第28話 マッドボマー、再び

 地獄のグール相手のスパーリングのおかげで、ついに七海が大爆発呪文を覚えた。

 

「これで、攻撃にはいまいち役に立たないとの汚名も返上だな」


 七海が得意がる。

 確かに、正直、今までの攻撃呪文はなんだったのかと思うほどの威力だ。少なくとも、グール相手には無双している。氷結魔法しか使えない時は、まだまだ使えると思ったが、あくまでも使えるレベルだ。


 大爆発魔法は使えるなんてもんじゃない。

 主力だ。

 ダメージ幅が大きいから時々打ちもらすこともあるが、その場合は俺が攻撃すればいいだけの話だし、何よりも全体攻撃というのがいい。


 さて、これでいよいよ戦闘での存在感がなくなってきたのが、アベルだ。

 今までは、上級火炎魔法が使えるので、それなりに意味があった。それでも、MPが七海より少なかったり、完全回復魔法を覚えなかったりするので、使いにくいのは違いなかったのだが。


 七海が上級火炎魔法よりも完全上位の魔法を覚えてしまったせいで、完全に戦闘では七海が役に立つようになったのだ。

 もちろん、大爆発魔法の消費MPは上級火炎魔法より多い。


 しかし、七海のMPはこのゲームにしては良心的に設定されているというべきか、相当多めに設定されている。

 なんせ、上級火炎魔法で消費するMPは4、大爆発魔法で消費するMPは8。

 それに対して、七海のMPは150を超えている。無尽蔵ではないにしろ、かなりの数を打てる。ちなみに、アベルのMPは80そこそこ。

 

 さらに、攻撃面でいうと、アベルの打撃攻撃もしょぼい。

 こちらは鉄の槍が攻撃力としては最高の武器だったというひどい有様。俺の武器が何回も更新されてもずっと鉄の槍。


 もちろん、アベルに他の武器も装備させようとしたが、ことごとく装備できなかった。


 現在のアベルの装備は疾風はやての剣。

 攻撃力こそ5しかないが、二回攻撃ができる。最上位の武器が鉄の槍なので、2回攻撃の方がずっと得なのだ。それでも、俺の一回の攻撃で与えるダメージには到底届かないし、1回にダメージを与えられるのは、あくまでも1体だけで、2体の敵にダメージを与えられるわけではない。


 微妙だ。


 アベルがこんなのでも、七海の大爆発魔法のおかげで、グールの掃討は進む


「大爆発魔法!!」

 襲ってくるモンスターグループを中心にして、まばゆい閃光とともに火炎が広がり、消える。

 次の瞬間、モンスターが消える。


「さぁ、次!」

 ……しかし、七海ってこんな性格だったか? 

 大爆発魔法が楽しすぎて、テンションがあがりっぱなしだ。


「七海、あまり調子に乗りすぎるなよ」

「分かってはいるが、今まで、なんていうか一掃するっていう感じの爽快感はなかったからね。楽しいんだ。敵が四散するのではなくて、消えるっていうのがやっぱりいいね」

 それは分からないではない。

 そういえば、爽快感という意味では、七海は何かを吹っ飛ばした時も妙にテンション上がっていたな。


 自分が作った機械が失敗で爆発しても笑っていたような気がする。

 

 ……やっぱりマッドボマーじゃないか。


「おや? あそこだけ、ちょっと地面の色が違うみたいだ。遠目だからちょっと分からないけど」

「行こう」

 急いで向かう。

 もちろん、襲いかかってくるグールを七海が大爆発魔法で迎撃しながらだ。


 地面の色の違うところには、はたして光のお守りがあった。

 

「よし、これでここでの用事は終わりだ。すぐに帰るぞ」

 アベルに脱出魔法を唱えてもらおうとする。


「もうちょっとだけ、いいじゃないか。MPがなくなるまでちょっとモンスターを倒してから帰ろう。経験値もたまるし」

 絶対に経験値はおまけだ。

 最初に来たときは、視覚的にかなりきついものがある、とか言っていたくせに。

 しかし、一方で俺も慣れたし、襲ってくるグールはほぼ一掃できるし、これから先レベルが高いにこしたこともないので、強く反対する理由もない。


「この先はどうなんだ?」

「もちろん、敵は強い」

「じゃあ、七海の言う通りにするよ」

 俺がそういうと、七海はまた、嬉々として大爆発魔法を唱える。


 現実世界に戻った時に、七海にダイナマイトを開発させたらダメだな。

 注意しよう。

 密かにそう心に誓うのだった。

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