第40話 正真正銘二連戦

 ありえないほどの数の敵を倒し、レベルを相当上げた。驚いたのはアベルの攻撃力の成長率が良くなってきていることだ。もしかしたら戦力になるかもしれない。


 短期決戦では回復よりも火力がものを言う。

 その火力の上乗せがたとえ5でもいい。


 このゲームでは、最大値の上限は決められていて255。2の8乗から1を引いた数字だ。七海がいうにはホムコンは8bitで動かすから容量の関係でこれ以上の数字は出ない。


 基本はそれだけを削り取れればいい。火力の上乗せが少しでも、心強い。俺の攻撃力も上がっている。あとはどのタイミングで挑むかだけだ。基本戦術は俺攻撃、アベル攻撃、七海回復魔法を俺に。

 

 後は、昏睡しないことを祈るだけだ。


 再び、フーリガと相対する。


「ここまでたどり着くとは……しょせんは人間。ふん。まぁいい。貴様らをいけにえにして、邪神を復活させようぞ!」


 邪神の復活は失敗したのか?

 前と全く同じセリフで襲いかかってきた。


 現在の状況を整理しよう。

 まず、こちらのHPだが、終盤になって伸びが悪くなった。

 俺220、アベル180、七海165。最終レベルに達してもいわゆるカンストはしない。七海が言うには、成長には乱数はなく、固定だそうだ。大爆発魔法は50~90のダメージ。相手の攻撃は前までは俺に対しては40~55といったところ。アベルに対しては50~70。七海に対しては65~90ぐらい。


 相手のHPは230。

 

 こちらの攻撃は……1ターン目は様子見。

 俺の攻撃で62。アベルの攻撃が4と5のダメージ。かなり強くなったはずのなのにやはり堅い。相手の残りHPは159。こちらも打撃を受けたが、七海の後攻回復のおかげで万全の状態で2ターン目になる。


 七海によると、相手は残りHPが80を下回ると必ず回復する。回復する時、体が光る。見た目に分かり安い。逆にHPが80未満にならないと完全回復魔法を唱えてこない。しかも、そのターンに限れば回復魔法しか唱えない。

 

 だが、消耗戦だな。

 強くなったおかげで2ターンでかなり削れる。けれども、完全回復魔法のせいで回復される。一方、相手が回復する時はこちらも回復のチャンスだ。相手が回復した次のターンはこちらもほぼ万全で迎えることができる。相手の攻撃からすれば俺のHPには比較的余裕がある。


 問題は七海のMPだ。七海のMPが多いとはいえ、完全回復魔法も無限ではない。かといって、七海の回復魔法を途切れさせるわけにもいかない。

  

 こちらが攻撃し、相手が回復する。

 相手が攻撃し、こちらが回復する。


 どちらも回復のターンで完全な状態に戻る。

 まるでさいの河原だ。このHPが一定値を下回ると必ず回復するという仕様は、この次のラスボスにさえない、フーリガだけの特徴だ。AIがほんの少し賢くなるだけでここまで戦いにくくなるのか。


 敵の大爆発魔法を耐え、とんでもない重さの打撃を受け止める。

 

「しかし、敵も粘るね」

 回復しながら、七海が言う。

「お前が言うなって感じかもしれないが、むしろ、相手もそれに特化している感じがする」

「なかなか打開できないね」

「なんとか上手く高乱数の攻撃が2回続くか、会心の一撃でも出ればな」

 

 また、相手の体が光る。

 回復だ。仕切り直して、らいげきの剣を振る。相変わらず、鈍い感触だ。裂くような感覚はない。


 それから、何ターンたったか。フーリガの攻撃が七海を襲う。次のターンは回復だな。ところが、アベルがいつもより勢いよく飛び出す。踏み込みが力強い。瞬速の剣が閃光を放つ。フーリガがたたらを踏む。


 会心の一撃!


「アベル! ナイスだ!!」

 

 ここでたたみかけずにいつ、たたみかける?

 アベルとフーリガの間にはちょうど一人分の空間がある。アベルを飛び越し、フーリガの頭上から剣をたたきつける。

 

 フーリガが一旦消える。


 そして、再度復活。

 このボスの挙動はやはりシュールだ。


「……まさか、ここまでとは……我が神デスキエルよ、我が身を食らい、どうか復活を!」


 フーリガが叫び、点滅し、消える。

 その直後、周りを炎に囲まれ、地面が大きく振動する。足下がふらつき、まるで体の奥底から内臓ごと揺さぶられているような感覚に陥る。


「奏……」

「さすがにラスボスの登場シーンだな」


 次の瞬間、目の前が真っ白になったかと思うと、上半身は三面六臂、下半身はメデューサの頭のような蛇の集合体という巨大な魔物が空中に現れていた。あの姿でどうやって空中に浮くことができるのか。

 そんなことは聞くだけ野暮ってもんだろう。


「これがラスボス、デスキエル……」


 巨人も大きかったが、これはもう一回り、いや、もう二回り大きい。蛇が何百匹いるか分からないが一匹一匹が少なくとも腕の太さぐらいあって、長さは分からない。どうやって空中に浮かんでいるのやら。


 回復も何もできていない。正真正銘の2連戦だ。さっき、七海がフーリガの攻撃を受けて、HPが減っている状態だ。それでラスボスは正直厳しい。フーリガとこのデスキエルで一体のボスのような感じだ。なんとか、粘ることができれば……って、体が動かない。ここにきて、ラスボスの先制攻撃……確率で生じるってことは分かるが、それはないだろう。


「ラスボスの先制、このゲームを始めてから奏にはあまり運がないなと思っていたが、思った以上だね。こういうのってゲーム的にはクズ運っていうんだっけ?」

「うるさいっ。お前も参加しているんだから、同じ穴のむじなだろっ」

「ただ、ボクが死んでいる時も運の悪さは変わらなかったからね」

「運が悪いというより、このゲームが悪いんだよっ」

「それは否定しないが、君の運の悪さが否定された訳ではないと思うよ」

 

 下らない話をしている間にデスキエルの数百匹の蛇が一斉に俺たちに襲いかかる。明らかにその長さはないだろうってぐらいに伸びてくる。

 この攻撃は、今までの攻撃の中でも視覚的にも痛覚的にも痛く、そして、HP的にも痛い。全体に90前後のダメージ。フーリガの攻撃で80ほどHPを削られていた七海が落ちた。

 

 ……ボスが途中で変身するよりも、ボスが切り替わる二連戦はこうしたことがあるのか。今回のラスボス戦は望みが薄いな。


 俺たちは次のターンも全体攻撃を食らい、アベルが落ちて、その次のターンに通常攻撃で俺が落ちた。また、あの祠からだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る