第26話 戦術ってなんだ?

 邪神の使いは八回目の挑戦で倒すことができた。


 とってもデレてくれた。

 三ターンものあいだ、一回も大爆発魔法が来なかった。どういう乱数しているんだ、このゲーム。連発が止まらないかと思えば、突然、一回も唱えて来なくなる。

 偏りが激しすぎだろう。

 前々からそうだが、選択される乱数にあまりにも悪意があるとしか思えない。乱数で選択できる幅が狭すぎてそうなっているのかどうなのか分からないが、とにかく偏る。


 三ターンの間に、1人倒すことができて、それからもう1人を倒した。二体いるボスにありがちだが、1体を倒すと、こちらに戦力が残っていれば、楽になる。


 攻撃が弱かったから、全員生き残って、一応アベルも攻撃に参加して、もう1人は楽に倒せた。


 ……前に考えた戦術なんか運の前には何の意味もなかったってことだ。

 

 倒せたのは嬉しいが、なんとなく釈然としないものを感じる。

 邪神の使いを倒して、さらに進む。祭壇があり、祭壇の上に邪神像が飾られている。祭壇といっても、ちょうど肩の高さぐらいに棚があって、棚の四隅にロウソクが立てられているだけの簡単なものだ。

 その真ん中に像が飾られている。

 

 邪神の形を模したものか、それとも単なる想像で作られたものか、はたまた気持ち悪いと思う形で作られているのか、何かの頭蓋骨を思わせる形に蛇がまとわりついている。

 

 ベタなデザインだが、おどろおどろしい。邪神像に手を伸ばす。

 ん~、やっぱりやだな。触った瞬間に呪われそうだ。

  

「なんだか、邪神とはいえ、祭壇の上に飾られているものを盗るっていうのはなんだか気持ちが悪いな」

「畏怖の対象だからね。神っていうのは」

「……お前でもちょっとは神様を信じているのか」

「そりゃね。科学をやっていたら、ごく稀ではあるが、本当に偶然以上の奇跡としかいいようのない確率の事象を目にすることもあるからね。神の存在を信じれるほど純粋でもないが、神の存在を否定できるほどのさかしさもないんだよ。むしろ、君にそんな殊勝なところがあったことの方が僕には驚きだ」


「いや、俺だって、一応、墓参りぐらいはするから」

 そう言いながら、像に怖々、手を伸ばす。


 ドンッ! いきなり後ろから押された。

 手に像はあるが、棚は崩れたし、ロウソクも消えた。

 見事なまでにすっころんだ。


「な・な・み!」

「いや、あまりにじれったかったから、ちょっと背中を押しただけだよ」

「背中を押すときはあくまでも比喩的な意味だけにしてもらいたい」

 誰だ? 神様が畏怖の対象とか言っていたやつは。舌の根も乾かないうちに神を全然信じていない行動をするなよ。


「ちなみに神の存在については否定しないが、この場合はアイテムだし、手に入れることができると決まっているものについては躊躇ちゅうちょすることはないと思っている」

「冷静な判断だな。その判断力を是非、俺の背中を押すところではなく、自分でとるって方向に使ってほしかった」

「君の言わんとするところは分かるが、ゲームシステム上、君を出し抜いてアイテムを手に入れるということができないみたいでね」

「それで、押したってわけか」

「その通りだ」


 全然ためらいがない。

 この思い切りのよさは七海のいいところなのか、悪いところなのか。

「ところで、なんともないね?」

「ああ、単なるアイテムみたいだな」

「じゃあ、こんなところには用はないね。アベルの脱出魔法で出るとしよう」

アベルが脱出魔法を唱えて、火山を出る。


「なかなか、大変なダンジョンだったね」

 確かに溶岩は熱いし、ボスは運ゲーだし、ひどい目にあった。


「しかし、これでジバミアクへと続く山道へ入ることができることになったわけだ」

「うん。行くとしよう。ふふんっ」

 七海が笑う。どこか得意気な顔だ。

 この時は、聞いてやらないといけない。

「七海、何かあるのか」

 七海の得意気な顔がさらに進化してドヤ顔一歩手前になる。


「よく聞いてくれた。奏。僕の真骨頂はここからだ。終盤に入っていくが、ここからのモンスターはほぼ把握しているし、ダンジョンアイテムも把握している。さすがに構造の全てを把握しているわけではないが、僕の活躍に期待してもらいたい!」

 ドヤ顔一歩手前だった顔がドヤ顔に変わった。さっきの顔は要するにフリだったわけだ。

 ちなみに、この顔は七海も気づいちゃいないかもしれないが、俺だけにしか見せない七海の顔で、特別感があるし、なによりも純粋にかわいいのだ。


 これだけは七海を褒めざるをえない。


 ちょっとマッドサイエンティストなところがあろうが、ちょっとヤバい発明があろうが、なんだろうがそうなんだから仕方ない。


 なんていうか、小動物的なかわいさとあどけなさ、それでいて、なぜかキレイで絶妙なバランスを保っている。

 だから、あの顔をしたときは、聞いてやらないといけないのだ。


 なんせ、俺が見たいんだから。


「じゃあ、せいぜい期待することにするよ」

 でも、俺から出る言葉はこんな言葉だけで、決して面と向かって褒めることはしない。その理由はいろいろとあるが、そういうもんなんだ。


「うん。君の期待に応えるとしよう!」

 七海が高らかに宣言した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る