バージニア州ジョージタウン大学病院二〇一五年六月一一日午後九時一五分

　ジェニファーからの要件を聞き終えた香澄は、同じ部屋にいるフローラへ内容を伝えようと体を動かす。しかし“何かやり残したことはないかしら？”と自分自身に問いかける香澄。

『先にエリーのスマホへ電話してみましょう。ジェニーにもこの任せてと言ってしまった以上、一応先に疑念は晴らしておいた方が良いかもしれないわ』

　ジェニファーの言葉が気になった香澄はスマホの電話帳を開き、エリノアの番号へ電話をかける。すると数コールほど呼び出し音がなり、

「……はい、ベルテーヌです」

と聞き慣れた女性の声が聞こえてきた。すぐにエリノアだと確信した香澄は、

「あっ、エリー？　香澄だけど……今大丈夫かしら？」

少し時間が欲しい旨を伝える。電話口のエリノアも“えぇ、大丈夫です”と言ってくれた。

　だが現時点において、【ルティア計画】について絶対に口外しないようにフローラに口止めされている香澄。それは親友のエリノアに対しても同じで、香澄は口を滑らせないように電話した口実を作り上げる。

「実はジェニーから“何度かエリーのスマホに連絡した”って聞いたの……だけど“あなたが電話に出ない”ってジェニーが言うから、それで様子が気になって電話したのよ。……こんな時間にごめんなさい」

ジェニファーから自分のスマホへ連絡があったと香澄から聞いたエリノアは、

「もしかしてそれって……今から数十分から一時間くらい前のお話ですよね？　その時だったら私、シャワーを浴びていたんです。だからジェニーからの電話に出れなかったのね。……ごめんなさい。後で私からジェニーへ電話して、謝っておきますから！」

自分が電話に出なかった理由を説明した。

　事情を知ったエリノアは“すぐにジェニーへ連絡する”と言ってくれたのだが、今彼女のスマホへ電話されるのは非常に困る。それは得策ではないと判断したのか、

「あぁ、それだったら別に気にしないで。私から後でジェニーへ説明しておくから」

エリノアの機嫌を損ねないように言葉を返す香澄。

　そんな香澄の言葉に納得したエリノアは、“今日はもう遅いので、もう切りますね。……おやすみなさい、香澄”とだけ言い残しスマホを切る。

　一方でエリノアの無事を確認した香澄は、“これで心おきなく調査に専念出来るわ”と【ルティア計画】阻止に向けて、全力を尽くすことを心の中で誓う。

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