアとモニカこと『ルティアNO.Ⅰ・NO.Ⅱ』を、コロラド州の社会福祉医療センターから誘拐する。
ルティア夫妻が彼女たちを誘拐した目的は、精神が不安定になった二人の治療。しかし治療とはあくまでも表向きによるもので、ルティア夫妻はシンシアとモニカの二人へさらに薬を投与する予定。ルティア夫妻が隠れ家に戻ってくると同時に、用意していた予備の薬をシンシアとモニカへ投与する。
うつ病治療に効果がある神経伝達物質『セロトニン』を投与し、二人の様子を確認するルティア夫妻。だが自分たちの計算とは異なる行動に出る二人へ、ルティア夫妻はどことなく危機感を
「おかしいな……僕らの計算では、シンシアとモニカの二人は大学を卒業するまでは問題は起こさないはずなのだが。こんなにも早く問題が発見されるなんて……」
「一応
自分の考えたシナリオ通りに進まないことに苛立ちを見せるアーサーに対し、あくまでも現状を淡々と述べるだけのリサ。その上でリサは、“シンシアとモニカの二人には、私から注意しておいたわ”とアーサーに説明する。これまで緊張気味だったアーサーの顔にも、わずかに笑みがこぼれる。
そんな話をしながらも、彼らは次の隠れ家へ向かうための準備をしている。すでに警察にマークされていることも知っているようで、事前に用意していた変装セットで姿を変えていた。
「ところでアーサー。いくら変装しているとはいえ、こんなにのんびりして大丈夫かしら? 万が一ここがばれたりでもしたら……」
「大丈夫だよ、リサ。おそらく警察は過去のデータベースを調べて、かつて僕らが住んでいた家や別荘をマークしているだろう。もしかしたらその過程において、警察はFBIに協力を申請するかもしれないけど――その時には僕らはもう国外へ渡っているから大丈夫だよ」
まるで自分らを捜索しているFBIたちの動きは読んでいるかのように、先読みして行動していることを誇らしげに語るアーサー。しかも自分たちが国外へ逃亡するためのルートも、事前に計画済み。事前に用意していた偽名を使用して、逃亡用に使用する家まで購入するとは――さすがIQ一五〇を記録する天才だ。
「仮に警察がここを発見したとしても、その時にはもう僕らは国外にいるから大丈夫だよ。メキシコへの国境は目と鼻の先だよ――このテキサス州はね」
「それもそうね。ごめんなさい、アーサー。あなたの計画に抜かりがないことは知っているのだけど、何だか私不安で……」
「リサ、何も心配することはないよ。この数十年間もの長い年月の間、僕らが考案した【ルティア計画】に何の狂いもなかっただろう? 現に『NO.ⅠとNO.Ⅱ』だって、今は僕らの手の中にあるんだ!」
二人で考案した【ルティア計画】に抜かりはないと言い切るアーサーとは対照的に、リサは心なしか嫌な予感がすると、その表情はどこか重い。
「それとシンシアとモニカから聞いたのだけど……今私たちの行方を追っている組織の一つに、AMISAが関係しているかもしれないけど……どう思う?」
「AMISA? ……あぁ、数ヶ月前にアメリカで設立されたばかりの連邦医療組織のことだろう。その組織のことなら、私も知っているよ。確かシンシアとモニカが在籍していた心理学サークルの顧問が、そのAMISAに所属しているとか。名前は確か……」
「フローラ・S・ハリソンよ、アーサー。“かなり頭の切れる女性”ってあの子たちから聞いているわ。そして“フローラの助手としてやってきたある日本人女性も、中々の切れ者よ”ってシンシアとモニカが言っていたわ」
「助手の日本人女性? それは初耳だな。……ちなみに、リサ。その日本人女性の名前は分かるかい?」
シンシアとモニカの犯行を見破ったと知り、その日本人女性に興味を持つアーサー。するとリサはメモ帳を取り出し、記録されている情報をそのままアーサーへ伝える。
「えぇと確か名前は……あっ、あったわ。名前は
助手としてやってきた香澄の年齢を知るや否や、思わず眉をひそめるアーサー。
「その高村 香澄という女性はまだ二〇代なのかい!? しかもほとんどシンシアやモニカと同じぐらいの子じゃないか!?」
「FBIやAMISAなどの政府機関・これらの組織と関係の深いフローラという女性、そして香澄という女の子の存在――今後さらに敵が増える可能性が高いから、より一層アメリカへ再入国しにくくなるわね」
二人の会話の中でも度々登場するFBIやAMISA、そしてフローラだけでなく香澄の存在を知るルティア夫妻。新たな脅威が増えたことを知り、ルティア夫妻はより一層気を引き締める。
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