第30話 このダンジョンって罠まである
シバミアクへと続く山道に再び戻ってきた。
「さて、この山道には前も言った通り、2つ貴重な装備品がある。最終フィールドに続くダンジョンだけあって、モンスターも手ごわい。僕の大爆発魔法も全モンスターに効くわけじゃないし、タミトに何回か帰ることになるだろう」
そりゃそうだろうな。用心して進むことになる。
険しい山道を進んでいく。足元がデコボコになっているわけではないが、道が狭い上、分岐が多く、方向感覚が狂う。
その狭い道に斧を持ち、全身が黒い鎧で覆われた戦士2体、そして、長剣を携え、真っ赤な鎧に身を包んだ骸骨1体が立ちはだかる。赤い骸骨はその骨まで真っ赤に染まっている。
「黒い鎧がバーサーカー、赤い骸骨が邪神の騎士だね。両方とも攻撃力とHPが高い。で、集中攻撃持ち」
「集中攻撃?」
「簡単に言うと、最初にターゲットにした敵を倒すまで狙ってくるってこと」
攻撃がバラけないってことは……、これはヤバい。逃げることが運任せなこのゲームでは基本戦うことになる。攻撃がバラけるからこそ、対処も可能だが、アベルや七海に集中されると1ターンで倒されることになる。
「奏、ここは無理をせずに誰を攻撃してくるか、見極めてから攻撃に移ろう」
七海にしたがって、全員、防御をする。
バーサーカーと邪神の騎士が俺に迫ってくる。……今回のこれは好都合と言っていいだろう。
勇者の盾で斧や剣を受け止める。
火山では魔法攻撃が敵の主力だったためか、今回の敵の攻撃がより重く感じる。
きっついな。耐えきったが、3体の攻撃により、4分の1のHPが削られる。防御力、HPともに一番高い俺で、しかも防御してこれか。
今回の戦闘はとりあえず、俺は防御、アベルは中級回復魔法と上級火炎魔法、七海は大爆発魔法でしのぐ。
MPの消費が激しいが、これは仕方ない。
攻撃魔法が効いてよかった。
なんとかモンスターを倒して、先に進む。途中、バーサーカーと邪神の騎士が襲ってきたが、1ターン目に防御。対象を見切ったうえで、対処というのがハマって戦えている。敵以外は今のところ2体止まりなのも、なんとか戦えている理由だ。
3体になった場合はどうなるか分からない。
いくつかの分かれ道があったが、どちらが正解の道か分からず、そのまま進む。
「戻ろう。奏」
七海にふいに声をかけられる。
「……どういうことだ?」
確かに敵は強いが、今のところ、戦えているし、MPにもまだ余裕はある。戻るほどのものではないと思う。
「同じ光景が続いているのには気づいているかい?」
確かに同じような光景だが、しかし、実際に進んできているし、もともとが岩山で同じようなものではないのか?
「これは無限廻廊といわれる罠だ。ずっと進んでいっても同じところにばかり出る。戻ればすぐに来た道に戻る。この山道の難易度を上げる要因の一つだ。もともとの光景が似ているので、進んでいると思ってしまうが、これは同じようなではなく、同じだ」
すごい罠だな。
しかも今まで、結構な敵と戦ってきた。七海がこういう罠があることを知っていたからまだしも、知らなかったら、まだ戦うことになっていただろう。
「これまでと同じ距離を戻らないといけないのか?」
「いや、これは進めば進んだような感じになるけど、同じところをグルグル回っているようなもので戻るのはすぐに戻れる」
「じゃあ、脱出魔法を使うことはないな」
七海に言われたとおりに、戻ると、確かに最初の方に見たような道に戻ることができた。
違う道に行くが、やはり同じような景色が続く場所に出た。
「七海、これって……」
「ここも……だね」
無限廻廊か。一か所だけでも厄介なのに、複数ある。MPも心もとなくなってきたから、一度撤退することにする。
タミトの町で宿屋に泊まって回復してから、再度挑む。
「七海、このダンジョンの罠は無限廻廊だけか?」
この罠だけでも辛いが、他に罠があったら、それも警戒しないといけない。
「無限廻廊ではないね。他にどのような仕組みで山道に配置しているのかは分からないが、落とし穴がある。これに落ちるとかなり前まで戻される。ただ、らいげきの剣は落とし穴に落ちないと見つけられないらしい」
「当然、落とし穴はみえないんだよな」
「見えてる落とし穴は落とし穴とは言えないと思う。それは単なる穴だね」
聞けば聞くほど面倒なダンジョンだな。
当時、このダンジョンをクリアできた小学生はいるのだろうか。いまさらながら、親父の今のゲームはヌルゲー発言が思い出される。仮に、親父がこんな理不尽ゲーをクリアしてきたのだったら、確かに今のゲームはヌルゲーというか、少なくとも親切だ。
「……当時の小学生はこれをクリアしていたと思ったらすごいな」
「その推測は間違いだよ」
「?」
「当時の小学生の多くは、まず、このゲームの約束の言葉の間違いでつまづき、海でつまづく。そして、このダンジョンまでたどりついた小学生達も多くがこのダンジョンで投げ出したと聞く」
……やっぱりという感想しか出てこない。
まだまだ先は長いのが、気がかりだ。
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