第11話 皆のお宿ってこういうことですか

 砂漠を歩く。これでもう4回目の挑戦だ。

 1回目の挑戦は、前に言った通りの結果、オアシスがあったものの町がなく、撤退。

 2回目は、砂漠に入った途端、アベルがシシザルにフルぼっこにされて、撤退。

 3回目は、概ね順調だったが、オアシスを越えて、しばらくしたところで、七海のMPがなくなったので撤退。シシザル以外にも氷結魔法を使うことがあったので、その影響だ。


 シシザル以外のモンスターは打撃で対処。俺の脳筋仕様はゲームの中身からすれば主人公として当然の仕様になっている。

 なんせ敵が多いために、魔法を乱発できない。これは魔法の威力というよりもMPの問題だが、結局のところ、使いどころが難しい。それに意外と効かない場合も多い。耐性とかの関係で、与えるダメージが少ないというものではない。ただ単に効かない。これでは攻撃として信頼できない。


 こんな感じだから、戦いは打撃に頼るところが大きい。

 主人公は強くなければならない。

 主人公は頼りにならなければならない。

 それがゲームにおける主人公だとすると、このゲームの主人公は間違いなく俺だ。


 力こそパワー!

 力で敵をなぎ倒し、一騎当千! 万夫不当! 国士無双! 筋肉馬鹿!

 ちょっと違うかもしれないが、そんな勢いで物理攻撃が正義なのである。


 今度こそ、次の町に着く。

 まずはオアシスを越える。さらに、灼熱の砂漠を歩く。オアシス近辺に町がある予定だったのなら、単純に考えればオアシスから次の町までは、ダイータからオアシスまでの距離と同じ程度かもしれない。

 モンスターは強くなるし、第一開発スタッフもこのぐらいの距離で休憩が回復が必要だと感じたから、ここに町を設置したはずだ。そうだとすると、同じぐらいの距離で町があるはず。


 ……そんな考えは捨てろ。と言わんばかりに目の前に広がる海。地下道と思われる洞窟。ここから行けってか。おそらくはダンジョン。オアシスからここまで、もうダイータからオアシスぐらいまでの距離はあった。


「これは何だと思う? 七海」

「うん? 奏は見て分からないのか? 洞窟、もしくは地下道と言われるものだな。ゲームとしてはダンジョンと分類されるものだろう?」


 やっぱり、そうだよな。


 そして、不安は的中することになる。


 地下道は同じような形をぐるぐる、ぐるぐる下に潜っていき、最下層に到着して、地下から地上へとぐるぐる、ぐるぐる上がっていくものだった。

 使い回しのダンジョンそのもの。

 同じような構造の階層が続く。それでダンジョンとしては成り立っているし、それでいて長いダンジョンになっている。確かに、現実的には地下に掘る場合や塔を建てる場合って各階同じ構造にする。というか、RPGみたいに各階の構造が異なる建物なんて現実的には見たことがない。

 あっても、テレビ局とか特殊なところだけだ。


 ここに来て、この構造は嫌がらせ以外の何物でもない。

「実に理にかなった建築だね。崩れることのない地下道を作るというのは実に大変な作業なのだよ。青函トンネルは海底を通っているが、年間の維持費は現在は8億円と言われている。しかも、今後はさらに増えて40億円になるとも言われている。それだけ深いトンネルを掘り、維持するのは大変なんだ。ファンタジーの世界でこれほどのものを見せられるとは、嬉しい限りだよ」

 七海はそう言って満足そうだ。


「七海、ゲームでもし崩落するトンネルあったら、どう考えてもプラグラムのミスだぞ」

 七海は勘違いしている。むしろ、ファンタジーの世界だからずっと維持されているのだ。なんせ、今手にしているこの鋼の剣もモンスターを何匹斬ったか分からないが、新品同然なんだから。というか、新品だ。


「そうはいうが、いや……まて、なるほど。そうだ。奏。君の言うとおりだ。ゲームというのはプログラムされたもの。つまり、壁や天井として、もっとも美しくなるようにされている。ということは、これを真似すれば現実に戻っても理想的な建築ができる!」


 上手いこといくか? 非現実的なものの塊だと思うけどなぁ。確かに各階同じ構造ってあたりは現実的だけど、壁の厚さとか人間の幅以上にあるとかおかしかったりするはず。


 そして、お約束の通り、ダンジョンを抜けたら、砂漠は終わって草原が広がっており、さらに敵も一段強くなった。

 ダイータからすれば、砂漠で2段階強くなる。ダンジョンで1段階強くなる。そして、今、ダンジョンを抜けたところで1段強くなる。つまり4段階ぐらい前の町からは強くなっている。


 その象徴がシシザルの色違いのチタエイプ。鋭い爪と牙を持っているのはシシザルと同じ、大きさも変わらない。というか、色以外全部一緒。これも昔のRPGの特徴で、色違いとか微妙に装備が剣から斧に変わっているとか、そういう違いしかないモンスターでモンスターの種類を増やす。色違いに過ぎないと思って、高をくくることはできない。全然違う強さを持つ。


 現実なら、色が違う程度で大きく力や強さが変わることはない。

 だが、ゲームは違う。色が違うだけでその強さや能力が大きく変わる。どういう進化をしたらそうなるのかと問い詰めたいところだ。

 新種のモンスターとして考えないと、痛い目を見る。

 というか、痛い目にあった。色違いって気づくけど、色よりも姿形の方にどうしても強さのイメージは引きずられてしまう。侮ったわけではないけど、ぼこぼこにされた。

 何とか逃げ切ったが、本当に九死に一生を得た感じだ。薬草を使いきってしまったので、回復魔法で回復する。地下道を抜けて、さらに歩いたが、まだ町は見えない。


「う~ん。なんとも興味深い。シシザルとチタエイプ。色以外は全く同じ個体のように思えるが、強さが全く違う。現在、シシザルから奏が受けるダメージは一撃で約10、チタエイプから受けるダメージは約25。七海のHPは今85ぐらいだから、シシザルから受ける攻撃は8回耐えることができるのに対して、チタエイプからの攻撃は4回も耐えることができない。見た目からすると筋肉量はそう変わらないと思える。すると、あの色に何か呪術的な力でもあるのだろうか。いや、そう考えると、チタエイプには呪術を利用する一定の知能があることになるが、そんな知能があるならば、道具でも使ってそうだ。しかし、そのようなことはない。う~ん……」


 七海がまた勝手に考えている。だから、ゲームってそういうもんだって。

 

「七海、考えるのはいいが、モンスターは襲ってくるんだから、ちゃんと周囲を警戒しなけがら歩けよ。いつぞやみたいに、考え事をしていて電信柱にぶつかるみたいなことになるぞ。しかも、今度はモンスターだぞ」

「……」

 七海はまだ考え事をしている。


「おい。聞こえているのかっ……ぶべらっ!」

「! 奏、大丈夫かい?」

 いってぇー。

 注意した俺がチタエイプの不意打ちを食らっているよ。2体。出し惜しみはなしだな。アベルに初級火炎魔法を、七海に氷結魔法を、それぞれ指示し、俺はできるだけ前線で攻撃を受ける。俺は防御。

 七海も言っていたが、俺ですらこのチタエイプの攻撃は3回しか耐えることができない。4回でアウトだ。しかし、七海の氷結魔法に、アベルの初級火炎魔法両方が当たっても、倒せない時がある。しかも、シシザルと同じく、打撃攻撃がかわされやすい。

 2ターンだと、相手の攻撃が最大4回とんでくることになる。攻撃していると死ぬ。防御で受けるダメージを半減させないといけないのだ。

 アベルと七海の魔法でなんとかできる範囲を超えてきているのに、打撃も当てにならない。このサルタイプの敵、強すぎだろう。

 

 なんとか、チタエイプを倒して、俺の残りHPは40程、アベル、七海も一応生き残っている。しかし、アベル、七海のMPが尽きて、回復手段はない。MPがないということはチタエイプに全く対処できないことになる。

 選択肢は二つある。一つは①ここからは敵の対処は全て逃げ、ガン逃げして、次の町を目指す。②白の羽でダイータの町に戻る。

「七海、どうする?」

「ああ、君の言いたいことは分かっている。このまま進むか、戻るか、だろ? 僕はまだ全滅を経験したことはないが、あまり心地のいいものではないだろう? 持っているお金は半分になる上、君以外は死んだままと聞く。まだ、次の町は見えず、今までの敵の多さからすれば、ずっと逃げ続けられる可能性は少ないといわざるをえない。そうすると、悔しいが、ここは一度戻るのが最良だろう」

 七海の言うとおりだ。ほとんど確認みたいなものだ。

「そうだな。ここまで来て……とは思うが、全滅したら元も子もない」

 道具袋から白の羽を取り出して、使う。


 七海を助けに行く時からこのゲームは慎重になってちょうどいいくらいだと学んだ。


 俺的攻略法その1

「泣いて撤退せよ!」


 もう少し行けるかもしれない。もう少しで目的地が見えるかもしれない。それが命取りだ。泣いてでも早めの撤退が正解だ。


 目の前が暗くなり、ダイータの町に着く。

 この町に戻ってくるのも何回目だ?

 シルハから来て以来、この町にずっといる。マヤイラスに行ったのはいいが、それから七海の捕らえられていた塔の攻略のために滞在し、全滅した時もここに戻ってきた。今回も砂漠を越え、次の町に行くまでに何回も挑戦しては戻ってくることになってしまっている。


「しかし、この町は本当に拠点だね。僕は砂漠越えからしかパーティーに加わっていないが、それでもこの町にはお世話になっているという感じがする。奏、君なんかは塔の攻略もあったから、余計にそう思うのではないかい?」


 ……そうだな。ここの宿はホントに世話になっ……!

 最初のこの町のキャッチフレーズ「皆のお宿」ってそういうことかよ!!

 このゲームの開発者、ここで長い間、プレーヤーが留まることを想定している。そういう想定するなら、もっとちゃんと町を作っておけよ。

 思わず地団駄を踏む。


「どうした? 奏?」

「いや、開発者の意図に気づいてちょっとイラッとしただけだ」


 なんてことだ。開発者の意図にハマってしまっている。これは面白くない。

 こんな町、早くオサラバしてやる!

 俺は決意を新たにするのであった。……前に、砂漠を越えるって決意をしたばっかりなのは秘密な。

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