第15話 どこにいけばいいのでしょうか
早速、船に乗り込む。
「奏、ところで、見たところ船員がいないようだが、どうやって動くんだい、この船?」
「今までの経験上……」
頭で『動く』と思う。するとその方向に船が動き出す。頭の中で考えたことがそのまま実現される。ほとんど某汎用人型決戦兵器だな。
「人もいないし、操舵も行っていないにもかかわらず動く船というのは、幽霊船ぐらいだと思っていたけど、動くなんてすごいね。この船の動力はなんなのだろう? この形だと風のように思えるが、風が吹いているという感じではないし……」
七海が感心している。
某汎用人型決戦兵器の動力は基本的に電力で、後は何とか機関とか永久機関で動く。しかし、この船はなんだろうな。一応、帆船のように帆があって、それが風にはためいているかのように見える。風ではないのが分かるのは、めちゃくちゃ規則正しく帆が動くからだ。一定のリズムで帆が揺れて、一定のリズムで船が上下する。
さて、海に出たはいいが、どこに向かうか全く決まってない。
「なぁ、これってどこに行けばいいんだ? 七海」
「どこに行けばいいかっていうのはちょっと分からないんだ。すまないな。方針ぐらいな言えるけど」
「とりあえず、聞かせてくれるか」
「船を入手してから、鉄の鍵を入手して、その鉄の鍵を使って、次は金の鍵を入手。それらの鍵を使いつつ、5つのお守りを入手。5つのお守りを持って、どこかに行くと、聖なる首飾りを入手できる。その他、火山に行って、火山の奥深くで邪神像を手に入れる。これが最終ダンジョンへの鍵になっている。最終ダンジョンを抜けると、シバミアクという最終フィールドに出るという。ただ、入手すべきアイテムは分かっているが、その入手方法は知らないんだ」
「アイテムは分かっているけど、どこにあるかは分からないから行くべき場所が分からないってことだな」
なんかもう、全力で七海っぽいとしか言いようがない。
フラグはしっかり分かっているのだが、過程がすっぽり抜けている。
どうしたものか。思案したが、とりあえず、ラカタージに向かうことにする。思えば、ラカタージでの情報収集もできないまま海に出された。どこに行けばいいか分からないのはある意味当然だろう。
直前の町に一番情報はあるはずだし、港でもあるから、ある程度の情報はあると思う。
大陸線に沿って、船を走らせ、ラカタージに向かう。陸路よりは移動距離は短いはずで、ある程度はましだと思うが、海でもすごいエンカウント率。陸よりは若干ましだけど。
海の上の敵がとてもいやらしい。
強いではなく、いやらしい。
海に出た直後に襲ってきた『でんきクラゲ』『シースネーク』
今のところ、この2種類しか出てきていない。力は弱いが、状態異常がうっとうしい。戦闘中はしょっちゅう昏倒するし、戦闘後もシースネークの毒が残ることもある。シースネークは毒だけではなくて、妙な煙を吐いてくる。
この煙を吸うと、昏倒状態に陥る。しかも、全体に対して効果がある。シースネークが3匹出て、3匹とも煙を吐けば、誰かは眠る。
そして、眠っている間にぼかすか殴られたり、かじられたりすることになる。
シシザルやチタエイプのサル系が力押しで、短期決戦型とすれば、海の敵は長期戦型。一回のダメージは少ないが、チマチマと削られる。時間が妙にかかったりもする。
うっとうしい見本。
唯一の救いと言っていいのが、この2種類の敵のHPが低いことだ。
七海の氷結魔法でグループなら大体一掃できるし、アベルの攻撃でも倒せる。一人でも起きていれば、敵の数を減らすことができる。なんとか切り抜けることができているのも、このおかげ。
敵のHPが多かったら、倒せない=攻撃される=全滅の連鎖が起きていたことだろう。そういうわけで、海の敵はうっとうしいものの、あまり強くはないので、ラカタージには意外と楽にたどり着くことができた。
ラカタージで、今度はまず、店をのぞく。
七海用だろうな。『魔術師の杖』とか『かわし身の服』というのがあった。他にめぼしいものはない。ダイータの町で売っていたものばかりだ。
全滅してあまりお金もないので買い物は後にする。
次に情報収集。
「世界のどこかに5つのお守りがあって、そいつを集めると邪神に惑わされることはなくなるって話だぜ」
「俺が聞いた話では、漁師仲間の誰かが鉄の鍵を持ってて、世界を救う人に渡したいと常々言っていたそうだ」
「なんでも火山の中で邪教の祈り捧げているやつがいるって話だぜ」
「世界の町の中には、邪教を恐れて、地下に町を作ったところもあるってよ」
この話をしてくれた全員に2つ問いたい。
伝聞ではない話はないのか? 具体的にそれは世界のどこなんだ?
はっきり言おう。
こんなあいまいで、微妙な情報は何の役にも立たない。
「これじゃ、何の役にも立たないな。結局、果てしない海を放浪して探すしかないじゃないか」
七海がもらす。
俺も、そう思う。
そんな中、桟橋のところにいた男に声をかけると
「おう。この前イカをやっつけてくれた。にぃちゃん達じゃねぇか。船の調子はどうだい? 俺たちの自慢の船なんだからな。大切に使ってくれよ。」
瀕死の俺と棺桶2つを船に乗せて放りだした男だった。
全員が一緒の顔なので、いる位置で話す内容で判断することになるが、間違いない。こいつにはいろいろと言いたいことがあるというか、できることであれば、ぶん殴りたい。しかし、町では剣を装備できないし、殴りかかることもできない。
「しかし、魔法というものはモンスター相手には便利だが、こういうときは不便なのだな。さっきから、氷結魔法を唱えようとしているのだが、全然できない」
七海が黙っているかと思えば、そんなことにチャレンジしていたのか。何も言わずにというところが、俺よりずっと物騒だな。
「そういうもんだからな。仕方ない。移動中に使える呪文と戦闘中に使える呪文は違うからな」
七海をいさめて、そこから離れ、もう一回情報収集に戻る。しかし、もう情報はなかった。結局、世界にこんなものがあるということを教えてくれただけだった。
後は、町の端っこの方に約束の言葉を教えてくれる老人がいて、拠点変更がされたぐらいだ。ボスのイベントの前にこの老人を見つけることができれば、復活もここだったわけだが、町の端っこってところに開発陣の悪意を感じる。
「奏、どうやら僕らの期待は裏切られてしまったようだね」
「そうみたいだな。七海がこの町に来る前から言っていた情報とそう変わらないな」
あいからわず、説明が少ない。もしかして、町を削ったついでに、必要な情報も削ってるんじゃないか?
レゲー特有理不尽その1。
「説明が少ない」
今までは、それでも限られた範囲だったから何とかなったが、これから広大な海を探索するのに、この情報の少なさで回れって、理不尽ゲーを通り越して、無理ゲーな気がする。
そうはいっても、探索しなくちゃ始らない。
海で迷うことは確実。もうコーラの中にメントスを入れたら、噴水ができるって言うぐらい確実だね。
白の羽を用意して、アベルの移転魔法のMPを残すように注意して、行く宛のない旅へ出発するとしよう。
後ろで七海が
「それでも行くあてもなく、この海原に出るか。奏は冒険家だな」
とつぶやいていた。もちろん、あまりいい意味ではないと思われる。
半分以上は無鉄砲という意味が含まれているが、聞こえなかったことにしよう。
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