第31話 アベルの価値

 勇者の鎧とらいげきの剣を探して、うろつく。

「そういえば、この装備もヒントなしだな」

 ダンジョンにいい装備があるのはいいし、ある意味ではお約束的なところもあるから、罠のあるダンジョンだと宝を探す気も失せる。探させたいのなら、ヒントぐらい出してほしい。


 行き止まりに宝箱。

 開けてみると、勇者の鎧が入っていた。こんなになんでもないところにあるのか。

どういうルートでここに入ったのだろう?

 でも、これで目的の一つを果たしたわけだ。青い鎧で、なかなかのいいデザインだ。


 アベルの今の鎧装備は『退魔の衣』だ。

 衣なのは、アベルはなぜか鎧系の装備がほとんどできなかったからで、今、俺が来ている大地の鎧も装備できなかった。


 念のためと思って、この勇者の鎧を装備させてみようとしたが、やはりできなかった。アベルも一応勇者の子孫なはずで、魔法使い職とも違うし、鎧を装備できてもいいんだけどなぁ。

 

 おかげで、アベルの装甲は紙のままで、盾も弱いので、防御力は水の衣を装備した七海とそう変わらない。

 敵の攻撃をまともに受けても大丈夫なのは、俺だけだな。


 一旦、離脱魔法でダンジョンを抜け、回復してから山道に入る。


 この調子でらいげきの剣も見つけたい。

 

 だが、見つからない。

 らいげきの剣は落とし穴に落ちて見つかると言われても、その落とし穴が見つからない。無限廻廊も何個かあった。


 ダンジョンのかなり奥まで進む。

 ……新しい種類の敵だ。初めてのロボットタイプの敵。右腕は刃物そのものなっており、左手は矢が発射されるようになっている。上半身はしっかりとしたつくりになっているが、下半身は頼りないバッタのような足が細い足が生えている。頭はというと赤い光がせわしなく動いているだけで、口や鼻はなく、今でいうとセンサーが動いている状況だ。

 

「キルマシ―ナリー。2回攻撃持ち、機械で出来ていて、硬い上に、補助魔法の類は一切効かず、攻撃魔法は5回に1回程度しか効かない」

 なんだ、それは。公式チートか。

 要するに、信じられるのは筋肉だけってことだな。

 

「1体だけだが、油断しないように」

 さっきの説明を聞いて油断する方がどうかしている。

 様子を見つつ、攻撃してみるが、硬い。ダメージは通ることは通る。しかし、今まで、俺の攻撃なら60~70ポイントは効いていたところが半分の30~40。

 相手の攻撃は今まで出てきた敵よりも一撃が10ぐらい強い。

 要するにこいつ一体だけで、今までの敵が2.4体ぐらい出てきたのと変わりないってことだ。


 集中攻撃持ちに、殺人機械。ラストフィールドにつながるダンジョンとはいえ、強さが奥に行くほど、二次関数的に上がっていくのはやめてほしい。対処できない強さではないが、経験値などからすれば、割りに合わない。


 ……今度は集中攻撃持ちが3体。

 相変わらずの敵の多さだ。しかも、今回は3体。最初以外はずっと2体だったからよかったけど、3体はきつい。


 1ターン目は防御。

 敵の狙いはアベル。HPの2分の1が削られる。これだから、集中攻撃持ち3体の出現はまずいんだ。

 2ターン目、アベルはそのまま防御。俺は攻撃、七海はアベルを回復。3体よりもどちらかが行動すればいいのだが。


 1体目、2体目と実に順調にアベルをボコってくれた。

 アベルは瀕死状態のなっていて、目の前が黄色になっている。


 七海の回復魔法が間に合ってほしい。


 そんな願いとは裏腹に、目の前が赤くなる。

 アベルが倒れ、棺桶ができる。せめて、こういう時は七海が回復魔法を使わずに、大爆発魔法に切りかえることができたらいいのだが、ターン制の悲しさ、七海の回復魔法は不発に終わる。


 こういう時でもMPは必ず消費されるのがまた悲しい。


 次のターンになったが、敵は3体健在。

 今の敵を倒すには俺の攻撃+αが必要で、いつもなら、アベルか七海の攻撃魔法である程度のダメージを与えられるから、それで倒していたのだが……

 このターンを防御しても、ジリ貧は目に見えている。


 ……特攻あるのみ。

 

 上手くいけば、2体の敵を倒すことができる。

 まずは七海の大爆発魔法がさく裂し、すでに攻撃した敵を1体倒す。そして、敵が動く前にさらに俺が攻撃して、もう1体を倒す。


 これが理想で、こんな時に限って理想通りに進む。


 さっき、そうなっていればと思うが、そんなことはこのゲームでは仕方のないことだ。残りは1体だけだし、さっさと倒す。


 さて、問題はここからだ。


 さすがに2人だけで探索するのは無謀だ。

 ここは、一旦町に戻って立て直した方がいい。


「脱出魔法を使えるのってアベルだけなんだよね?」

 冷静に七海が言う。


 ……立て直すにも、その前提条件の『町に戻る』ができなかった。

 

 ちょっと待て、もう一度考え直してみよう。

 アベルが使える魔法。

 移動魔法→アベルしか使えない。白の羽で代用可能だが、どちらにせよダンジョンから出ないと使えない。

 脱出魔法→アベルしか使えない。アイテムで代用不可能。


 アベルがいないとどうにもならない。


 そういえば、まだ習得していないが、蘇生魔法を覚えるのはアベルだけだったな。


 ……どう考えても、アベルはこのパーティーの命綱です。本当にありがとうございました。


 極端な話、俺と七海が死んでも、アベルさえ生き残っていれば、撤退するもよし、覚えれば蘇生魔法で生き返らせるもよし、パーティーの立て直すのは可能だ。

 しかし、ダンジョン内でアベルが死んでしまったら、撤退もできずに、パーティーの全滅が約束される。

 生命線だよ、本当に。


「とりあえず、全滅覚悟で進むってことでいいよね?」

「それしか、ないからな。らいげきの剣があれば、目的達成でいいだろう」

「そこまで行けるのかな」

「ここからは完全に攻撃のみ、先制攻撃できればよし、後攻になれば負け。で、大爆発魔法が効かないやつは逃げる。そっちの方がまだましだ」

「分かったよ。とりあえず、僕は大爆発魔法を唱えればいいわけだ」


 まぁ、その理解でいい。

 突撃だ。

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