Cloning technology(クローン技術)

ルティア計画の全容とは!?

        『【ルティア計画】の真相・研究結果について』


 [私たちがマスコミやメディアにこの【ルティア計画】を発表してから、早いものでまもなく数ヶ月を迎えようとしている。被験者の組織サンプルも無事採取し、このまま順調に治療が進むはずだった――だが実際に治療を始めてみると、新たな問題が次々と浮上する。

 当初の予測では成功率も八〇%前後――という高い数値を記録していた。しかし実際に治療を行ってみると、私たちの予測とは異なる結果が次々と出てしまう。実際には成功率は半分以下に下がってしまい、無事産まれたと思っていた子どもたちも次々と命を落としてしまう。また最初は成功したと思っていても、数ヶ月後に体調不良を起こし、そのまま亡くなってしまう子どもも少なくない。


 想像をはるかに超える死亡率を目の当たりにしたことをうけ、私と妻のリサは姿を消すことを決意する。このような事態を私たちは想定していなかったわけではなく、アメリカを出るための準備はすでに整っている。私たちが出国した後、アメリカでは【ルティア計画】についてメディアやマスコミなどが騒ぐだろう。だがそれも時間の経過と共に、人々の関心や記憶も薄れるだろう……と私たちは考えている。

 アメリカ出国後の生活については、私たちは特に不安を感じていない。私たちが研究したこれらのテーマについて、欲しがる国や組織はいくらでもある。すでにある組織からオファーが来ているため、私と妻のリサは安心して研究が続けられる。


 表向きは失敗という形で幕を下ろした【ルティア計画】だが、一〇名ほどの生き残りがいる。被験者から集めた遺伝子を組み合わせた子ども、そして私たち夫婦の遺伝子が使用して作られた子ども。その内の数名は高い知能を持っており、私たちの予測を超えるIQ一六〇以上を記録した。私たちのIQ一五〇を超える数値が出て、良い意味で予想外の結果。


 しかし問題点や改善点も多く、一番の欠点はを起こしやすいことだろう。最初は暴言を吐く・言うことをきかない程度だが、これが悪化すると盗みや殺人にまで発展してしまう可能性がある。

 これらの問題点が発見されるとはいえ、せっかく作りだした子どもを手放すわけにはいかない。そこで私は大学で学んだ心理学の知識を活かし、子どもたちをマインドコントロールすることを思いつく。自我に目覚める前にマインドコントロールしてしまえば、子どもたちを永遠に自分の手元に置くことが出来る。


 上記でも少し触れたが、この【ルティア計画】で誕生した子どもの数は、全部で一〇名ほど。その中でも優秀な頭脳や遺伝子を持つ子どもたちへ、それぞれ『ルティアNO.Ⅰ~NO.Ⅳ』と名付けた。

 この計画を実行するにおいて、『ルティアNO.Ⅰ~NO.Ⅲ』の三名は、被験者の遺伝子を使用して作られた子どもたち。そして『ルティアNO.Ⅳ』については、私たち夫婦の遺伝子を使って誕生させた子ども。


 その中でも『ルティアNO.Ⅳ』は、四名の中でも一番優れた知能を持っている。現に『ルティアNO.Ⅳ』は問題を一度も起こしておらず、まさに私たちの理想の姿の結晶と言えよう。……この中で一番優秀な子どもが『ルティアNO.Ⅳ』であることは、誰の目から見ても明白だ。

 今でこそ『ルティアNO.Ⅰ~NO.Ⅳ』が存在しているが、子どもたちを誕生させる上において、多くの犠牲を払ったこともまた事実。子どもたちを誕生させる過程の中で、私たちは多数の神経伝達物質を使用した。その影響のためか、多重人格(隔離性同一障害)という問題やリスクを抱えてしまう。

 なおこれらの子どもたちを誕生させるまでに、数十体ほど犠牲になった。……しかし科学の発展に犠牲はつきものだ。これも致し方ない。


 幾多のマインドコントロールの結果、子どもたちは私たちの言うことを何でも聞くようになった。そこでさらなる研究を進めるため、『ルティアNO.Ⅰ~NOⅢ』については被験者の家族に“治療は無事成功した”と報告する。

 また『ルティアNO.Ⅳ』については、私たち夫婦が育てることになった。だが頃合いを見計らって、『ルティアNO.Ⅳ』を赤の他人に育ててもらうことを思いつく。

 私たちの周辺には何かと危険が多いため、『ルティアNO.Ⅳ』にも普通の生活を体験してもらう必要がある。ごく普通の子どもとして暮らし、普通の子どもとして社会に溶け込んでもらう。その際に半年~一年ほどの感覚で、秘密裏に定期的な連絡を取り合うことを約束した。


 だが子どもたちは【ルティア計画】の成功体であると同時に、一種の『クローン』でもある。いずれも精神が不完全であるため、定期的な検査や治療なども不可欠。そこで心から信頼する友人へ、私の代わりに『ルティアNO.Ⅰ~NO.Ⅲ』の検査を依頼する。

 また人に危害を加えるといった反社会的行動は、二五歳前後までは出ないと私たちは予測している。さらなる研究を行うために、子どもたちが物心つく年齢になると同時に、被験者に返す予定だ。……その際に“ビタミン剤の投与”という名目で、私が信頼する医師が経営するクリニックへ通院することも、条件として提案する。

 

 なお『ルティアNO.Ⅰ~NO.Ⅲ』を誕生させる上において、被験者から多くの組織や細胞を集めた。しかし最初の実験では遺伝子が上手く反応せず、治療は失敗してしまう。その一方で優れた細胞であったことを早く発見した私たちは、その組織を密かに培養する。その培養した組織を使った実験を何度も繰り返し、無事誕生したのが『ルティアNO.Ⅰ~NO.Ⅲ』。

 これらの成功と失敗を繰り返し行った結果、私たちは自らの細胞や遺伝子を使い一人の子どもを誕生させた。それが『ルティアNO.Ⅳ』で、IQ一八〇と驚愕する知能指数を記録した。『ルティアNO.Ⅰ~NO.Ⅲ』の長所を引き継いだ究極の生命体とも呼べ、まさに私たちが作り上げたかった子どもだ。……すべてを犠牲にしてきたが、これでやっと報われる。


 また入念に実験や研究を進めたとはいえ、いつ子どもたちへかけたマインドコントロールが切れるか分からない。万が一子どもたちが口でも滑らせたら、これまで私たちが積み上げてきた研究成果がすべて水の泡になってしまう――それだけは何としても避けなければならない。

 万が一そのような傾向が出始めた時には、私たちが直接子どもたちのもとへ向かい、さらなる治療もしくは口を封じる必要がある――せっかく作り上げた子どもたちを無くすのはつらいが、これも仕方のないことだ。

 

 仮に『ルティアNO.Ⅰ~NO.Ⅲ』の口を封じることになっても、私たちには『ルティアNO.Ⅳ』がいる。完璧に私たちの言うことを聞いてくれる、従順かつ理想の子ども。それに比べると、『ルティアNO.Ⅰ~NO.Ⅲ』はまだまだ改良の余地が必要だと思われる。

 最悪の事態を予測した内容とはいえ、私たちも『ルティアNO.Ⅰ~NO.Ⅲ』へこれ以上の負担はかけたくない。これ以上子どもたちの遺伝子を操作すると、私たちも予想出来ない副作用が発生する可能性があるのだ。

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