第39話 大神官フーリガ

 ……俺は今、元凶、フーリガと相対している。

 神官を表す法衣を着ている、法衣の真ん中には邪神の象徴だろうコウモリのような黒い羽を広げたシンボル。他の神官達の法衣には腕や背中にあったものだ。まさに神官達の中心ということか。

 こいつを倒し、こいつの次に現れる邪神を倒せば、この鬼畜ゲームも終わりだ。


 ベルゼブブとルシフェルは正直、拍子抜けした。イミルの方がよっぽど強かった。


 確かにベルゼブブには何回か全滅した。

 しかし、それは自爆魔法のせいだ。対処法がないから仕方がない。自爆魔法を使って、次には現れないのが自爆魔法を使った代償というものだろう。、何事もなかったかのように襲ってくる。

 

 これはゲームの処理的な問題だろう。

 デビルエンペラーと戦った時もそうだったが、敵が自爆魔法を唱えるとまずはこちらが全滅する。その後に、デビルエンペラーが死ぬという処理になっているのだろうが、全滅した瞬間に祠に移動するから、デビルエンペラーが消えるという表示は見たことがない。


 だから、ベルゼブブも同じなんだろうが、はっきり言って、それ以外に全滅する要素は全くなかった。


 使ってくる魔法は上級火炎魔法までだったし、攻撃力もそんなに強くなく、しかも自爆魔法を使えるという制限があるからか、必ず1ターンに1回攻撃。自爆魔法さえなければ、負ける要素は皆無だと言っていい。

 

 唯一絶対の自爆魔法がベルゼブブをボスたらしめているのだろうが、こんなの自爆魔法が来るかどうかのそれだけの勝負だ。強さとは全く違う。ボスとして映す価値なし。


 ルシフェルもルシフェルだ。

 確かに、長い戦いを強いられた。でも、逆に言えばそれだけだった。攻撃の一撃はイミルよりは弱く、大体50~60ぐらいのダメージだった。大爆発魔法も使い、その意味では強敵になる要素はあったが、1ターンに1回か2回かのランダム攻撃で普通の攻撃の方が多かったぐらいだ。

 完全回復魔法は厄介といえば厄介だったが、長期戦になることを覚悟でアベルと七海でこまめに回復していたら、そのうち勝てた。ピンチになったこともなかった。運が悪ければ全滅の可能性があるとは何だったのか。


 ボスとして語る価値なし。


 そんなわけで、ボスを撃破して、今は大神官フーリガに相対している。

 

「ここまでたどり着くとは……しょせんは人間。ふん。まぁいい。貴様らをいけにえにして、邪神を復活させようぞ!」


 禍々しい杖を振りかざして、フーリガが襲ってくる。ていうか、お前は人間じゃないのか?


 フーリガは神官だけあって、大爆発魔法と完全回復魔法を使うことができる。しかし、それだけではない。フーリガの攻撃力はイミルにもひけをとらない。

 

 フーリガの腕は細い。あの腕のどこにイミル以上の力が秘められているのか。杖から触手のようなものが伸びて、腕に絡みついている。フーリガの魔力を吸い取って攻撃に変えるそういったイメージのものだろう。

 それに加え、昏睡効果をもつ妙な煙を吐いてくる。


 邪神はラスボスだが、それは本来フーリガを倒した時に初めて明らかになる。この冒険の目的はずっとフーリガの打倒だ。それで弱いはずがない。

 

 だが、このゲームでは何よりも先手必勝。やられる前にやれが鉄則だ。とにかく攻撃を仕掛ける。


 相手は神官だから、同じ人間サイズ。

 一旦、剣を下手に構え、間合いを詰め、天井に向かって斬り上げる。胴から肩にかけての手応えはあったが、鉄か何か硬いカーテンに阻まれた感覚だ。フーリガは斬られるわけでもなく、少し後退しただけで、変わらない半笑いを浮かべている。

 

 避けたのでもない。当たらなかったわけでもない。くそっ。腹立つな。


 あの法衣が見た目とは違い、相当な強度があるんだろう。しかし、この堅さじゃ……

 次の瞬間、アベルの攻撃がはじかれる。アベルが剣を持つ手をブラブラと振っている。


 どう考えてもそうなるよな。

 そういえば、攻撃力はともかくルシフェルは堅かった。アベルの攻撃が通じなかったことも長期戦になった理由の一つだった。


 前の3体のボスよりも強いというか、三身合体的な強さだ。

 

(この感じだと長期戦は避けられないな)

 と思った瞬間に、フーリガが妙な煙を吐いてくる。

 

 ……俺と七海が眠ってしまった。

 これは、ダメなやつだな。

 

 アベルの攻撃は効かない。回復は間に合わない。そして、二人とも起きない。

 

ーーーー



 当然、祠に戻されることになる。


「あれでは長期戦は避けた方がいいね。一応、あの妙な煙がされる可能性は低めに設定されているはずだけど。戦闘が長引けば長引くほど、可能性が高くなる」


 七海の言うとおりだ。


 問答無用の確率での昏睡。

 七海が眠ってしまった場合、回復ができなくなる。後は一方的にやられるだけだ。高い防御力も妙な煙を誘発するためのものとしか思えない。


「短期決戦で挑みたいが」

「火力が圧倒的に足りないね」

「ここに来て最後のレベル上げか……」

「そうするしかないようだね」

「なんだって、こうスムーズにいかないというか、レベル上げをする必要が出てくる箇所が用意されているんだ?」

「それに関しては、これが昔のゲームだからとしか言い様がないね」

 七海が突然メタ的なことを言い出す。


「つまり、昔の子どもにとってゲームは1年間で1本か2本買ってもらえればいいぐらいのものだったわけだ。特殊な環境でもなければね。それに容量も少ない。それで長時間遊ぶためにはどうすればいいかというと」


「雑魚敵との戦いを多くして、クリアまでを長くするってとこか」


「ご名答」

 七海が笑う。


「そんなことで正解してもな」

 エンカウントが異常に多いってのもそれが原因か。


「もちろん、ラスボスは強くする。そうしないと雑魚の方が強かったというイメージだと面白くないからね。強敵を倒してこその達成感だ」


 ……それ自体には同感だが。

 結局のところ、レベルを上げて物理で殴れって話だな。

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