第45話 エンディング

「それにしてもギリギリだったね」

 七海が言う。

 七海のバグ攻撃がなければ、到底削りきれなかった。回復ができないデメリットを差し引いても、あの攻撃は大きかった。どうせ、回復しても相手に回復されれば最初からやり直し。

 そういう意味では、回復を捨ててでも攻撃に出た判断は正しかった。


「……まったく、あの攻撃には驚いたな」

「実に爽快だったよ。ちなみにまだ装備できてるんだ。もう魔物は出ないし、意味のないことではあるが、もう一度試したいとは思っている」

 七海が何回か素振りをする。

 RPG全般に言えることだが、フィールドにおいて味方を攻撃するコマンドがなくて本当によかった。冗談めかして言ってはいても、挙動が明らかにヤバい。街中で警察が見たら、職務質問どころか拳銃を構えて、威嚇されるレベルだ。


「しかし、どういう設定か知らないけれど、精霊もすぐに回復して、生きかえらせてくれるだけの力があるなら、攻撃を受けたらすぐに回復とまではいなくとも、ターン毎に回復するぐらいの力はあるはずだよ。ゲームシステムかもしれないが、そこはきちんとした説明が欲しいところね」


 それには俺も同意だ。


「まぁ、終わったことだ。とりあえず、帰ることにしよう」

「確かに。そうだね。で、どうやって帰るんだい?」

「……普通にアベルの移転魔法で祠まで戻って、祠から最後の町に戻って……」

「それから?」

「……」

「最後の町からどこに行けばいいんだい? ボクは倒すところまでは調べたけど、そこからは調べてないんだ」

「……町の人に聞いて、分からなかったら、最初に戻ろう。一応、王様の命令で旅立ったんだから、最初の城ジーノに向かおう」

「そんなところだね」


 アベルに移転魔法を使ってもらい、最後の町に戻る。

 町では、平和が戻ったことの喜びの声は聞けたが、どこに行けばいいかは全く教えてもらえなかった。


 最後の最後まで、不親切。

 仕方ないので、町の近くに停泊していた船に乗る。


「ところで、ここから最初の城までの道のりはどうだったか覚えているかい?」

「……海か、何もかも、みな懐かしい」

「ボクにはそのセリフがえらく古いとも思えるが、そんなことよりも現実逃避しないでくれ」

 

 現実逃避もしたくなる。敵が出ないとは言え、海をまた彷徨うことになる。


 海はひろいぃなぁ~。おおきぃいなぁ~。


 こういうときに限って、目的の場所には行けない。見つけるのに苦労した場所ほど見つかるというのに、どうしても最初の町だけには行けない。

 あげくの果てには

「奏、もしかして、キミはボクと船旅をしたいのかい? ボクもキミとならやぶさかではないが、現実に戻ってからでも遅くあるまい」

なんて言う。


 さらっと、なんか気になる発言だった気もするが、今はそんなことよりも帰りたいのだ。


 広く大きい海をとにかく移動していく。

 ……あれは、ダイータの町?

 皆のお宿のフレーズも懐かしい町だ。比較的海が近くにあり、全滅した時にすぐに船に乗ることができた。


「……陸路だ! 陸路なら確実だ!」


 急いで陸に向かい、船を捨てる。

 

「あの船、借り物じゃなかったっけ?」

「知らん! どちらにせよ乗り捨てるしかいないんだし、仕方ない」

 そうだよな。RPGにおける乗り物系って基本借り物なはずなんだが、全部乗り捨てられる運命にある。


 特に船はそうだ。空を飛ぶものは鳥の背に乗ったり、じゅうたんに乗ったりと移動ができそうなのが多いが、船はそうはいかない。そのまま置きっぱなしにするしかない。

 

 少し遠いが、確実に帰ることのできる場所だ。

 ダイータの町にはよらずに、ジーノの城を目指す。


 魔物が全くいないからスムーズに進む。もうジーノの城だ。むしろここまで近かったのかと驚くレベルだ。


 七海なんかは

「こんなに近いのに、あんなに時間がかかったのかい?」

と言い出す始末。


「まぁ、確かにシバミアクも魔物さえ出なければ近かったから、そんなもんかもしれないね」

とは付け加えてくれたが。


 ようやくジーノの城に着くと王様が待ち構えていた。どうやらここで正解のようだが、両脇には兵士が並んでいる。はっきり言って、物々しいから止めて欲しい。


「……モーセのようにあの真ん中を行くのには勇気がいるんだけど」

 七海がささやく。

 俺だってそうだが、話しかけなきゃ始まらないだろう。

 兵士の真ん中を進み、王様に話しかける。


「おお、奏よ。よくぞ邪神を打ち倒した。これからはお前が王となるのだ」

 兵士達から歓声があがる。


「そして、平和が再び戻った!」

 

 目の前が暗くなり、今まで行った城やダンジョンが脳裏に浮かび、スタッフロールが流れる。走馬燈というのはこんな感じなんだろうか。


 ……うん。これがいわゆる【戦犯リスト】ってやつだ。


「こいつらが戦犯か、こんなゲームを作りやがって、何考えていたんだ」

と独り言を言う。


 すると、意外にも

「最終盤はとにかく発売日を考えていたんじゃないか? バランスなんて考える余裕なんてなかっただろうね」

との答えが返ってきた。


 暗闇でも会話はできるようだ。

 ……一番の戦犯は身近にいたか。


 そして、脳裏に浮かぶ『THE END』の文字。

 始まりも終わりも、あっさりにしている。


 しかし、ようやくこれで帰れるんだ。全身から力が抜けていく。


 俺の意識はそこで暗転した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る