第25話 祈りを捧げよ!

 数の暴力に対して、数の暴力に対抗することはできない。

 どうしたらいいかと思っていたが、結局、アベルの封魔魔法、七海の睡眠魔法を打つことにした。

 攻撃魔法では一撃で倒せない上、当たるとは限らないというか、なかなか効かない。

 

 封魔魔法にしても、睡眠魔法にしても、それなりに耐性がある。

 だが、封魔魔法か睡眠魔法のどちらかが効けば、邪教司祭に関してはほぼ無力化できる。

 その間に殴って倒す。

 この戦法はそれなりにMPを使うのだが、戦闘後の回復まで考えるとやや使った方が減りが少ないと思う。

 

 結局は、魔法組は補助、俺が殴るっていう基本戦術に落ち着く。

 

 火山には、水の衣の他に見るべき宝物もなく、山頂に向けて歩くしかないのだが、このゲームの基本である性格の悪さがここでもにじみ出ている。


 溶岩地帯が長く続いていて、できるだけ行きたくないと思うところが、正しい道だった。今回はただ一つの例外もなかった。

 ある意味わかりやすいが、できるだけ多くダメージを与えることを目的としているようにしか思えない。

 

 できるだけ近づきたくないというのは、これは2つの意味がある。

 1つはできるだけ、ダメージを受けたくない。これは当然だろう。

 もう1つは万が一、間違いの道だった場合の心理的な打撃が大きいということだ。簡単な道を行って間違いでも仕方ないか、であきらめがつく。しかし、もしも、長く溶岩地帯を進んだ後で間違いだった場合、心が折られる。

 

 そういった意味で、最悪を回避する場合、溶岩地帯をできるだけ避けて通るという選択は合理的なはずだ。そういった心理を見透かすかのように、できるだけ行きたくないと思うところが正解だった。


 こんなダンジョンが一回の探索でクリアできるはずもなく、何回も出入りを繰り返した。


 それでも、何とか山頂と思われるところに来ることができた。


「おのれ、我らの聖地を犯しに来るとは。神をも恐れぬ愚か者め」

「かくなる上は、わが神にささげるにえとしてくれようぞ」


 いきなり襲ってくる信者。

 『邪神の使い』という名前だ。


「ちょっとまずい」

 七海がきついという顔をする。

「どういうことだ?」

「あの敵は大爆発呪文を使う。しかも、封魔魔法、睡眠魔法ともに完全耐性で効かない。攻撃呪文はなぜか邪教司祭よりは効きやすいが、そもそもHPが高くて、氷結呪文と上級火炎魔法だけじゃとても1ターンでは倒せない。君の打撃でも2ターンはかかると思う」


「大爆発呪文は確か50~90のダメージを食らうんだよな」

「その通り。だから最大180ぐらいのダメージを1ターンで食らう。ちなみに彼らはラストダンジョンでも出てくる。攻略の鍵だと思って終盤あたりは大体頭に入れてきたからね。彼らは最終盤の敵だ」

「いよいよラストが近づいてきたってことか」


「ポジティブに考えれば、そうなるね。ただ、50~90と幅はあるものの、2人に連発されれば、130程度のダメージは覚悟しておいた方がいい」

「ただ、目の前の敵は強敵……というか、こっちのHP的に考えて場合によっては1ターンで壊滅状態になるわけか」

 七海がうなづく。

 現在の俺のHPは180よりもわずかに多いぐらいで、アベルや七海は130ぐらい。

 俺以外は死ぬし、俺も回復手段がなく、まず間違いなく全滅する。


「魔法を軽減する装備っていうのはないのか?」

「装備品のデータぐらいはある程度見てきたし、そんな便利な装備があれば、頭に入ってると思うけど、あいにく、現時点で手に入るものはないな。ちなみに僕の今装備している水の衣、これは敵の炎の攻撃を半減してくれるけど、魔法に対する防御効果はない」

 今のところ、魔法を防いでくれる便利な装備はないってか。


「対策は?」

「あると言えばあるよ」

「本当か?」

「うん」

「どんなのだ?」


「古今東西、いざという時のためのもので、誰でも簡単にできる」

「なるほど。俺もできるし、七海もできるんだよな?」

「もちろん」

「どうしたらいい?」


「神頼み」

「え?」

「神様にお願いするのさ。相手が魔法を使いませんようにって」

「……運任せ?」

「確か大爆発魔法を唱える確率は2分の1に設定されているはずで、両方とも唱えない可能性がなんと4分の1もある。十分戦えるってことだね」

 おいおい、4分の1で2連発食らうってことだろ。それは。

 はぁ、ここで、運ゲーか。

 とにかく戦うしかない。今あるところで戦うしかないからな。


 来るなよ、来るなよ……

  

 ……まぁ、それぐらいで、来なくなるなら苦労しないよな。


 祈祷力が足りません。


 生贄にされてないだけまし。レベル上げも一応考えたが、アベルと七海の両方を大爆発魔法の連発に耐えられるだけのHPにするには何レベル上げたらいいか分からない。

 

 確率に賭けた方がまだましってやつだ。

 1回目は1ターン目に連発をくらい、2回目、3回目は2ターン目に連発をくらった。2回目、3回目は1ターン目に片方が大爆発魔法を使った。

 ここまでは大体確率通りだった。


 4回目も1ターン目に連発を食らった。それで簡単に全滅した。


 そこで、5回目からは戦法を変えた。

 とにかく、攻撃は俺の攻撃しかあてにならない。アベルの攻撃もある程度のダメージを与えるが、それほど頼りにならない。

 だったらと、アベルと七海は回復に回して、1ターン目は俺だけ攻撃して、アベルと七海は防御。

 このゲーム、防御のコマンドが活用されすぎっていうか、すごく重要。打撃だけじゃなく、魔法によるダメージも半分になる。


 2ターン目は俺が攻撃、アベルが七海に中級回復魔法、七海が俺に完全回復魔法。

 回復重視で、2ターン目にアベルが死んだら、仕方ないが、1ターン目に確実に生き残ることができて、2ターン目に俺が回復できる可能性があるのは大きい。


 実際、2ターン目の行動順番に恵まれたとはいえ、1ターン目に連発されて、2ターン目も片方に大爆発魔法を唱えられたのに、俺と七海は生き残った。回復してないアベルは倒れた。


 仕方ないね。っていうか、基本的にこの戦術はアベル見殺しだから。

 ごめんな。敵を倒すってことからすれば、優先順位は俺、俺を完全回復できる七海、その後にアベルになっちゃうんだ。


 3ターン目になると片方を倒せたのだが、俺を完全回復した後に、敵に大爆発魔法を唱えられ、七海が倒れ、5ターン目に俺が死んだ。

 だって、回復手段がなくなったら、純粋に力勝負で4、5ターンと先行された挙句に大爆発呪文の連発を受けたんだよ。

 もちろん、力負け。


 しかし、5ターン目まで耐えたのも確かで、戦術的には間違っていないと思うが、6回目の挑戦も同じように負けた。


「なんで、こんなに連発されるんだ……」


 誰だよ、2分の1の設定って言ったのは。


 こんな時、RTAなら『祈りの力が足りない 』『屑運乙www』とか言われるんだろうな。全力で祈っているのに。


「……運が悪いな」


「奏の日頃の行いが悪いせいじゃないか? より一層強く祈るしかないね」

「もう、イワシの頭でも悪魔でも邪神でもいいから、祈りを聞き届けて欲しいよ」

「いっそのこと、邪教に入信してみるかい?」

 本末転倒もいいとこだ。

 むしろ、邪神のせいで、祈りが阻害されてる感じがする。


 今に見てろよ。








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