FBI捜査官の到着
ワシントン州 ハリソン夫妻の自宅 二〇一五年六月一二日 午後三時〇〇分
ハリソン夫妻が暮らすワシントン州シアトルでは、今日も強い日差しが照らしている。水分補給が不可欠となり、スポーツ選手にとって注意しなければいけない季節でもある。
そんな太陽が照らしつけるハリソン夫妻の自宅前に、一台の車が停車する。午後三時前後の到着ということもあり、やってきたのは二人のFBI特別捜査官だろう。案の定ドアを“コンコン”とノックする音が聞こえ、
「FBIのダグラス・デイル捜査官とレベッカ・クレット捜査官です。ドアを開けてください」
二人はFBIの身分証を見せる。ドア越しで身分証を確認したフローラは、鍵を開けて二人を家へと招き入れる。その間にフローラもAMISAの身分証を二人に提示する。
ダグラスとレベッカはさっそくリビングへと向かい、用意されていた冷たいレモネードを一口飲み干す。二人とも年齢は三〇代後半から四〇代前半で、ハリソン夫妻たちよりも五歳から一〇歳ほど若い。
一八〇㎝前後あると思われるダグラスだが、ラグビー選手やアメフト選手のようにがっちりとはしていない。だが現職のFBI捜査官ということもあり、運動神経はかなり高いものと推測される。特に射撃の腕前には定評があり、FBIのお墨付きだ。
相棒のレベッカについては、ダグラスより二〇㎝ほど背が低い。しっかりとオフィスカジュアルを綺麗に着こなしており、OLと言われれば間違えてしまうほど。
どこにでもいる女性のようだが、化学の知識に長けたエキスパートでもあり、出身大学では博士号も取得している。その知識はFBIの捜査で存分に生かされており、多くのバイオテロや化学テロなどによる被害の未然に大きく貢献している。
さらにレベッカは日系アメリカ人で、語学においても素晴らしいスキルを持っている。英語はもちろんのこと、母国語の中国語をはじめ日本語も堪能。捜査時において、通訳として活躍することも珍しくない。またアジア系の血を引き継いでいるためか、顔立ちもアメリカ人のジェニファーやフローラよりも日本人の香澄に近い。
本来ならのんびり彼らを出迎えたい状況だが、今回はそんな悠長なことをしている余裕はない。少しでも早く捜査を始めるため、両手をテーブルに置きながら声をかけるダグラス。
「話を始める前に一つ確認しておきたいことが……今回協力という形で、捜査に加わるメンバーを教えて欲しいのですが」
ダグラスとレベッカが視線を真っすぐフローラへと向ける。その問いかけに答えるかのように、フローラは
「はい。こちらの女の子二名が、今回の捜査に協力する予定です。黒髪の女の子が高村 香澄、そして金髪の女の子がジェニファー・ブラウンです。そしてこの子たちの身元については、AMISA職員である このフローラ・S・ハリソンが保証します」
順番に香澄とジェニファーを紹介する。
一方顔色一つ変えずに、紹介された香澄とジェニファーの顔をじっと見つめるダグラスとレベッカ。そして手帳に何かを記録した後、
「……お嬢さんたちはあくまでも一般市民という立場なので、決して無理はしないでください。そして何か見つけた時には私たち、もしくはフローラに伝えてください」
ダグラスの問いかけに、香澄とジェニファーは“分かりました”という意味を込め首を縦に振る。
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