エリノアからのお誘い

 ワシントン州 ハリソン夫妻の自宅 二〇一五年六月一二日 午前九時〇〇分

 FBI捜査官の到着が午後になるとフローラから聞かされた香澄は、自室のテーブルに置いてあるパソコンに向かっていた。午前中の予定が空くという事態になったため、急遽この機会にレポート作成へと取り掛かる香澄。

 

 そんな香澄がいざレポート作成をしようとした矢先、テーブルに置いてあるスマホの着信音がメロディを鳴らす。左手でスマホを取り画面を確認すると、そこにはエリノアの名前が表示されている。

「はい、高村です。……どうしたの、エリー?」

「あっ、香澄。おはようございます。今お時間大丈夫ですか?」

同じく“おはよう、エリー”と挨拶を交わした後、エリノアの要件を聞くことにした香澄。

「……急な話であれなんですけど、香澄。今日の夜から数日の間って、何か予定入っています? もしよかったら私と一緒に、数日間に行きませんか? 実は数ヶ月前に当選していた、セジウィック動物園の無料招待券を持っていたことを、今日になって思い出して」

 エリノアの重要な話とは、セジウィック動物園の観光を目的としたカンザス州への小旅行の誘い。“無料招待券も数枚分あるため、香澄やジェニーと行きたいな”という心の声が聞こえるかのように、どこか嬉しそうに話すエリノア。


 しかし香澄をはじめジェニファーには、この後【ルティア計画】の真相を調査するという重要な仕事がある。調査がいつ終わるかも現時点では未定であるため、せっかくのエリノアの誘いだが、香澄には断るしか選択肢がなかった。

「……エリー、ごめんなさい。一緒に行きたいのだけど、ここしばらく予定が詰まっているの。だからその……カンザス州への旅行や観光は、また今度にしましょう」

出来るだけエリノアの機嫌を損ねないように、優しく理由を説明する香澄。


 電話をしてきたエリノアはとても上機嫌だったため、“最初は問い詰められると思っていた香澄だが、

「ううん、気にしないで。そうだよね……突然“数日間の旅行に行こう”なんて言っても、迷惑だよね!? むしろ私の方こそ、香澄やジェニーの都合も考えずに無神経な質問してごめんなさい。少し残念だけど招待券の期限が今月までだから……私一人で行くね。……しっかりとおみやげ買ってくるから、楽しみにしていてね」

以外にもエリノアはあっさりと納得してくれた。

 本来なら出来るだけエリノアと一緒に楽しい時を過ごしたい状況なのだが、今回ばかりは仕方がない。そう頭で分かっていても、香澄の心は“ズキズキ”とどこか痛みを発している。

「本当にごめんなさい。……それからエリー、一人で旅行に行くからって、あまりお金の無駄遣いしてはだめよ。それと暗くなったら、出来るだけ早く宿泊先に戻るのよ?」


 しっかり者で真面目な性格故なのか、ここでもまた香澄の小言癖が出てしまう。だが香澄が小言癖を言うのは、彼女が心を許している相手に対してだけ。そういう意味では、エリノアは香澄にとって新しい友達、いや……親友になったようだ。

「はいはい、分かっています。しっかりとを持っていくので、ご心配なく!」

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