第36話 フーリガの城

 幾度となく、全滅を繰り返した結果、普通に戦えるようになってきた。

 

 もっとも、この場合の『普通』とは勝てる時もあれば、負ける時もある程度の話だ。一回一回の戦闘が修羅場だ。


 最近のゲームでも、油断すると雑魚にも倒されてしまうような死にゲーと言われるジャンルがあるが、あれはあくまでもアクションゲームの範囲で油断しなければ雑魚は十分に倒せるし、自分の腕次第と聞いている。


 ひるがえって、こちらは全滅するときは何をしても全滅する。


 それでも、一時期よりはずいぶんましだ。

 勝ったり負けたりを繰り返していたが、勝つことができるってことはレベルが上がるってことだ。それでアベルが微妙にダメージを稼いでくれるし、HPもそれなりに上昇した。ほんのわずかな差かもしれないが、このわずかな差が大きい。


 デビルエンペラーは随分と戦いやすくなった。アベルに攻撃をさせずに、俺だけが攻撃すれば、自爆魔法を唱えてくるようなHPにならないようで楽になった。

 アスタロトは昏睡攻撃こそ厳しいが、アベル・七海のHPが上昇したおかげで大爆発魔法を耐えれるようになった。


 バロールも素早く倒せるようになった。

 バロールはクリティカルが恐ろしいが、一人にしか攻撃してこないし、攻撃をミスする時もある。強いのだが、3体現れても十分に戦える。


 だが、フェンリル。こいつはだめだ。

 素早さなんて意味がなく、敵味方の攻撃順番がランダムのこのゲームではまさに死神。


 フェンリルと対峙するたびに緊張する。

 たとえ、一体でも、全滅の危険に直面し、運ゲーを強いられる。

 最近のゲームだと確かにいろいろな特殊攻撃を持つモンスターがいるが、逆に様々な効果の装備があって、防御することができる。

 だから、極限低レベルクリアなんて縛りもある。しかし、真のレゲーにはそんな生ぬるい話はない。


 レゲー特有理不尽その10

「即死魔法に対する耐性がある装備が存在しない」

 

 ついに、『その10』だよ。

 しかし、フェンリルが別格だとしても、一戦一戦気が抜けない。最善を尽くして、戦えている。


「誰だよ。こんなゲームバランス考えたのは。RPGの面白さの中に戦闘があることは認めるけど、シビア過ぎる」

「ボクが調べた範囲では、という限定はつくけど、当時、スタッフはこう考えたらしいよ」


『やはり敵と戦うのは緊張感があってこそのこと。特に最終フィールドはそれにふさわしいモンスターでなくてはならない』


「……そいつはテストプレイはしたのか?」

「もちろん、開発時間の短さからテストプレイは大幅に削られ、デバッグ作業の一環として戦ったものの、レベルはある程度高めで設定していたみたいだね」


 そいつのせいか!!


「それでも一応倒せるぐらいには調整されているのだから、優秀なスタッフだったのだろう」


 ゲームシステム的には優秀かもしれないが、ゲームバランスはひどい。


 だが、回数を重ねればレベルも上がるし、勝率もある程度は上がる。もちろん、頭打ちはされるのだが。幾多の敵の血と俺たちの勇者の血を大地が吸った後に、俺たちはフーリガの城にたどり着いた。


 何回遠征したか分からない。


 外からは他の今までの普通の城と全く変わらない様子だ。

 フーリガの城と分かるのは、最終フィールドでここには他の城はないことを知っているからだ。


 いよいよ突入する。


 入ると、壮麗な大広間が広がっており、そこには見知った顔があった。


 いやいや、これはどうだろう?

 話しかけると、ジーノの城の王様、つまり設定上は俺の父親だったり、マヤイラスの城の王様、つまり七海の父親だったりしたわけだが、同じ顔が並んでいるわけで。


 気味が悪い。

 しかも、『フーリガ様は素晴らしい』『この世界を作りかえようとしている』『お前も創造神を崇拝すればいい』とか言ってくる。


 いくら俺でも気がつく。

 確か、と胸元を探る。

 聖なる首飾り、邪悪な呪いや幻を打ち破る効果があるってことで、ぎゅっと握りしめる。


「……勇者よ、これは幻……騙されてはなりません」

 精霊の声が聞こえた。


「誰がこんな幼稚な幻に騙されるんだ? ボクはおろか、奏でさえ気づいたじゃないか」

 七海が言う。いや、確かにそうなんだが。奏ってどういう意味だ。


「さぁ、これが真実の姿です」

 精霊の声が響いて、目の前が真っ白になる。

 気がついた時は、床は石畳になっており、城と言うより神殿という感じになっていた。中央にはバリアに囲まれた祭壇がある。


 他にはパルテノン神殿のような真ん中が少し膨らんだ柱が立っているだけで、何もない。実に質素で、簡素な作りとなっている。


「さぁ、奏。あの祭壇の真ん中で邪神像を掲げて」

「そんなこと、誰かに聞いたのか」

「いや、攻略サイトに書いてあった」


 それか。


「いやでも、これってどっか聞いておくべき話じゃないのか」

「うん。でも、どこに行ってもそんな話は聞くことができない。ここはノーヒントだ。もちろん、それが分からずに涙を飲んだ子どもも多かったようだし、やけくそで全部の道具を使ったら行けたなんて話もあるぐらいだ」


「ひどい話だ」


 確かに祭壇で、しかもフーリガの城なので、使うものは限られるかもしれないが、それでもノーヒントはないだろう。


 レゲー特有の理不尽でも説明が少ないというのはあるのだが、この最終盤でノーヒントっていうのは理不尽だろ。しかも、このフロア敵出るし。


 七海が調べてきてくれて助かった。


 よし、大詰め。

 ここからは巨神のイミル。魔神ベルゼブブ。堕天使ルシフェル。

 ラスボス前にこいつらとの前哨戦が待っている。

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