第37話 巨神イミル

 祭壇で邪神の像を掲げると一瞬にして違ったフロアにいた。景色が見えることからすれば、ここは地下ではなく上階になる。何階かは分からないが、便宜上2階としておこう。

 フーリガの城の2階の内装は今までの塔と同じ内装になっていて、一階の神殿とは違っていた。

 このへんはやはり容量の関係かな。


 さて、フーリガの城だが、雑魚が弱くなった。

 弱くなったというのは少し語弊があるかもしれない。デビルエンペラー、アスタロトは相変わらず出てくるし、火山で苦労した邪神の使いまで出てくる。さすがに邪教の総本山。数も多いし、大爆発魔法も唱えてくるから油断はできない。


 しかし、フェンリルが出てこない。

 これだけで戦い安さが全く違う。即死魔法っていうのはそれだけで脅威だ。


 危なげなく、と言いたいところだが、そうもいかない。アベルが死にそうになったり、大爆発魔法の三連発を食らって七海が死んだりとひやひやものの進軍だった。

 それでも、進軍できたのはアベルの蘇生魔法のおかげだ。

 

 ホントにこのパーティの命綱だ。


 2階、3階と踏破し、4階についたところで、雑魚が急にいなくなった。


「これは?」

「この階からはまさしく神々の領域。雑魚はいなくなり、この先には神と大神官フーリガだけがいる。そして、このフロアには巨神イミルがいるはずだよ」

 七海が解説する。


 まずは回復状況を確認する。

 戦闘が終わった時には、必ずHPを満タンにするように確認しているが、再度の確認をして進む。


 このフロアは右回りの渦巻き状になっているようで、ずっと右に右に回っている。


 ……あれが巨神イミルか。渦巻きの中心部にあたるところ、階段の前に巨人がいた。壁の影から様子をうかがう。

 大きさはバロールと同じぐらい。色は真っ赤だ。色違いだな。だが、強さは桁違いなはずだ。色が違えば別種モンスター。


 できれば、先制したいところだ。

 イミルのところまで一気に近づく。


 だが、この感じ……

 体が凍りついたように動かない。……これは相手の先制だ。

 

 イミルがこん棒を振りかぶり、振り下ろす。戦い方自体はバロールと変わりなさそうで、威力もバロールよりも多少強いが大きな違いはない。こんなものか。


 だが、すぐさまに二撃目が飛んでくる。さすがに神の一人、2回攻撃か。

 俺に一撃、アベルに一撃。それでも、十分戦える範囲だ。バロール2体分と考えればいいのか。いや、バロールが2体出現した時、バロールの数は攻撃によって確実に減っていくが、こちらは一体の巨人。


 むしろ、攻撃数が減らない分だけ、こちらの方が手強いか。


 次は、攻撃のはず。しかし、まだ体が動かない。どういうことだ? まだ、相手のターンが終わらない?

 

 イミルがさらに三撃目をはなつ。1ターンに3回攻撃? 力だけの神とはいえ、この攻撃の嵐は優遇されていると言っていい。

 今度は七海に命中。今のところ、攻撃がばらけているが、これが1人に集中したら、間違いなく死んでいる。


 次のターンの回復が間に合えばいいのだが、と思っているところに、イミルがさらにこん棒を振り上げる。


「え?」


 思わず声が出る。

 こん棒は七海に直撃し、棺桶が一つできあがった?

 は? 4回攻撃?

 ちょっと待て。この攻撃力で4回攻撃はありえない。というか、確実にこちらのパーティーが瀕死状態になる。


 実際、今の攻撃で七海が死に、俺もアベルもダメージを受けていて、アベルの中級回復魔法じゃ到底回復は間に合わない。というか、七海の完全回復魔法でないと、回復できない。

 普通は、戦闘中になんか回復することはないが、ここからは別だろう。基本的に脳筋の俺しか攻撃面ではほぼ役に立たないから、回復役に回ってもらうしかないし。

 ただ、今回の場合はどうしようもない。


 4回攻撃する相手にどうやって戦えというのか。

 とりあえず、今回はシッポまいて帰るしかない。この場合は帰ると言っても全滅ってことになる。とりあえず、攻撃を選ぶ。アベルが最初に攻撃する。合計10ダメージ。0ではないだけましと言ったところ。

 次に俺の攻撃。約70ダメージ。

 

 敵のHPは225。七海の攻撃があてにならないことからすれば、最低3ターン耐える必要があるわけだ。

 

 ……無理だな。

 4回攻撃をどうしのげばいい?

 

 ところが、イミルはこのターン、1回しか攻撃してこなかった。アベルへの攻撃だったが、今回の攻撃はさっきの攻撃より弱く、アベルがぎりぎり生き残った。

 レゲーにありがちなことだが、乱数幅が大きい。


 味方の攻撃でもあるから困るが、今回ばかりは助けられた。


 しかし、1回だけの攻撃とはどういうことだ? 分からないが、どちらにせよ、攻撃するしかないので、突撃する。


 今度はイミルが先制する。 

 アベルがこん棒にたたきつぶされ、そのままこん棒が横滑りして、俺は横殴りに殴られた。そして、ふっばされたところに、もう一度こん棒が振り下ろされた。


 ……今度は3回攻撃だったか。


 祠でいつものフレーズを聞き、どうしようかと思案する。


「なぁ、4回攻撃があったり、1回だけの攻撃だったりっていうのはどういうことだ?」

 七海に聞く。


「ああ、そういえば、そうだったなと殴られて思い出した。巨神イミルの攻撃パターンだが、さすがに工夫してあって、ターンの始めに1回分の攻撃か2回分の攻撃かがそれぞれ50%の確率で決まる。そして、次に1回分の攻撃がされる時、1撃か2撃かがやはりそれぞれ50%決まる。つまり、2回分の攻撃で2回とも2撃が選ばれると、4回攻撃になる」


「……それは計算上どのくらいの確率だ?」


「計算内容はおいといて、1回攻撃になるのが25%、2回攻撃になるのが37.5%、3回攻撃になるのが25%、4回攻撃になるのが12.5%。分数で言うと、1回攻撃が1/4、2回攻撃が3/8、3回攻撃が1/4、4回攻撃が1/8。それから、相手のクリティカルはない。ここだけは良心的だね」


「回復魔法なしだと、8回攻撃されると確実に全滅させれる。一方、相手には俺の攻撃を4回入れるか、俺の攻撃を3回、アベルの攻撃を2回入れるかのどちらかになるわけで……」


 アベルの与える20のダメージが馬鹿にならないな。


「まさにやるかやられるかの勝負だね。ターン数をかければかけるほど、4回攻撃になる可能性は高くなるから、3ターン勝負だね」


 相手の攻撃回数の期待値が1ターンあたり、2.25回で、3ターン動いた場合の攻撃の期待値が6.75回か……微妙なラインだ。

 しかも、8回攻撃に耐えることができるというのは攻撃がばらけた場合で、最初に俺やアベルに攻撃が集中するとダメージを与えることができなくなって、全滅してしまう。


 ☆倒される前に攻撃を計5回入れるだけの簡単なお仕事です☆


 また、運ゲーだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る