第24話 数の暴力がひどすぎます

 今、跳ね橋の鍵を使って、火山の入り口まで来た。ありがたいことに、跳ね橋の鍵は跳ね橋を下ろすと消えてしまった。シュールな光景だが、ちょっとほっとした。


 消えるイベントアイテムもあるってことだ。

 火山に踏み入れる。今までは世界を巡っていて、出会ったモンスターと戦っていただけだったが、ここからは明確に敵の領域に入ってくる。


「少し緊張するな」

「どうしてだい?」

「なんか、いよいよ敵の領域に踏み入れたって感じがするからかな。ちょっと興奮しているのかもしれない」

「なるほど。核心部分に触れようとすると、人は軽い興奮状態になるからね。そういった気分もありうるだろう」


 山道を登る。ガスはないためか、匂いはしない。

 ただ、これは山道と言っていいのか不安になる。なぜかというと、暗くて、普通のダンジョンと景色が変わらないから。

 

「……火山なんだよな。ここ」

「僕はそうと聞いている。まぁ、ダンジョンとしての景色が変わらないのは、容量の制約だろう」

 まぁ、そんなもんかもしれない。

 ただ、敵の信者がすごくうろうろしている。

 この数はというより、といった方が正しいのかもしれない。


「あの恰好は、お前を捕えていた司祭だよな」

「そうだね」

「中ボスが雑魚で出てくるっていうことか」

「僕は戦ったことはないけれど、そういうことだろうね」

 まぁ、中ボスとはいえ、七海を仲間にする前だったし、あのレベルと装備で2ターンしかかからなかったから、今なら、一撃確定だろう。

 数がいるから面倒ではあるが、今までの敵に比べたら脅威ではないはずだ。


 中ボスが雑魚で出てくるってことはそう言ったレベルアップを実感する瞬間でもある。


 ……数の暴力ってこういうことを言うんだと思う。


 俺は忘れていたのだ。

 司祭が上級火炎魔法の使い手であり、このゲームにおいて戦闘時の行動順はほとんどランダムで決まってしまうことを。


 確かに邪教司祭は俺の攻撃だと一撃で倒れ、アベルの攻撃でも2回で倒れるぐらいに紙装甲ではあった。

(アベルの攻撃だと2回かかること自体、驚きだったが)

 ただ、まず、攻撃魔法への耐性が高く、この意味でモンスターより戦いにくい。攻撃魔法が効きにくいというのは、攻撃に関しては七海が戦力外になるってことだ。実質2人の打撃で倒しきっているようなものだ。

 アベルと七海の攻撃で倒せればいいが、あいにくと足りない。


 しかも、上級火炎魔法を乱発してくる。

 これが1体や2体なら、まだよかった。最大3体で、何回も襲ってくる。上級火炎魔法は全体攻撃で全員に25~35を与える。

 

 運が悪ければ、1ターンで100のダメージを受ける。運が悪くなくとも2体は健在なので50~60のダメージを受ける。

 

 それが何回も続くのだ。

 集団とはかくも恐ろしいものなのか。

 さらに、この邪教司祭が操っている人形がこれまたおそろしい。

 木で作られていて、こちらには魔法が効く。それが救いといえば救いだが、この木偶人形でくにんぎょうの特殊能力がひどかった。


 MP削減。

 これ自体は、シリーズでもあった攻撃だ。

 『妙な踊り』というもので、シリーズでは大体4~8ぐらいのMPを奪っていった。

 それでも結構、辛かったが、おそらくこれもあまり深く考えていなかったのだろう。

 MP削減が減る。


 最大MP基準ではないだけ、ましと言えばましかも知れないが、現在MPが高ければ高いほどMPを削ってくる。七海のMPが一気に40削られた時には、さすがに驚愕した。

 温存など許さんとでも言わんばかりだ。


 邪教司祭を放置すれば、上級魔法が飛んでくる。

 木偶人形を放置すれば、妙な踊りでMPを削られる。


 しかも、ここには溶岩地帯があり、最初は歩けるのかさえと思ったが、そこを進まないと行けない感じだったから、進んだが、ここは歩くとダメージを受けた。一歩につき2のダメージではあるが、それでも減ることには変わりはない。


 そして、バリアから身を守る保護魔法を唱えてもダメージを受ける。バリアとは根本的に異なる扱いがされているようだ。

 唯一、七海だけはダメージを受けていないが、七海が装備している水の衣のおかげだ。これは、この火山の途中で手に入れた一点物だし、七海のHPが一番低いので、七海に装備させるしかない。


 アイテムは持ち込めない。

 敵は全体魔法を乱発する上、MPを削ってくる。

 歩くだけで、消耗する。


 敵地といっても、これはひどい。

 全部回復が問題なんだが、特に数で押される。

 邪教司祭が多すぎる!


「邪教司祭って邪教の信者だよね」

 七海が聞く。

「そうだな」

「町で出会った人の数ってどれくらいいたっけ?」

「……そんなに多くなかったと思う」

「もしかして、邪教って言っているけど、この世界じゃ多数派なんじゃないかって僕は思うんだけど、奏はどう思う?」

 否定できないあたりが辛すぎる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る