ダグラスの決断
ワシントン州 ハリソン夫妻の自宅 二〇一五年六月一二日 午後五時〇〇分
思わぬところでお互いの距離と縮める、香澄・ジェニファーの二人組とレベッカ。だが事態は一刻を争うということもあり、彼女たちの交流を祝うパーティーはまたの機会となる。
二人の捜査官がハリソン夫妻の自宅へ到着してから、数時間が経過……本来なら夕食の支度を始める時間だが、今はそんな悠長なことは言っていられない。
「さて、私たちの今後の捜査についてですが……」
実はパートナーのレベッカが香澄やジェニファーと会話している間に、ダグラスはFBIと連絡を取り合っていた。そこでFBIから最新の調査状況を聞いており、その内容を香澄たちへ知らせる。
それはAMISAに属するフローラも同じで、彼女もまた組織から情報を聞いている。しかもFBIとは異なる角度からの情報で、ルティア夫妻拘束に向けて全力で取り組んでいる。
なおこの度合同捜査を行うことになった【ルティア計画】に関する内容として、捜査指揮権の一部は今香澄たちと一緒にいる、ダグラス・レベッカら両名に委ねられている。よって他のFBI職員や地元警察らは、彼らの指示を待っている状況とも呼べるのだ。
『【ルティア計画】捜査における詳細について』
一 FBIからの最新情報によると、“ルティア夫妻らしき人物・二名の若い女性をミズーリ州の宿泊施設で見かけた”との目撃証言が多数ある。だが情報の信ぴょう性については、あまりはっきりしていないのが現状。
二 AMISAからの最新情報によると、ルティア夫妻が別荘として使用していた建物がオクラホマ州にあることが判明。しかも人通りが多い場所であるため、隠れ家として最適。また表沙汰にされていない、新たな【ルティア計画】に関する資料が見つかる可能性あり。
三 ダグラス・デイルとレベッカ・クレットの二人に対して、単独行動はFBIから認められていない。そのため彼らは香澄たちを連れて、ミズーリ州・オクラホマ州のいずれかへ行くことになる。
四 すでにFBIや地元警察が双方をマークしており、デイル・クレット両捜査官が到着次第、突入する予定。なおマークしているものの、今現在は誰も捜査官が張り込んでいない。また彼らが足を運ばなかった州についても、同じタイミングで突入を行う予定。
五 シアトル・タコマ空港からカンザスシティ空港(ミズーリ州)・ウィル・ロジャース・ワールド空港(オクラホマ州)までの距離は、いずれも約四時間。午後六時前後にいずれかの空港へ出発する手配を取っており、現地へ到着するのは午後一〇時〇〇分くらいと思われる。
六 現地で待機している捜査官やFBIなどから特別な連絡がない限り、双方の突入時間はいずれも午前〇時〇〇分を予定している。
「以上となります。私たちはこれからミズーリ州へ向かいます。……と言いたいところですが、情報の信ぴょう性については
あくまでもFBI捜査官としてのメンツにこだわるばかり、“FBIの情報を信用して、ミズーリ州へ向かう”という判断になるかと思っていた香澄たち。だが実際に決断した彼らの判断は異なり、AMISAが入手した行き先へ向かうことにした一同。
ダグラスとレベッカの客観的かつ冷静な判断力を垣間見た香澄たちは、“この二人は、私利私欲や保身のために動くような人ではない”とどこか心が安堵する。
「はい、私もお二人の意見に賛成です。と言っても、私にはあなたたちの命令を覆すような決定権はありませんけど……」
あくまでも一般市民という立場で協力する香澄は、少し遠慮がちにつぶやく。ジェニファーも香澄と同意見のようだ。
「決まりね。せかすようで申し訳ないけど、三人とも出かける準備をしてきてください。……それからケビン。しばらくの間近辺にFBIを待機させますので、何かありましたら彼らへ連絡してください」
レベッカの口から、捜査に参加しない自分の身の安全も保障してくれると聞くケビン。その言葉を聞いたケビンは、“分かりました、ありがとうございます”と頷く。
香澄たちが出かける準備を終えた後、ダグラスはレベッカと香澄たちを乗せた車をシアトル・タコマ空港へと走らせる。
なお【ルティア計画】関係者を殺害する際に使用されたダチュラとは、トランペットのような黄色・白い花を咲かせることが特徴。南アジアを中心に咲くことが多い可憐な花だが、その外見とは裏腹に猛毒を含んでいるため要注意。
心拍数を増加させるアトロピンに加えて、吐き気やめまいなどを軽減させるスコポラミンなどの成分が含まれている。だがこれらの成分を過剰摂取することで、錯乱・呼吸困難などの症状を発する。強い幻覚作用をもたらす植物や花として、危険視されている。
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