第19話 ワープってすごい

 さて、鉄の鍵を入手したおかげで世界が広がった。正直、船の入手よりもずっと行動範囲が広がった。船の入手は鉄の鍵の入手のためのものだったと言われても納得できる。

 一番大きいのは、世界の各地を結ぶ『女神の泉』がいたる所で使えるようになったことだ。


 この『女神の泉』はある場所からある場所にワープが出来て、入り口と出口と双方向で行き来ができるという優れもの(例によって、七海が興奮していたが、ここまで来ると、光速を超えるという現代科学における大きな壁が立ち塞がっているので、頭を抱えるまでに至る速度も早く、すぐにおとなしくなった)

 

 今まで行った町やほこらに行き、鉄の鍵を開けると、そこに『女神の泉』があって、いろいろなところに行けた。中には『女神の泉』が3つもあるほこらにワープし、1つは飛んできた元々の泉だが、残り2つの泉からも各地にワープすることができた。ちなみに、2つのワープ先のどちらにも鉄の鍵があって、鉄の鍵がないと意味がないことになる。

 いかに鉄の鍵が重要なアイテムだったかが分かる。ブリキの鍵とは大違いである。


 そんな重要なアイテムをあの小島のテンジに置くやつの気がしれない。このキーアイテムを手に入れることが出来なくて詰んだ小学生がたくさんいたと思う。


 『女神の泉』のおかげでいろいろな場所に行くことができ、新たな町にも行くことができた。この『女神の泉』のいいところは大体、町に設置されていて、敵に出会うことなく、町の情報を集め、さらには店で買い物ができる=装備をととのえることができるところだ。

 

 ただ、ここまで行動範囲が広がると安易に買い物もできない。

 新し物好きの七海ですら

「今、新たな装備を買うのはやめておいた方がいいね」

という意見だ。

 そりゃそうだろう。せっかくお金を使って買っても、次の町でもっといい装備が売っていたのなら、悲劇もいいところだ。

 それに、現在の所持金額だと買うことができても1つか2つ。じっくりと検討したい。

 

 そして、気になっていた鉄の鍵が必要だったあの町、扉を開けて入ってみると、シェルターのような構造になっていて地下に入るようになっていた。

 なるほど、これが地下に町を移した町か。

 サカセというらしい。地理的にサカセの南側には山脈が広がっていて、山脈の向こう側には大神官フーリガの神殿があるらしく、それを恐れて地下に避難したとの話だった。

 

 もちろん、ここにも店があり、品揃えを見る。

「高いな」

「うん。高いね」

 正直な感想だ。

 今までせいぜい5000Gまでだったのが、10000G、21500G、65000Gなんてのもある。

 特に65000Gっていうのはカシミヤのコートという名前で、半分ぐらい製作者が遊びで入れたんだと思う。発売当時、すごく高価なコートの代名詞だったのだろう。

 そして、もう一つの店による。

 このゲームの町には、装備を売っている店と道具を売っている店があり、さっきのぞいたのは装備を売っている店だ。

 今度は道具を売っている店をのぞく。このゲームの道具は種類が少なく、売っているものは基本的には定番の品ばかりだ。それでも、時々、変わったものが売っているので確認は欠かせない。

 薬草、毒消し草、白の羽といつものが並んでいるが、不自然に毒消し草と白の羽の間に空間がある。

 物を買う時は物の名前をいう必要はなく、『これ、お願い』でいい。

 このゲームではまとめて買うことができない。例えば、薬草をまとめて8個頼むことができない。8個買おうと思えば、『薬草をお願い』を8回繰り返す必要がある。面倒なので『これ、お願い』で済ませることも多い。

 

 空間があるということは、何かが売っている場合が多い。

 一回、ものは試しだ。

 空間を指さし、

「これをお願い」

 と言ってみた。普通に考えれば、ちょっとおかしい行動だが、ゲームシステムを理解したうえでの理性的な行動なので、見逃してもらいたい。

「おいおい、あんちゃん。どこでこの話を聞いたんだ? そいつはちょっと値が張るぜ? それでもいいか?」

 何の話も聞いていない。単にカマをかけたらアタリだったってだけの話だ。値が張ると言われても、これは買うしかない。


 迷わず、はいを選択する。

「仕方ねぇな。誰にも言うなよ」

 いやいや、お前、堂々と売りすぎだから。バレバレだから。

 それよりもゲームシステム上のものなのか、何を買ったか、それをいくらで買ったのかが全く分からなかった。

 まず、いくらしたのかを確認する。王子に50Gしか渡さないような最貧国の王子なので、何よりも金の確認だ。金は2000G減っていた。それなりにした印象だが、ここの物価からすれば、それほど高いものではない。


 で、物は?

 道具袋をのぞく


 ……金の鍵だ。


「こんなキーアイテムが店売り……だと……」


 金の鍵が『売っていた』

 しかも、2000Gとは破格と言っていい。

 この金の鍵、簡単にいうと閉じ込められている人がいる部屋の鍵を開けることができる。閉じ込められているのは、まぁ、普通は犯罪者だわな。つまりは、牢屋の鍵である。しかも、金の鍵はどうみても規格のある鍵。


「こわい世界観だね。この鍵1つで世界中の牢屋を開けることができる上に、その鍵が店売りって牢屋の意味がないんじゃないか?」

 七海の感想ももっともな話だ

 というか、これって俺たちが犯罪者にならないのか? いつでも囚人たちを解放できる鍵を持ち歩く人物って普通に考えて要注意人物だと思うし、あの店主はやばいとかそういうレベルを超越しているように思う。

 確かに鉄の鍵がないと町には入れないけど、卵が先か、鶏が先かって話のような気がする。


 でも、これって使わないとクリアできないだろうしな……

 

 牢屋の鍵って名称じゃないだけましだが、よく考えればゲームってすごい世界だ。

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