行方不明の二人

バージニア州 ジョージタウン大学病院 二〇一五年六月一一日 午後九時〇〇分

 一言断りを入れたロバートが部屋を出たことにより、部屋には香澄とフローラの二人だけが残されていた。彼女たちは今まさに窮地の選択に迫られているが、【ルティア計画】の真相が判明した以上、のんびりと事を構えている余裕はない。何とか冷静さを保っているフローラは、

「香澄。私は今回得た情報を、早急にAMISAへ報告するわ。少し時間がかかりそうだから、その間にあなたはジェニーへ連絡して。ジェニーからメールで何回か連絡があったみたいだから、私の代わりに香澄が要件を聞いてちょうだい」

自分の役割を伝えつつ、ジェニファーからの要件を聞くように香澄へ依頼する。

「はい、分かりました」


 香澄へ役割を伝え終えたフローラはスマホを取り出し、AMISAへと連絡する。的確かつ迅速にAMISAへ連絡していたことから、フローラはある程度こうなることを予測していたのかもしれない。

「こちらAMISA所属のフローラ・S・ハリソンです。IDは……」


 自分の横でAMISAへ報告しているフローラとは別に、自分のスマホを確認する香澄。するとそこには、フローラの言う通りジェニファーからと思われる、数件におよぶメールの着信履歴が表示されていた。内容を確認すると、“早急に伝えたいことがあるから、出来るだけ早く私のスマホへ連絡して!”とのこと。メールの内容を確認した香澄は、すぐにジェニファーのスマホへ連絡を試みる。この時の時刻は午後九時〇〇分。

「はい、ブラウンです。この番号は香澄ですよね!? な、何度か二人にメールしたんですけど……今大丈夫?」

 どこか興奮気味のジェニファーを落ち着かせようと、“分かったから、少しは落ち着いて”と説得する香澄。香澄に言われて、電話口で軽く深呼吸をするジェニファー。

「た、大変なんですよ、香澄。今から一時間くらい前に、コロラド州の医療福祉センターから連絡があって――んです!」

「な、何ですって!? ジェニー、それ本当なの!?」

シンシアとモニカの両名を保護しようと考えていた香澄だが、すでに何者かに先手を打たれてしまったようだ。


 だがジェニファーが香澄へ伝えたい案件はそれだけではないようで、電話口からでも彼女の動揺ぶりがうかがえる。

「じ、実は他にも伝えたいことがあるの。さっきから何度かエリーのスマホへ連絡しているんだけど、彼女とも連絡が取れないのよ。香澄、私どうすればいいの!?」

 ジェニファーの言葉を聞いた香澄には、ある予感が脳裏をよぎる。今回失踪したシンシアとモニカの両名は、以前エリノアに対しいじめを行っていた事実がある。しかも実際に手を下そうとしていた瞬間を目撃していたこともあり、最悪の状況を思い浮かべてしまう。


 だがその一方でシンシアとモニカの両名は、【ルティア計画】によって作られた、『ルティアNO.Ⅰ』『ルティアNO.Ⅱ』である可能性も浮上している。その仮説が正しかった場合、シンシアとモニカを連れ去ったのはおそらくルティア夫妻。何らかの方法で二人の居場所を突き止めたルティア夫妻は、急遽彼女たちを誘拐したものと思われる。


 むしろ【ルティア計画】の実態を知った今では、そちらの可能性が濃厚。しかし今ジェニファーに詳細を説明している時間はなく、とにかく冷静になるようにと香澄は説得する。

「詳しい事情は後で説明するけど、エリーの行方についてはおそらく大丈夫よ。だからジェニー、今は落ち着いて……ね?」

「も、もしかして香澄。病院で【ルティア計画】に関して、新たな事実が判明したんですか!?」

「えぇ、もちろんよ。だから今は冷静になってちょうだい。……後でまたかけ直すから、いつでも連絡取れるようにして。お願いよ!」

 強い自信に満ちた香澄の声を聞いたジェニファーは、“ここは香澄の言う通りにしよう”と思いながら、

「……分かりました。でも出来るだけ早く電話してくださいね、香澄」

ひとまずスマホの電源を切った。

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