第38話 城に着くのも一苦労
巨神イミルとの壮絶な戦い、もとい、運ゲーがはじった。まずは巨神イミルのところにまでたどり着くこと自体、運ゲーだ。
レベルがどんなに高くなっても、フェンリルの奇襲からの即死魔法のコンボはどうやっても避けられない。別に俺や七海が落とされても、立て直しは可能だが、アベルが落とされたら、引き返すしかない。アベルのHPが高くなってきたとはいえ、即死魔法には関係がない。
確定逃げができないのも厳しい。
大概のゲームだとある一定のレベルからは確定逃げができるようになっている。かなり重要な要素でそのレベルになれば、急いで進むことができるから、そのレベルにまでは上げてから進むという攻略法も存在する。
しかし、このゲームにはそんな確定逃げなんて生ぬるいことはない。
逃げることは許す。許すが、その時までは指定していない。ってぐらいに逃してくれない時もある。逃げに挑戦したのは4回目までだ。5ターン目まで生かしてくれるほど、ここの敵はあまくない。
逃げるよりも倒す方がいいかもしれないが、被害もあるので逃げてしまった方がいいかなと魔が差してしまうこともある。1回逃げるともう1回逃げないと損したような気になってしまう。
典型的なコンコルド錯誤ってやつだ。
投資した分がもったいないからと、さらに投資してさらに大損してしまう。
イミルのところにたどり着くまでに敵を倒していて、イミルに何回か全滅させられていたら、何回かレベルが上がった。
イミルも惜しいのは何回かあったんだけど、いかんせん、ダメージを与えられる俺が一番打撃を受けやすく、落ちやすい。そして、並び替えはできない。しかも、蘇生魔法は戦闘中には使えない仕様。移動魔法や脱出魔法と同じく移動中専門魔法の扱い。
そんなわけで、いまだに突破できていない。
対イミルの戦いは戦術といえる程のものではない。このゲームは本当に後ろにいけばいくほど、脳筋仕様になっていく。簡単に、俺攻撃、アベル攻撃、七海完全回復魔法を俺にかける。1ターン目からこれだ。
イミルの攻撃は最大4回攻撃だが、連続4回というわけではなく、2回攻撃が2回ということだ。これは同じようでいて、全く違う。
イミルの攻撃と攻撃の間に、こちら側の行動が割り込む余地がある。
つまり、相手の攻撃があって、こちらがダメージを受けたとしても、回復する余地がある。実際に何回かはこれで、いいところまで行ったこともある。
上手く七海が後行してくれて、3ターン目を完全な状態で迎えることができた。いわば後一撃を完全な状態で迎えることができたわけだ。ところが、3ターン目に3連撃を食らって、おれが落ち、火力不足になって、全滅。
いつどのタイミングで落とされるか分からない。今までの感覚からして戦えないわけじゃない。
後、ほんのちょっとした運があれば、突破できそうな感じ。
イミルのいるフロアにたどり着き、心を落ち着ける。
再びスタートラインに立つ。
ゲームのいいところは何度だってスタートラインに立てるところだ。何度もスタートラインに立って、勝負ができる。別に時間制限もない。
もう一度挑戦だ。
アベルが果敢にイミルの利き腕を狙い、走って行く。石畳を踏みつける音がして、アベルが舞う。浅くはあるが、ダメージを与えた。
幸先よし。
イミルがこん棒を振りかぶり、叩きつける。風切り音というが、この音は風を切っているなんて音ではなく、空気をたたきつぶしている音だ。こん棒につぶされた空気ですら、武器になる。
その2連撃を受け止める。HP的にはあまり変わらないけど、何度も食らってりゃ受け止め方も分かる。
すかさず七海が回復してくれて、動きが緩慢になっているイミルの足を深く斬る。イミルが再度こん棒を振るい、俺のHPが削られる。
1ターン目終了。
なかなか順調な滑り出しだ。何より七海の回復のタイミングが絶妙だった。このまま順調にいってくれよ。
そして、2ターン目。
初っぱなにイミルの攻撃が俺とアベルに飛んできた。これだけで後がなくなる。
しかし、イミルの攻撃が終わると同時に、アベルが飛び出し、足下に斬りつけた。イミルがわずかにバランスを崩す。
(よし、やった)
ぐっと力を入れる。今度は俺の番だ。バランスを崩してるイミルの下をくぐり抜けて、背中を突き刺し、思い切りイミルの頭に向かって剣を振り上げる。剣が背中から肩口へと移動し、肩口から剣が抜けた時にひっかかりがなくなって、後ろによろける。
そこへ、七海がすかさず、回復に入る。
イミルの攻撃は……なし!
2ターン目終了。
後、一撃。
こうなったら、後は俺がイミルより速く動くだけだ。
イミルが動くより速く、イミルに近づき、一気に3m以上飛ぶ。ゲームだからこそ可能なこの動き。ある種の万能感が俺を満たす。
「決まりだっ!!!」
雷のように剣を肩口から叩きつけ、胴体を寸断する。
「うがあああぁぁぁぁあああああ!!」
イミルの断末魔が響く。フロア全体が揺れるような音だったが、ついにイミルを倒した。
「ふぅ」
安堵感と達成感が入り交じったようなそんな気分だ。最後はあっけないと言えば、あっけないが勝てる時というのはこういうものだろう。
「ようやく倒せたね」
「ああ、よく倒せた。七海の回復のタイミングがばっちりだったな」
「うん。上手く体が動いてくれたよ。ゲームのプログラムかもしれないけれど、何度か回復しなきゃって時に回復しに行くことができなくて、もどかしい思いもしたから。安心したよ」
「アベル、ありがとな」
何も言わずに立っている仲間にも声をかける。
もちろん、何も言わないことは分かっているが、それでも、アベルの攻撃がなければ倒すことはできなかった。
何も言わなくても、仲間意識というのは芽生えるものだ。
「後、2体でフーリガのところだ」
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