第18話 きっと最果ての島にて

 敵の強さがめちゃくちゃなせいで、もはや死にゲームとなったこのゲーム。アクションゲームで初見殺しというのがある。

 普通に進んでいたら、とんでもないところに隠しブロックがあって、穴に落ちる。孔明の罠とか言われるやつだ。

 そこに罠があると分かるのはハマってから。

 今やっているのはまさにそれだ。ジャンルがアクションかRPGかというだけで、本質は全く変わらない。

 

 つまりは、とにもかくにも覚えがない場所に行き、敵の強さを確認する。そして、死んで確認する。これ以外に進む方法がないのだから仕方がない。

 なんていうか、最初七海が倒された時には怒りで我を忘れるほどだったのに、こうも回数を重ねると仕方ないかぐらいになる。他にも俺の方が先に倒されるというのもあるし、七海があっけらかんとした感じでいるからというのもあるが、慣れって怖い。

 

 七海もこの世界の地形を覚えているわけでもなく、船でさまようことになる。


 RPGというのは、基本的に目的が決まっていて、その目的を達成するためにいろいろなクエストをクリアしていくのだが、このゲームの場合、その目的が大雑把すぎる。目的は分かるが、目標が見つからないので、しらみつぶしに探すことになる。


 そんな中、海の上であの小島を見つけたのは僥倖ぎょうこうとしかいえない。

 本当に小さな小島で、町が一つあり、それ以外には何もなく、町の他の陸地は町と同じぐらいしかない。そんな小島。しかも大陸からは相当離れていると思われる。

 最果ての島と言っていいと思う。


 思うというのは、もしかしたら近くにそれなりの大陸があって、反対回りに回ってきたからかもしれないからだ。


 見る限り、魔物もいない。

 むしろ、上陸したらすぐに町だからエンカウントする可能性自体ない。


 町に入ってみると、女性と子どもしかいなかった。男達はみんな漁に出ているってことだ。ちなみに、町に入れたのは、鍵付きの扉があるだけの町以外ではこの町が初めてだった。後は町に着くまでにモンスターにボコボコにされた。

 つまり、初めてまともな町に着いた。


「そんなに大きくなさそうな町だが……」

 正直、あまり期待できないかもしれない。こういう町では、ちょっとした小物があったり、隠し要素があったりはするもののストーリーには関わらないのが普通だ。

 町の名前はテンジというらしい。


 まぁ、見つけにくい小島なんてのに重要なイベントを配置したら、それだけで見逃してしまって進みにくくなる。だから、こうした小島はあくまでもクリアには関係のないおまけ要素がある程度にとどめておくのが、普通だ。

 

 そうは言っても、隠し要素もなかなか冒険の役に立つこともあるし、お助けアイテム的なものがあるかもしれない。情報収集のために、町を歩き回っていたら、犬にいきなり吠えられた。

「わんわんわん!」

 そして、いきなり走り出し、さらに吠える。

「奏、これは古式ゆかしい『ここほれ、ワンワン』というやつではないか?」

 ベタなしかけだな。

 犬が吠えるところ必ず何がある。

 犬が吠えた草むらを探す。



 ……



『なんと、鉄の鍵をみつけた』



 ……言葉が見つからない。


「……僕の記憶に間違いがなければ、これはこれ以上ないってぐらいのキーアイテムだね。これであの町の中にも入れるんじゃないか?」

 七海が言う。


「ああ」

 とりあえず、返事をする。

 そして、しばし静寂が訪れる。振り向いて、七海の顔を見る。なんとも形容のし難い顔をしている。


「なぁ、ここって本当に偶然にたどり着いた小島だよな」

「そうだね」

「ヒントなんてなかったよな」

「僕の記憶している限りでは」

「すごくさまよったよな」

「レベルが3つ上がる程度には」

「これって見つからなかったらどうなってたんだ?」

「たぶん、まださまようことになっただろうね」

「……」

「キーアイテムはこんな最果てにあるものなのかな?」


 俺もそう思う。

「なんだってこんなところに配置しやがるんだ!」


 思わず、鉄の鍵を地面に投げつけ……


『それを捨ててしまうなんてとんでもない!』


 振り上げた腕が途中で止まる。

 もちろん、捨てるつもりなんて全くなかったが、たたきつけてやるぐらいは許されていいだろう。けれど、それもできなかった。

 右手の中にはしっかりと鉄の鍵が握られている。


「……その気持ちは分からないでもないけれど、船に乗ってから新しい展開をやっと迎えたんだから、ここは喜ぶことにしようじゃないか」

 七海が言う。

 正論だ。その通りなんだが、ちょっと制作陣の人格っていうのを疑ってしまう。


「でもなぁ、この制作陣って相当悪意を持ってこの配置を決めてるしか思えなくてな」

 今回は偶然見つかったが、それなりに広大な海の中でこの小島を見つけるっていうのは、砂浜で1粒の砂金を見つけるようなもので、見つからないし、見つかったとしても相当苦労することになる。

 実際、苦労した。ノーヒントだったし。

 第一、この鍵って漁師か誰かが持っているんじゃなかったか? 


「確かにね。だから気持ちは分からないでもないってことさ。でも、この町から出て、先へ急ごう。この町には他にめぼしい情報もないみたいだし」

 そういわれると、是非もない。この町には、一応、金の鍵を使う場所はあったが、そこにはまだ入れないので、この町には後で寄ることになるが今のところは何もするこはない。

 ただ、できるだけ、ここの位置が分かるようにこの町から出るときは北にしろ南にしろまっすぐ向かうことにしよう。

 金の鍵を使った先に何があるかは気になるからな。

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