第42話 最後は殴り合い
『技ではない純粋な力、それがパワーだ』
などという、トートロジーを恥ずかしげもなく言い出したやつは誰だったのか。
セリフ自体うろ覚えなので、間違っているかもしれない。
目の前の光景には、衝撃しか覚えない。
七海がバロールの持っていた成人男性ぐらいの大きさはあろうかというこん棒をデスキエルにぶちかましていて、アベルよりもずっと脳筋になっているからだ。
「いやぁ、これは気持ちがいいね。フルスイングってやつをやってみたかったんだよね」
七海が笑いながら話す。ちょっと待って。さっきまで、何か杖持ってたよね。杖がいつのまにそんなことになるの? しかも、回復もしてないよね。HP的には後一撃で倒される状態だよね。
バロールのこん棒は『破壊の槌』とかいう名前で、バロールが落とす武器。レベル上げの時にバロールが落としていたのを七海が持っていた。このゲームでは雷撃の剣を上回る攻撃力をほこる。その攻撃力はまさに破格。
が、呪われていて身動きがとれなくなる時がある。
これを装備できるのは脳筋である俺だけで、七海はおろか、アベルだって装備できない。それに、動けなくなるってデメリットが大きすぎて、俺だって装備していない。
それを七海が装備していて、しかもフルスイングで、デスキエルを壁まで吹っ飛ばした。結果、デスキエルが壁にめり込み、壁は崩れて、土煙があがっている
「奏の斬る攻撃とは違って、打撃だからかな? 見た目は派手だけどダメージは思ったよりはいかないな。でも、これだけ吹っ飛ばせるっていうのが気に入った」
七海がにやつきながら言う。
あいつ……大爆発魔法でも何でもそうだが、粉塵を巻き上げることに喜びを感じているな。今まで爆発する発明品を作っていたが、もしかしてわざとなんじゃないか?
ってことは、今はどうでもいい。
「七海、それは……?」
「バロールの持っている破壊の槌だよ。奏も知っているだろう?」
「そうじゃなくて、どうして、お前がそれを振り回してるんだ?」
「くっくっくっ。昔のゲームというのはね、実にたくさんの裏技が隠されているものなんだよ」
「裏技?」
「そう。有名なところでは何とかコマンドっていうのがあるだろう? 上上下下から始まるコマンドだ。コマンドは意図して作られたものだが、プログラム技術が甘く、デバッグ能力も低かった時代のゲームには、表向き動けばいいってことで見過ごされてきたバグある。だから、どんなバグが隠されているか分からない。これもそんなバグの一つだよ」
七海がこん棒を振り回しながら言った。
「ボク的攻略法『利用できるものはバグでも利用する』!」
状況が状況だから気が抜けないのだが……そのドヤ顔にちょっとだけ気がゆるむ。いや、だからね、その顔は反則だって。
その反則顔で七海が続けて解説する。
「キミも知っての通り、攻撃を受けると武器を落として攻撃力が落ちることがある。このままだと、デスキエルにダメージを与えることなんてできない。そこで、武器を道具として使うことで装備したことになる」
そこまでは俺も知っている。
さすがに、攻撃力が下がり続けたままでは、デスキエルに対抗しようがない。
「この仕様はデスキエル専門の仕様だ。雑魚戦にはない。察するに、攻撃力が下がる時に道具で使うことで武器を装備できるようになるというプログラムなのだろう。実際に、攻撃力の下がる前には武器を使ってもなにもない」
しかし、当時のゲームスタッフも考えたものだな。なるほど、デスキエル戦だけの仕様にするために、こちら側ではなくて相手側の攻撃に依存するようにしたのか。
「ところがだ、ここで装備できる武器に制限を設けることはできなかった。もしくは忘れていたんだろうな。しかもだ、装備できるものなら装備した時の特性は残るが、装備できないものが装備すると装備した時の特性は残らない」
俺は全部の装備を装備できるし、アベルも破壊の槌は装備できるから装備した時の特性が残る。破壊の槌を装備すると、動けなくなることがあることになる。ところが、七海は普通なら装備できない。すると、動けなくなることもなく、戦えるというわけか。
そうだとすると、七海はデスキエル戦に限っては最強だ。回復もできるし、攻撃力も申し分ない。
そう思っていると
「ただね」
と七海が続けた。
「この装備の効果は敵の攻撃以外でステータスに変化があると装備していない元の状態に戻る」
どうせ、補助魔法は役立たずだから、どうでもいいな。
「で。ステータスにはHPも含まれる。なので、回復もできない。ちなみにこれはボクだけではなく、奏達も含まれる。」
……つまり?
「やることは一つだけ。やるかやられるかのサバイバル! とっつげ――――――き!」
七海がこん棒を振りかざしながら、笑顔でデスキエルに襲いかかる。
ここまで来て、回復すらも捨てて、殴り合い。
脳筋なこのゲームにふさわしいといえば、ふさわしい。
サァ、サイゴノタタカイダ
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