第35話 ゆりもどし
なんとか祠にたどり着き、神父に話しかける。
「よくぞ、ここまでたどり着いた。ここは忘れられた祠。勇者に光りあれ!」
神父がそう言うと、体に力が戻ってきた感覚がして、HP・MPが回復し、アベルもHP・MPが全快の状態でよみがえった。
この仕様はありがたい。
「約束の言葉を伝えよう。……では、行け。カナデよ。邪教の大神官フーリガを倒し、この世界に平和をもたらすのだ」
こんな力があるなら、是非ともフーリガの城までついてきてもらって、戦闘が終わる度に回復してもらいたいが、そうもいかないだろう。そんなことをしたら、ゲーム自体が成り立たなくなってしまう。
七海の情報によるとフーリガの城にはたいした宝物はなく、急いで行く必要はないみたいだ。とはいえ、どのくらいでフーリガの城に着くのか、それから、ボスの強さぐらいは確かめておきたい。
そこで、とりあえず、フーリガの城に向かうことにする。
「とりあえず、フーリガの顔を拝みに行こうか。敵の強さも確認したいし」
「確かにその通りなんだが、このフーリガの城にはフーリガの前に3体ボスがいてね。邪教の大神官というだけあって、神々が彼の前に立ちはだかる」
「なるほどな」
「巨神のイミル。力押しの神で、打撃以外はない。それから、魔神ベルゼブブ。大したことはないが、こいつはHPが半分以下になると8割の確率で自爆魔法を使ってくる。堕天使ルシフェル。多彩な攻撃を操り、完全回復魔法を使う。もっとも、確率自体は低く設定されている」
「……なんか、イミルはおいても、他の2体がボスの使う魔法としてはおかしいのだが」
「ちなみに3体のボスは全員HPは225に設定されている。もちろん、補助魔法はもちろん、攻撃魔法も一切きかない。簡単に言えば、ボクは攻撃面では役立たずになりはてる。ただ、ボスだけあって、一度倒せば、二度と出てこない。これは数少ない良心といえる」
何を考えて、そんな設定にしたのだろうか。
「今のレベルで倒せるのか?」
「一応、運がよければ倒せる。というか、どの敵もどちらにせよ運が悪ければ負けるから、あまり意味はないかもしれない」
ふーむ。
聞く限り何回か挑戦することを前提に優しい敵を探すほかないということか。運がよければ倒せるってことは今でも倒せるのだから、挑戦しない理由はない。
「ヨシッ!」
気合いを入れて、出発する。
「おお、奏、死んでしまうとは情けない。お前にもう一度機会を与えよう。再びこのようなことがないようにな。では、ゆけ。奏よ」
王様にしても、神父にしてもぶれないな。
このテンプレート。
体感時間にして1分。
秒殺と言っていいだろう。
祠を出た途端、フェンリル3体の奇襲にあい、即死魔法2連発であえなく全滅。
3連発すら必要がなかったという現実。
出ていきなり、これでは先が思いやられるが、次だ次。ここでは全員が甦ってからのスタート。この点は、他のポイントとは違う。再挑戦が楽な分ましかもしれない。
「ヨシッ!」
気合いを入れて、出発する。
「おお、奏、死んでしまうとは情けない。お前にもう一度機会を与えよう。再びこのようなことがないようにな。では、ゆけ。奏よ」
体感時間にして2分。
今度はデビルエンペラーにやられた。
祠から少し歩いて遭遇。
だって、敵が出たら、やらなきゃ、やられるよね?
一発斬りつけたら、自爆魔法を唱えられて、全滅。
気合いを入れて出発した時ほど、ダメな気がする。
慎重に出発することにしよう。
「奏、ここまでたどり着いたのは本当に運がよかったんだよね」
七海が噛みしめるように言う。
それはその通りだが、そういう七海の顔は暗い。
「そうだな。本当によくたどり着けたよ。次のフーリガの城も早くたどりつけるといいな」
「……そう上手くいくかな。ボクの仮説が正しければ……」
……
「おお、奏、死んでしまうとは情けない。お前にもう一度機会を与えよう。再びこのようなことがないようにな。では、ゆけ。奏よ」
「おお、奏、死んでしまうとは情けない。お前にもう一度機会を与えよう。再びこのようなことがないようにな。では、ゆけ。奏よ」
「おお、奏、死んでしまうとは情けない。お前にもう一度機会を与えよう。再びこのようなことがないようにな。では、ゆけ。奏よ」
何度目だ?
アスタロトの昏睡攻撃にやられて、同時に出てきたフェンリルに即死魔法を唱えられたり、デビルエンペラーの3体同時の出現で自爆魔法を食らったり、バロールに2回連続のクリティカルを出されて、アベルと七海が的確に落とされて、後はバロール3体にボコボコにされたりと、ひどい全滅の仕方ばかりだ。
ちなみに、敵が一体の時もあったし、戦えた時もあったけど、祠からそんなに離れていないところで全滅している。おかげでレベルも上がってない。
フーリガの城なんて、影すら見てない。
「なんかもう、幸運の女神に見放された感じだな」
ため息をつきながら言う。
「確かに、その表現は謝ってはいないと思う」
七海が答える。
「奏的に表現するのであれば、この祠にたどり着くまでに運を使い切ってしまった、というところだろう」
「俺が言った幸運の女神ってやつか? じゃあ、七海的に表現するならどういう表現になるんだ?」
「ゲームというのは、確率と一定のランダム要素で成り立っている。後者のランダム要素を成り立たせているのが乱数だ。このゲームの場合、乱数は0~255で、この256個の数字で運命が決まるというわけだ。で、乱数は次々に変わり、祠に着くまで有利な乱数ばかり出ていた。しかも、レベルからすればボクらに有利な乱数の数が少ないと思われるにもかかわらずね」
「で、そうなるとどうなるんだ?」
「有利な乱数が全部祠に着くまでにいっぱい出てしまったので、今度は不利な乱数が出てきたというわけだ。つまり……しばらくはこの状態が続くことになる」
信じたくない話だった。
「じゃあ、どうすりゃいい?」
「戦闘を重ねて、乱数が変わるのを待つしかないかな。まぁ、もっとも、さっきのもボクの仮説にすぎないけどね」
仮説か。しかし、実は七海の仮説はほとんどの場合、正しい。だから、残念なことにこれから何回も死ぬことになりそうだ。
俺、何もしてないのに。
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