第46話 目覚め
目を覚ますと、猫耳の七海が前にいた。
あれから、何時間経っているのだろう。体感では何日も経過しているが、少なくとも餓死はしていないし、点滴を打たれている様子もないのだから、そんなには経過していないと思われる。
少しすると、七海が起きて、寝ぼけ眼で左右を確認して、時計を見た。
「きっちり一時間。これも成功だ」
七海が猫耳をつけたまま、ガッツポーズをする。
「あ、奏。よかった。君も起きていたか」
なんか微妙に不穏だな。起きなかったらどうするつもりだったんだ。
言いたいことは山ほどあるが、とりあえず今は早く帰りたい。が、
「さて、まだまだ実験の途中だからやるべきことはたくさんあるぞ。奏、まずは感想を聞かせてもらいたい。君が来てから少しの説明をして、ゲームをして1時間15分。まだ時間は十分にある」
七海は帰してくれるつもりはないらしい。
「……とりあえず、今日は帰っていいか。疲れたんだ……って1時間?」
あれだけのことをして、1時間しか経っていないのか。
「そうだ。素晴らしいと思わないか? 脳はあらゆる可能性を秘めている。あれだけのことが外の世界ではわずか1時間に調整できる。ゲームをしていて知らない間に死にました、では話にならないからね。ということで、少なくとも体力的には1時間ほど寝ていた程度だから、まだ時間的にも体力的にも問題はないはずだよ」
「重要なことが抜けてる。精神的な疲れがハンパない……お前に言いたいことも山ほどあるが、もう考える気力がない」
「なるほど。脳に過負荷がかかった可能性がある。これはこれで貴重な話だ。よし。脳波データもとっていることだし、今日はこれでいいことにしよう」
七海が計器に向かう。
「……お前は大丈夫なのか?」
「これくらいなんてことはないよ。ボクの脳波データもとってあるから、キミのデータと見比べてみるよ」
タフなことだ。
「じゃあな」
「ああ、ありがとう」
七海の声を背中に家路を急ぐ。
頭の感覚と体の感覚が離れている感じがする。ゲームの世界では痛みはともかく、疲れなんてなかったからな。
家に着いた途端、着替えもせずにそのままベッドに倒れ込む。
次に目が覚めた時は、夕食の時間だった。珍しく家族3人そろった食事だ。そういえば、開発がちょうど終わったとか言ってたか。
「帰ってきてすぐに寝てたみたいだな」
「……ファミコン版のドラゴンファンタジー2をクリアしたよ。確かにアレに比べれば、今のゲームはヌルゲーだったよ」
今日、クリアしたゲームの感想を言う。
「 そうだろ! アレこそが昔の難易度を象徴するゲームだな。あそこまで難しいのもなかなかなかったが、それでアレか? 攻略サイトは見たのか?」
「いや、見ていない。少しだけ見ていた七海には教えてもらったが、七海の性格、親父も知ってるだろ? 敵の情報は教えても、クリアの仕方は教えてもらえないんだよ」
「そうか、それでクリアしたのか。それはすごいぞ。お前もゲーマーになったもんだ」
親父は上機嫌だ。なんだ、感動の共有ってやつかな。
「そうねぇ。あのゲーム、あなたがクラスで一番先にクリアして自慢してたものね。あの頃のクラスの男子ってすごくそれで盛り上がってたから」
「まぁ、偶然もあったけどな。ラスボス戦でどうせ死ぬならってヤケクソになって魔法しか使えない王女に武器持たせて攻撃したらよくてなぁ。今で言うバグってやつだが、当時は裏技って言ってたな。アレがなかったら勝てなかっただろうな。実際、アレなしで何回も戦って、何回もやられたから」
なんと、アレを発見したのは親父だったのか。そりゃ自慢もするわ。
「疲れたか?」
「疲れた。即死魔法にも苦労したし、ダンジョンの作りにも苦労した。あの制作者絶対性格悪いだろ」
「まぁ、確かに疲れるな。だが、クリアした時はどうだ?」
……達成感というのか、あれは。
声で表現するなら『やっったあぁぁ……』と収束していく感じ。
最初は達成感、次いでくるのが安堵。最後は疲れだな。
俺が、そうだなぁ……と考えていると、顔色を見て、親父が口を開いた。
「うん。そうだ。そんな感じだ。俺もそうだった。最後はあっけなくてな。エンディング後もちょっと帰り道が分からなかったり、達成感の次が、これでクリアだって思うと何か熱中してた分疲れてたのか、すごく眠くなった。そりゃ、帰ってきた途端に寝ることになる。ただ、あの難易度だからこその感覚ってのがあるからな」
「まるで、小学生に戻ったみたいね。あの時もそんな感じだったわ」
母さんが懐かしそうな顔で、親父を見る。
確かに、最近のゲームはラスボス戦でも普通に戦えて、一方的にやられるということはないし、どちらかというとアイテム集めなどのやりこみ要素が多い分、敵の強さもアイテムの強さに比べれば、弱い気もする。
「とにかく、親父の言っていた今のゲームがヌルゲーっていうのは理解できた。昔のゲームが鬼畜だっただけかもしれないけどな。とりあえず、今日は寝る」
「そうしろ。ゲームも健康じゃないとできないからな。風呂は入っておけよ」
ここで、勉強云々言わないのが、俺の両親のいいところだ。勉強よりもゲームが将来の役に立っている分、何も言えないのが本音かもしれない。
理解のある両親に感謝しつつ、俺は眠りに落ちた。
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