エリノアへの配慮
ワシントン州 ワシントン大学(教員室) 二〇一五年六月八日 午後八時〇〇分
今回入手した謎の人物の目的・ファイルの中身などについて、軽く議論を行った香澄たち。色々と話が弾んでいく中で、時刻は午後八時〇〇分を指していた。
「あら、もうこんな時間ね。難しいお話はこれくらいにして、今日はこれで帰りましょう」
「はい、私もうお腹ペコペコですよ」
「ふふ、ジェニーたらお行儀の悪い。今日は主人も外で夕食を済ませるみたいだから、久々に外でお食事を食べましょうか? 場所はそうね……私が良く行くお店はどうかしら?」
ケビンの帰りが遅くなることを考慮した上で、今日の夕食は外で食べることになった。続いてフローラは、少し難しい顔をしている香澄に同じ質問の答えを問いかける。
「そうですね……今日は少し疲れたので、調べ物はこれくらいにしようと思います」
「決まりね。私は先に駐車場へ行くから、二人も準備が出来次第来てね」
「はい、分かりました。それではまた後ほど……」
先に駐車場へ向かうため、一足先に教員室を出るフローラ。
そんなフローラを見送ってから数分後、世間話をしながら駐車場へゆっくりと向かう香澄とジェニファー。二人が駐車場へ向かうと、すでにフローラが車の中で待っていた。
「遅いわよ、二人とも。さぁ、乗って!」
フローラに誘わるがまま、香澄とジェニファーは車の後部座席へと乗る。両名が乗ったことを確認したフローラは、そのまま車を走らせる……
久々の外食ということもあり、お互いに話が弾む香澄たち。フローラおすすめのお店ということもあり、味の方も絶品だった。同時に普段はなかなか利用出来るような場所でなかったことから、二人にとって貴重な体験にもなる。
レストランで食事を終えた香澄たちは、そのまま車で自宅へと向かう。自宅へ戻るまでの間に、香澄の脳裏にある疑問が浮かぶ。
「……ところで、ジェニー。今日はエリーと一緒ではなかったの? 確か今日の午後に、“エリーとフローラの三人一緒に図書館でお勉強する”って言っていたから……」
「えぇ。私とフローラが教員室へ戻る少し前まで、一緒にいましたよ。その後“エリー。たまには一緒に帰ろう”って誘ったのだけど、“すみません、この後用事があるので”ってエリーに断られてしまって……」
二人の会話に登場する“エリー”ことエリノア・ベルテーヌは、香澄たちが解決した『いじめ疑惑問題』の被害者でもある。だが加害者であるシンシアとモニカが大学を去ったこともあり、エリノアの心は少し救われたはず。これからは彼女も楽しい大学生活を送れる……そう思っていただけに、香澄の心境は非常に複雑。
「そうだ、楽しそうな会話に水を差して悪いのだけど……」
車のハンドルを握りながら、途中で香澄とジェニファーの会話に入るフローラ。
「香澄が見つけた謎のファイルや調べ物をしていることは、エリーには内緒にしましょう。必要以上に波風を立てることは、あまり好ましいとは思えないもの……」
いじめは解決したと思っているエリノアに対しての、フローラなりの配慮だろう。そんなフローラの気持ちを察したのか、ゆっくりと首を縦に振る香澄とジェニファー。二人の合図を確認したフローラは、いつもの穏やかで優しい笑顔を見せてくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます