第44話 やれることは一つ
お前さえ倒せば、このゲームはエンディングをむかえる。あと少しのはず。
アベル、七海が倒れ、攻撃しかないこの状況。
戦術なんてあったものじゃない。先に当てた方の勝ちか。
何も考えずに、体を動かす。息をしているのか、していないのか。そんなことも分からないぐらいに、のどが乾いている。
これで最後にする。
そう思って、地面を蹴って、大きく剣を振りかぶる。この剣が届けば。
だが、デスキエルの大きな拳が目の前に迫る。
(かわせないっ……。それなら……)
思いきり、拳に剣を叩きつける。
腕にビリビリとした衝撃が腕に伝わって、はじき飛ばされる。空中で体勢を立てなおして、着地する。こちらのダメージはないみたいだが、敵もダメージを受けてないようだ。
今のはどういう扱いになるんだ? どちらも攻撃ミスでターン終了か? それとも、まだターン継続か? ターン終了なら、体勢を立て直すこともできるが、ターン継続なら、向こうの攻撃が飛んでくる前に早く攻撃をしかけないとならない。
と、目の前にデスキエルの腕が伸びてくる。……ターン継続か。デスキエルの腕が地面を叩き、破壊された地面のつぶてが広がる。
(まだ、直接の攻撃じゃない)
とにかく、ここにいるのは危険だ。
どこから攻撃が来るのかは分からないが、動かないと確実に食らう。後ろに飛び退く。今までいた場所にデスキエルの拳が通過するのが、土ぼこり越しに見える。
これでかわしたことになったのか?
こちらの攻撃といきたいところだが、デスキエルまでの距離が空きすぎた。距離ができるのは、リーチの差からして不利だ。今のデスキエルの攻撃は右からだった。なら、右からだ。
右の方に回り込む。不思議なほど足が動く。
戦術もなにもない、あまりにも単純な状態が逆に体を動かしてくれる。
(いける……っ!)
腰に下げる形で、剣を構えて、攻撃の体勢に入る。が、左の脇腹にデスキエルの拳が迫っていた。
(……早すぎる。さっきの攻撃も陽動程度のものだったってことか? これはかわせない……っ)
それでも最後の最後まであがく。
体を思いっきりねじって、もう一度、拳に剣を合わせにいく。わずかだが、可能性は残っている。
理不尽なこのゲームに一つだけの希望。乱数幅が大きいこと。高乱数もあれば、低乱数もある。さっきはこちらの不利に働いたんだ。せめて、この時ぐらいは有利に働いてくれたっていいだろう。
脇腹に衝撃が走り、大きく飛ばされた。目の前は赤く、もう倒されても自分がやられたのかも分からない。間違いなくダメージは受けた。
だが、体全体に痛みを感じる。殴られて、飛ばされ、地面の上を転がった。でも、それは逆に残ったということ。
棺桶になる時は一瞬だ。そして、一瞬で拠点に戻される。痛みなんて感じる余裕もないほどに。
……つまり、これは……勝った!
立てる。残った、わずかでも残った。この事実こそが重要だ。腕にわずかに衝撃が残っている。防御よりも攻撃したことで、威力が相殺された。
「これで、最後だ。終わらせる」
もう、相手の攻撃はない。全身全霊。残った体力、気力全部、この一撃にくれてやる!
目指すのは、デスキエルの中心。
「ふっざけんなぁぁぁああ――――」
みぞおちの付近に剣が入り、そのまま下まで切り裂く。
……最後というものは驚くほどあっけないものだ。
ボスを倒した時に演出があるゲームもある。というか、最近のゲームのほとんどはボス演出があるものだ。
しかし、この時代のゲームにはそんなものはないようだ。
雑魚と同じく、ふっと消えた。
何もなかったかのように、静かな時間が流れる。
「た、倒した……」
実感がわかないが、倒した。
目の前は赤く、満身創痍だ。
どこからともなく声が聞こえてくる。……精霊だな。
(よく邪神を打ち倒しました。さぁ、早くあなた方を待つ人のところに戻りなさい)
奏が回復した。
アベルが生きかえった。
七海が生きかえった。
目の前がクリアになる。
……そんなことができるなら、戦いの最中にやってくれよ。そんなことを思いつつも、ようやくこれで帰れる。神殿が崩れていき、一瞬で外に出される。更地になった神殿を見る。
……このゲームともオサラバか。
早く、帰ろう。
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