第12話 港町ラカタージ
薬草や白の羽を補充し、「皆のお宿」ダイータを後にする。
このゲーム、薬草がずっと必要。戦闘に入ったら回復してる暇がない。移動中に回復するのが重要になる。
薄々感じていたが、このゲーム、移動中に回復して、戦闘時は全力で攻撃しなければならない。そうしないと、ジリ貧になって全滅してしまう。
俺なり攻略法その2
「ヤラれる前にヤレ」
戦闘中は基本的に攻撃あるのみ。
それで、移動中に回復する手段である薬草が必需品になる。道具屋がこの必需品を12Gの値段で売っているのは数少ない良心だと思う。
最初のうちは高く感じたが、それはHPの上限が低く、回復量が少なくなっていたために割高に感じた。移動中の回復量は30~50程度でかなり幅があるものの、それなりの回復量だ。
というか、中級回復魔法と同じくらい回復する。初級回復魔法は25~35程度の回復。中級回復魔法は35~45程度の回復。正直、中級回復魔法は戦闘中80程度回復するので、この移動中の中級回復魔法の回復量は設定ミスとしか思えない。
ふざけてる。
そんなもんだから、薬草は旅の必需品になっている。この店の親父にも世話になった。
「毎回、ありがとな」
「またのお越しを」
同じ台詞しか言えない店の親父も馴染みになれば、なんとなく親しい感じがする。
5回目の挑戦。砂漠はもう手慣れたものだ。今回はシシザルが一体の時は逃げることにした。一体だけなら、逃げミスでそれほど窮地に陥るわけではない。MPを消費することを考えたら、逃げた方がいい。
「七海、ここに挑戦するのももう5回目だよな」
「そうだね。こんどこそは次の町に着きたいものだ」
「七海でもそう思うのか」
「『でも』ってどういうことだい? むしろ、僕こそ新しい町に早く行きたいと思っている」
「どうしてだ?」
「僕は科学者だよ。新しいところに行ってみたいと思うのは当然じゃないか」
そうだよ。七海はいつだって新しもの好きなんだよな。
俺だって、もうシシザルの相手はいい加減にしてもらたい。
……前に白の羽を使って、泣く泣く撤退したところまで来た。
今回は十分にMPも余っているし、余力がある。
進むと意外に近くに町はあった。後、少しだったのか。ここらへん、進む進まないのバランスって難しい。
何はともあれ、やっと次の町を見つけたんだ。道のりが困難だっただけに嬉しい。
町に入り、まずは回復のため宿に泊まる。
それから、人々に話を聞く。この町は港町で、ラカタージというらしい。さて、街の入口から一直線に港が見えるようになっているが、船は一艘だけしか見えない。皆、出払っているのか。
「海にもモンスターが出るようになって、船が沈められてしまうんだ。それで船は出せないし、残った船も少ないんだ。このままでは、港町じゃなくなっちまう」
覆面をした上半身裸で、下半身はレスリングパンツというのか、形はトランクスで、丈はひざより少し上ぐらい、妙にピッタリとしたパンツをはいた男が話す。
某何とか仮面だな。ビキニパンツでないだけマシか。
荒くれものとか、海の男を表現したかったのだろうが、町中で歩いていると職務質問ものだ。それで、この町はこのモブキャラばかりというのが異様。
逆か。この町はこいつらばっかりだから、服を着ていないのが、通常で、服を着ているのが変態なのかもしれない。
セリフ自体は危機感があるのだが、姿に危機感が感じられなくて、ふーん、ぐらいになってしまう。
モンスターか。海も大変だな。確かにこのゲームのシリーズでは海の上も出るようになっている。ゲームによっては海の上ではエンカウント自体しないこともある。
「奏、とりあえず、残っている一艘の船を見てみたいな」
七海が好奇心いっぱいの目で促す。
「はいはい。分かったよ」
まぁ、船を見に行くというのは賛成だ。ということで、桟橋の方に向かう。
突然、目の前が揺れた気がした。前の方から男が走ってくる。逃げ惑うのではなく、一直線に向かってくる。……これは貞操の危機を感じる。できれば、逃げたい。しかし、身体が言うことを聞いてくれない。
完全な金縛り状態。おそらく、イベントのためにキーコントロールを受けつけないようになっているのだろう。
「大変だ~。港にモンスターが!」
覆面半裸男が目の前で立ち止まり、話しかけてくる。
「あんたら、見かけない顔だが、その格好からすると砂漠を越えてきたんだろう? すまないが、港に現れたモンスターを追い払ってくれないか? このままじゃ港がつぶれちまう!」
(見かけない顔にいきなり重大な仕事を押しつけるか? 普通)
などと思っていると、
→「はい」「いいえ」
目の前に選択肢が現れる。初めての選択肢だな。さすがに、七海の時に「いいえ」の選択を出すのはまずいと思ったんだろう。
当然→「いいえ」を選ぶ。
「奏、いいのかい?」
「もちろんだ。今、モンスターと戦って、万が一にでも全滅したら、もう一度砂漠越えだぞ」
ダイータからここまで約束の言葉を聞いていない。
約束の言葉自体には意味はないが、そこが白の羽で戻ったり、全滅した時に戻ったりする拠点になる。今の拠点はダイータ。そこまで戻されたくない。そんな中で戦いなんてしたくない。
ところが、半裸男が食い下がる
「そんなこと言わずに助けてくれ。もちろん、礼はさせてもらう。海の男に二言はねぇ。頼むよ」
→「はい」「いいえ」
再度選択肢が出てくる。
これはもしかして……→「いいえ」を選ぶ。
「そんなこと言わずに助けてくれ。もちろん、礼はさせてもらう。海の男に二言はねぇ。頼むよ」
再度、同じ言葉が自称海の男から出てくる。
そして、再度選択肢が出てくる。
→「はい」「いいえ」
「奏、これって『はい』って言わない限り、解放されないんじゃないか?」
おそらくそうだ。
最近のゲームでも時々あるタイプの選択で、どちらを選んでも結果は同じ場合と今回の場合にみたいに質問がループする場合。
今回の場合、「いいえ」を選び続けても、ずっと同じことの繰り返しなので、さっさと「はい」を選んだ方が賢い。
諦めて→「はい」を選ぶ。
「ありがてぇ。モンスターはここからまっすぐに行ったところだ」
自称海の男がわざとらしい礼を言う。どう考えても強制です。本当にありがとうございました。
身体が勝手に桟橋の方に向かう。これもイベントの関係で、そちらに向かうようにプログラムされているのだろう。
桟橋では巨大なイカが暴れていた。二階建てか三階建ての高さぐらい、横幅は2mくらい。どうやって骨の入っていない体を支えているのか、謎だが、桟橋の上に乗って、桟橋に何本かの触手を絡ませている。桟橋に続く広場は石畳になっていて、ところどころ触手が打ちつけられたのか凹みがある。
これをあのイカがやったのか。すさまじいな。
イカの目の前まで来たところで、戦闘に入ったらしく、イカの名前が表示される。
ビッグキングイカというらしい。直訳っぷりがすごい。
このイカを退治しなければ、戻される。別にいつもは負けていい戦いなのかというとそうではないが、今回は今まで一番負けたくない戦い。
その意味で、負けられない戦いが始った。
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