第20話 囚人は逃げない

 金の鍵は間違いなくキーアイテム。

 これでブリキの鍵、鉄の鍵、金の鍵と鍵系のアイテムが全てそろった。世界中の鍵を片っ端から開けることができる。

 

 この町には牢屋があり、まずはここの牢屋の鍵を開けることにする。

 ちなみに牢番がいて、話を聞いたら、

「大盗賊のラパンを捕まえて、牢屋に入れていたのだが、いつの間にかいなくなってしまったのだ。鍵を開けた形跡もない。全く天下の大盗賊とはよく言ったものだ。足取りも全くつかめない」

ということらしい。


 こんな口の軽いやつが牢番でいいのか?

 自分の警備はザルでしたと認めているような牢番は牢番として役の立つのか?

 もっとも、町に牢屋の鍵、もとい金の鍵が売っているのに、気づかないか放置しているのかのどちらかで、どちらにしてもその能力は推して知るべしと言ったところかも知れない。

 

「奏、そんな置物はいいから早くこの鍵を開けよう」

 七海が牢屋の鍵を指しながら、言う。

「いくらゲーム内でどんな話をしてもいいからって牢番の前でそれはないだろ」

「そうは言っても、気になるんだ。ここの囚人は何を話すのかとか、牢屋に見えないところがあるとか」

 好奇心旺盛な七海にこの状況は我慢しろと言っても無駄か。

 ということで、牢番から見えてるけど、金の鍵を使う。ザルどころか枠な警備だ。そのまんま、素通し。

 さて、まずは、囚人に話しかける。囚人と言っても、モブ老人と同じ格好なので、あまり囚人ぽくない。


「ここの町から南東がシバミアクへと通じる道じゃ」


 セリフもすごく囚人ぽくない。行先にかかわる重要な情報だ。シバミアクは最終フィールド、旅の終着点付近のこと。

 この情報をどう活用するかは先の話だが、初めて最終フィールドの名前が出てきたのだ。物語は進んでいる。


 もう一つの牢屋も開けて、暗闇を探る。

 すっと壁がなく、前に進めたところがあった。ダンジョンでもよくある今まであるいていたところが暗くなり、今から歩くところが明るくなる画面切り替えだ。

 暗闇を見かけたら、この画面切り替えを確認しないといけない。そして、暗闇の先にいたのは、モブAである。

「あら? もうみつかっちゃったか? うまいこと隠れて、牢番が来て、鍵を開けたら隙をついて出ようと思っていたんだけどな。僕は盗賊ラパン。はい。これを返すよ。今度こそ捕まらないようにしなくちゃな」


 モブAとなっているのはおそらく専用グラを用意する容量がなかったためだろう。盗賊とは思えないが、自己紹介もしてくれたし、盗賊ラパンなんだろう。自己紹介をする盗賊もおかしいが、隠れて見つかって返すってのが俺っていうのはもっとおかしい。

 俺は何を返してもらうかも知らないわけで。


「どうして、『返す』なんだろうね。僕たちが何かを盗まれたわけでもないのに」

「本当は俺たちが取り返す的な流れで回収するんじゃないか? どっかで話を聞いてるとかさ」

「ゲームにはあまり詳しくないが、そういうのはちゃんと進行が管理されていると思うんだけど」

 七海の言う通りで、普通はフラグ管理と言って、イベントが順番に起こるようにしていて、あるイベントをこなさないと、次のイベントが起きないようになっている。

 けれど、まぁ……

「進行管理って大変なんじゃないか? 順番をつけるだけでもある程度容量をつかうんじゃないか?」

「そりゃね。順番の優劣をつけるだけでも、それなりに容量を使うと思うし、容量の問題かな」

「ま、そういうことだろう」

 必要な要素を入れるだけでも、限界ギリギリの容量。むしろ、必要な要素まで削ってる感のあるこのゲーム。フラグ管理に割り当てる容量があるなら、要素を一つでも入れようとするだろう。


 それでも、ラパンは何を渡してくれたようだ。何を渡してくれたのかは分からないが、とりあえず急いで道具袋を確認する。

 そしたら、『跳ね橋の鍵』が入っていた。


 まだどこの跳ね橋かも分かってないが、ストーリーに絡む重要アイテムっぽい。

 必要な要素を頑張って入れた結果、一気に回収する町がこの町になりましたって感じだな。


 とりあえず、ラパンなる一般人もどきにお礼を言う。

「今度こそ捕まらないようにしなくちゃな」

 ラパンはさっきの最後の言葉をもう一度、繰り返す。ここらあたりがやはりゲームなところだ。

「ところで、ラパンはどうするのかな?」

 七海が俺に聞く。

「さぁ? さすがに脱獄するんじゃないか、鍵はかかっていないし、今度は捕まらないようにって言っているし、イベントも消化したから、ここにいる理由もないだろうし」

「そうだな。そしたら、僕らは大盗賊を逃がした悪党ってことのかな」

「ま、ゲームの中の勇者なんて、人の家のタンスをあさったり、城の宝物庫を荒らしたりするんだから、そのくらいやっても悪行がちょっと増えるだけなんだから、関係ないと言えば、関係ないね」

「現実ではやってくれるなよ。さすがにそういう立場での友人Aとしてインタビューはやめてもらいたいな」

「誰がするか!」

 ゲームでしていることをやっている子どもがするんだったら、数百万本単位で売れているこのシリーズだったら、世の中もっとやばいことになってるはずだ。


「でも、ちょっと興味があるから、町を出た後で確認してみないか?」

 ……七海の癖みたいなものだ。気になったら、確認せずにはおいてられない。俺もちょっと気になる。で、町を出て確認することにした。

 このゲームのシリーズでは一度開けた扉でも、フィールドマップと町のマップを切りかえると扉がもう一度かかるするようになっている。

 一度、町を出て、再度かかっていた牢屋の鍵を開けて、のぞいてみると。

 ……ラパンいるよ。話しかけても、

「今度こそ捕まらないようにしなくちゃな」

 やはり同じだ。

「……期待外れもいいところだ。どんどん牢屋を解放してやったらどうなるか、すごい楽しみだったのに」

 七海ががっくりする。むしろ、混乱させた方が面白いと思っているぐらいだから、そういう反応でもおかしくはない。

 どうやら、囚人は逃げないらしい。

 これはこれでつまら……いやいや、そうでなくては困るな。うん。俺は七海とは違うのだ。


 さて、これからは世界をさらに巡ることになる。

「これで、問題ないことが分かったな。金の鍵で牢屋という牢屋を片っ端から開けてやるぞ。どうせ囚人は逃げないしな」

 七海に言い聞かせるかのように宣言する。

 お前に責められる(いじられる)ようなことはないぞってことだ。



 






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