ルティア計画の目的とは!?
バージニア州 ジョージタウン大学病院 二〇一五年六月一一日 午後八時三〇分
ルティア夫妻が残したと思われる【ルティア計画】の全容を知る香澄とフローラだが、想像を絶する内容のあまり言葉を失くす。だが瞳にはしっかりと彼女たちの感情が表れており、哀しみや憐れみではなく怒りに満ち溢れていた。
「ほ、本来心理学や医学は人を救うためにあるものなのに――この人たちは自分たちの欲望を満たすために利用している。それも人の弱みにつけこんで。こんなこと、絶対に許せないわ!」
ノートが破れそうなほど強く、かつ歯を噛みしめながらも、自分の素直な気持ちを表現した香澄。そんな香澄の気持ちに共感しつつも、彼らが行った計画に強い憤りを感じているのはフローラも同じ。
「そうね、香澄。人の命をもてあそぶ行為なんて、どんな理由があっても許されるものではないもの」
怒りの気持ちをあらわにしつつも、何とか落ち着きを取り戻そうと深呼吸する香澄とフローラ。普段の冷静さを取り戻した二人は、ルティア夫妻が残したノートとカルテに再度目を通す。ノートとカルテに目を通す香澄とフローラに対し、彼女たちが感じていた疑問点について問いかけるロバート。
「資料に目を通しながらで良いので、教えてください。フローラ、そしてお嬢さん。ルティア夫妻が行ったとされるこの【ルティア計画】の真の目的は、一体何だと思いますか?」
これらの資料を用意してくれたロバートの問いかけに対し、そっと視線を向ける香澄。
「……確証はありませんが、ルティア夫妻は純粋に子どもが欲しかったのではないでしょうか? 最終的に治療は暴走してしまいましたが、当初は彼らもこんな結果は望んでいなかったと思います」
「それは一体……どういうことですか、お嬢さん?」
ある意味予想外とも呼べる香澄の発言について、まるで答えの見当がつかないパロバート。それは横でカルテをチェックしていた、フローラもまた同じ考えだった。
「この仮説は、私が最初にルティア夫妻について知った時のことです――リサは若くして、子宮内膜症という妊娠が困難になる病気を発症しています。そしてノートに何度も、彼らの子どもとして誕生した『ルティアNO.Ⅳ』という単語が出てきます。二人はこの『ルティアNO.Ⅳ』に対して、特別な愛情を抱いていることは明らかです――しかし誤解しないでください。彼らに多少は同情の余地もありますが、だからといって彼らが行った行為を肯定するつもりはありません!」
自分なりにルティア夫妻の心理状態を分析した結果を述べたうえで、ワシントン大学で受け取った、謎の人物からの資料をロバートへ渡す香澄。彼が資料に目を通すと、確かにリサが子宮内膜症を発症していることが書かれていた。ロバートはその内容を一読した後、資料を香澄に返す。
簡潔に【ルティア計画】の目的について、自分なりの考えを述べた香澄。香澄の鋭い洞察力・観察力に驚きつつも、ロバートも彼女の考えを全面的に支持する。
ロバートの会話が一通り終わったのを見計らったフローラは、香澄に次の質問をする。先ほどまで自分が読んでいたカルテを香澄の前に広げながら、
「次は私からの質問よ。ルティア夫妻が作った、いえ……彼らが誕生させた子どもたちについて思ったことや感じたことを、あなたの言葉で良いから聞かせて。香澄」
『ルティアNO.Ⅰ~NO.Ⅳ』に対する率直な意見を尋ねる。なお作るという言葉にはどこか命を軽んじる意味合いが取れるためか、オブラートに包んだ表現に言い換えるフローラ。
「はい。現状における、私なりの考えについてですが……」
この時の香澄の表情は、どことなく陰が見える。これから自分が語ろうとしている内容は、それほど恐ろしいものなのか? “すべて夢であって欲しい……そして私の勘違いであって欲しい”そんなわずかな期待を心に秘めながらも、頭の中で最悪の事態を危惧する香澄。そんな心の葛藤に悩まされながらも、どこか苦悩した様子を見せる香澄の姿が印象的だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます