第27話 これが地獄か
シバミアクへの山道には光のお守りがある。
これは普通にこのゲームをしている中で知った情報で、七海が知っていたわけではない。
七海はシバミアクへの山道について把握していると言っていたが、シバミアクへの山道にある宝箱に入ったアイテムは把握していたが、光のお守りは宝箱に入っているわけではないから、把握しきれなかったと言っていた。
確かに、今までの水のお守り、火のお守り、土のお守り、風のお守りのどれにしたって、宝箱に入っているものはなかった。
ただ、光のお守りは特定のモンスターだけが出るフロアにあるとのことなので、シバミアクへの山道で特定のモンスターだけが出るところがあれば、そこが光のお守りのあるフロアということになる。
今、俺たちはシバミアクへの山道が開く崖の前にいる。
ここで、邪神像を使えば、崖が割れるとか。
祭壇も何もないが、七海がかかげて見たらいいんじゃないかというので、とりあえず、邪神像をかかげる。
すると、地鳴りがして、目の前の崖が割れた。
ゲームでは何かアイテムを使うと、山が割れたり、海が割れたりするので、このイベント自体はよくある方だが、こうして目の前で崖であった場所に道ができるのはすごい。
かかげた邪神像はまだ手元にある。
どうやら、消えないタイプのイベントアイテムのようだ。俺がしげしげと邪神像を見ていると
「全く不思議だ。どうして、この邪神像をかかげると崖が割れるのだろうか?」
「……神様が見てるってやつじゃないのか?」
「邪神っていうのはいいかげんなもんだね。信心のないものがかかげても、それを持ってるだけで、通してしまうんだから」
「まぁ、それはそうだが、こんなおどろおどろしい像なんて、信者でもなきゃ持っていられないぞ」
「確かにそれもそうだ。戦隊モノの悪役側の戦闘員が、妙なデザインの服を着て、奇声を発するけど、あれは常人には到底真似できない。それで敵味方の区別をしているようなものかな」
戦隊モノの悪役に対するディスりがすごいが、確かにそれに近いものを感じる。
こんなものは普通の人間なら持っていられないからな。
邪神像をしまって、道を進む。
山道というからには、山を登っていくのだろうと思っていたが、なぜか地下に行くというか、洞窟のような下に行く道がある。
「確か、シバミアクへと続く道は登りのはず。下りはシバミアクへと続く道ではないはずだが」
「でも、ここには勇者の鎧とらいげきの剣がある。いずれも敵からの入手する装備以外では最強の装備で、特に勇者の鎧は呪文と炎のダメージのいずれも3分の2に抑える」
「行ってみる価値はあるな」
あえて、シバミアクへと進む道ではなく、回り道を選び、洞窟へと続く道を下っていく。
狭かった道から、広大な空間に抜け、視界が開ける。
「……なんだ。ここは」
入ってすぐにモンスターに襲われる。グールが合わせて4体。
高いHPがあるが、攻撃力、防御力ともにそれほどではない。特殊な攻撃を持っているわけでもない。敵の強さで言えば、火山で出会った邪教司祭よりも確実に弱い。
しかし、気持ち悪い。
グールを漢字で書くと、屍食鬼、死体を食べる鬼だ。そして、それ自体が腐った人間の死体のような姿をしている。
皮膚はただれて、ところどころ骨が見えているし、服は同じように破けて、血で汚れている。手をこちらの方に伸ばしてくるのが、また気持ち悪い。ゾンビというものは古今東西、なぜか足よりも手が先に伸びてくる。足の速いゾンビだって登場することがあるのだが、それでも、足が手よりも速いゾンビは見たことがない。
顔はというと、目は片方はつぶれ、片方は半分飛び出ている。皮膚がただれているためか、鼻もなく、歯はむき出しになっている。
こうしてその集団を目のあたりにするとよくわかる。
歯をむき出して、手を伸ばしてくる姿には生理的な嫌悪感がある。今まで出なかったわけではないタイプのモンスターだが、他のモンスターに混じって出てくるのと、わけが違う。
それが見渡す限り続いている。
「間違いなく、このフロアのどこかに光のお守りはある。特定のモンスターというのは、このグールだったってわけだ。……僕としては配置するモンスターにもう少し気を使ってくれるとありがたかったけど」
七海が言う。
同感だ。
なぜ、よりによってこいつを選んだのか。
闇の中に光を配置する俺、カッケー的なノリだろうか。
「しかも、この数だしな」
「ああ、このフロアだが、ゲーム中もっともモンスターとのエンカウント率が高く設定されているらしい」
「……ここまでのエンカウント率も相当高かったと思うが」
「その中でも一番、という意味だな」
とりあえず、蹴散らしながら行くしかない。
手にした剣でグールを薙ぎ払う。今の攻撃力なら確定で一撃。一瞬で消せる。
胴払い、振りおとし、けさがけ……剣の振るい方も様になってきたように思う。他はアベルは上級火炎魔法。七海はいまだ氷結魔法。
特定のモンスターしか出てこない。つまりはグループ化しやすいので、七海の氷結魔法もまだまだ戦力になる。
一、二歩進むごとにモンスターの対処をする。返り血を浴びることがないのが、ゲームのいいところだ。グールは強くはないが、決して弱くはない。出し惜しみをすると、徐々に削られていく。魔法がどこまで続くかが勝負になる。
途中でMPが切れたら、一旦撤退するしかない。
しかし、グールが地の果てまで続くこの光景。
「まさに地獄、といったところか」
地獄を見たことはないが、亡者がむらがり、道なき暗い道を行く。地獄と呼ぶにふさわしい。
「確かに見た目はまさに地獄だね。これは視覚的に、かなりきついものがあるよ」
この地獄の中で探し物をさせるってあたりがひどすぎる。
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