Rutia Experiment(ルティア計画)
悪魔に魅せられたルティア夫妻
ワシントン州 ハリソン夫妻の自宅 二〇一五年六月九日 午後三時三〇分
リビングでつかの間の休息を楽しんだ香澄は、コップにアイスティーのおかわりを入れてから自分の部屋へと戻る。そして部屋のテーブルにそっとコップを置いて、途中まで読み進めていたファイルに再び目を通す。
『ルティア夫妻が提案した【不妊治療】について(二)』
[マスコミや医学界、そして利用者の間で大きな反響を呼んだ新たな【不妊治療】。ルティア夫妻の名や知名度も急上昇するが、その名声は長くは続かなかった。最初は順調に進んでいたかに見えていた治療だが、後に次々と問題が発覚してしまう。
表向きは“同じ症状で悩む人を救いたい”という内容だが、その実態は“自分たちが望む子どもを作りだす”というもの。それも命の誕生という形ではなく、命を作るという社会論理に反した方法で行われていたのだ。
純粋な気持ちで“子どもが欲しい”という人の願いを逆手に取り、ルティア夫妻は妊娠を希望する人たちを実験に利用していた可能性が浮上する。その多くは実験中に死亡してしまう事例が多く、成功率は限りなく低いという実態が隠されていた。
しかもこの研究や治療法の問題点を知っていた上で、
最初に報告していた無事生まれたとされる赤ん坊でさえ、治療から数ヶ月後に亡くなったという噂がある。ルティア夫妻はこのニュースを否定しているが、今となっては誰も彼らの言葉を信じようとしない。
次第にマスコミはルティア夫妻が行った行為に対し、“とても許されるものではない、彼らは現代のナチスのようだ”と強く非難した。同時に彼らが起こした今回の騒動を、マスコミやメディアは【ルティア計画】と呼んでいる。
ルティア夫妻へ失望しているのは遺族やマスコミだけではなく、彼らを雇用していた病院側も同じ。当初は天才医師になるとまで期待されていたが、今ではその名声も地に落ちてしまう。病院側は医学界の信頼を大きく損ねたことを理由に、ルティア夫妻の医師免許はく奪について検討していた。
だが正式に処分が言い渡される前に、ルティア夫妻はこつぜんと姿を消してしまった。煙のように突然表れ、煙のように突然消えてしまったことから、“本当に彼らは実在する人間なのだろうか?”といった内容のデマや憶測なども、事件当初は流れていた。
なお今回の【ルティア計画】において、無事誕生した赤ん坊は一〇名ほど。まったく無計画な【不妊治療】ということでもなく、実際に子どもが誕生した実例もある。その結果、時の流れとともにルティア夫妻という名前の関心はマスコミから少しずつ薄れていく。
色々と悪評が流れている【ルティア計画】だが、ルティア夫妻が裏で数名の子どもへ目を付けていたという噂がある。普通に歳を取るという点では同じだが、【ルティア計画】で作られた子どもの特徴は様々。
一番の特徴はIQ(知能指数)が高いということで、数値で表すといずれも一六〇以上あることが確認されている。しかも幼少期のIQであることから、ルティア夫妻は一種の天才とも呼べる。
平均以上を記録する数値の詳細については、ルティア夫妻のIQが高いということが、大きく関係していると思われる。実は治療や研究の裏側では、ルティア夫妻が自分たちの遺伝子を使い、それを培養して密かに実験を行っていたと推測される。
そして何食わぬ顔をして“治療が成功した”と患者に伝え、ルティア夫妻が指定する病院や医師へ定期健診を受診するように指示する。……そこまで計算して【ルティア計画】を実行した彼らは、悪魔の誘惑に魅せられたのだろうか?
だがその一方で、問題点も多く浮上する。一種の遺伝子操作によって作られた存在であるためか、子どもたちの精神が不安定になってしまうことが多いようだ。具体的な症例・症状は不明だが、反社会的行動に出やすくなる傾向があることは間違いない……]
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます