第4話 お使いゲー(たらい回し)
頑張って隣の町リクタを目指す。
城の近辺に出てきたモンスターはスライムとデカいミミズのオオミミズ。こいつらをなぎ払いながら、進む。これだけ斬れば、銅の剣が壊れてもおかしくないが、新品同様。この辺、ゲームって便利だなと思う。それから、モンスターの名前はモンスターの胸部(スライムなんかは胸部と言っていいか分からないが、とにかく中央付近)に表示される。
なぜか、知らないモンスターが出てきても名前だけは分かるというシステムになっている。疑問に思わなかったけど、よく考えると不思議なシステムだな。
しばらくいくと、変な沼が見えてきた。
なんだ? あれ。
そして、沼の向こうに町が見える。沼を突っ切ることもできるが、何か変だな。ただ、遠回りも嫌だ。モンスターがいっぱい出る。
ここは沼を突っ切ることにする。
そして、沼に足を踏み入れた途端
「ぐはっ」
目の前が赤くなり、体力が奪われる。なるほど、歩く度にHPが奪われていくタイプの罠か。ただ、モンスターと戦うことを考えると微妙なところ。この選択もまちがっちゃいない。
沼を抜けて、町まで後一歩というところで、モンスターに襲われる。
巨大なアリ、ギガントアントに大きなコウモリ、ジャイアントバット。初めて見る敵だ。HPはまだある。ここはどんな敵か戦って確かめる。アリには与えるダメージは小さいが、まだワンパン範囲。ダメージはミミズとそう変わらない。問題はコウモリの方で、早い上に、攻撃力が高い。ただ、やっぱりワンパン範囲内。……よし、この町周辺なら十分に戦えるな。
モンスターを倒して、町の中に入る。
この町はリクタ。入ると町の人が教えてくれた。ちなみにジーノでも教えてもらえた。もちろん、町の人は同じ言葉を繰り返すだけだ。あらゆるRPG系漫画で馬鹿にされたやつだな。
北には城があるそうで、勇者の血筋の王子がいるとか。すぐに仲間がいそうな城があるというのは朗報だ。
最初の城であるジーノからここまでは、思ったよりかからなかったので、意外と早く仲間が増えるのかもしれない。
後、嬉しいのが、ここには武器防具屋がある。
ナイフが銅の剣よりも値段が高いとか、鎖鎌とか決してメジャーとはいえない武器を売ってるとか、いろいろとおかしいところはあるが、武器と防具が売っているというのはいい材料だ。
ところで、これってどのくらいの攻撃力とか買う前に分からないの?
基本的に高い武器は攻撃力も高いってことでいいと思うし、現世代のゲーム機でも続いているシリーズ物なので、それなりの強弱は分かるのだが、本当にそうか分からないし、どのくらい高いか分からないというのはおかしいだろ? 費用対効果が分からない。
店の主人に強さを聞こうとしても
「いらっしゃい。ここは武器と防具の店だよ」
としか言わない。
ひどい仕様もあったものだ。というか、正直、詐欺に近い部類だと思う。
買う前にどのくらいのものか分からないというのは、おかしいだろう。そんな商売しているところがあったら、速攻でつぶれるだろう。そんな殿様商売してるところなんてないぞ。
レゲー特有理不尽その3
「買う前に武器屋防具の強さがよく分からない」
とりあえず、銅の剣で戦えているし、なにせ金がない。ここは大人しく比較的安めの皮の帽子でも買っておく。45Gなので、ないよりはまし程度でも損はしないはず。これで、ダメージが1でも減ればめっけもんだ。
意外と最初の町が近かったことに安堵し、次の城を目指す。
やっぱり近かった。敵も今まで遭遇した敵以外は出てきていない。順調そのもの。というか、いわゆる無双状態である。
皮の帽子のおかげで、受けるダメージが1~2減っている。これは拾いものだった。買って良かった安い帽子。しかも、敵は一撃で倒せる。敵は倒すと通貨を残して消える。モンスターに剣を叩きつける。なんか銅の剣って斬る感じではなく、たたきつける感じ。
振りかぶって頭に叩きつける。横に振りきって胴体を殴りつける。
手に鈍い感じが残るも、モンスターが消えていく。その瞬間に手が軽くなる。消えるのは当たり前なんだけど、これが意外と爽快感がある。
僕の前に道はない、僕の後に道ができる。
雪が降った後に、誰の足跡もないところを歩くような、そんなちょっとした優越感。
「シルハの城へようこそお越しくださいました」
兵士が礼儀よく挨拶をする。城を探索し、ここの城の王様に会いに行く。
「よくぞシルハまで来た。ジーノの王子よ。せっかくここまで来てくれたのだが、我がシルハの王子、アベルは一足先に東の洞窟に向かってしまった。今追えば、東の洞窟でアベルに会えるやもしれぬ。急ぎ、追いかけ、共に大司教リフーガを倒すのだ。カナデが次のレベルになるまでは85ポイントの経験が必要だ。約束の言葉を教えよう。……。では行け。ジーノの王子よ」
シルハの王子、アベルはもう出立してしまったようだ。東にある洞窟に向かったらしい。ちなみに約束の言葉というのは、パスワードだ。セーブ機能がない時代はパスワードでゲームの続きをしていたわけで、このゲームの場合、『約束の言葉』がパスワードになる。リセット機能がないこの状態では無用のものだけど。
で、アベルとか言うシルハの王子はなんで、こんな時に東の洞窟になんて行くんだと思って、王の横にいた大臣に聞くと、なにやら、シルハでは旅立つ前には東の洞窟で洗礼を受けるのが
洗礼に魔法……どう考えても、俺よりもアベルの方が勇者適性が高いじゃないか。
ところで、王の部屋の兵士が同じ勇者の血筋の王子相手とは言え、仕事中に話してていいのか? 私語は慎んだ方がいいんじゃないかな? まぁ、ゲームだし、クビになることはないだろうけど。
ついでに、王女がいるらしいので、会っておく。幼いらしいのであまり期待はしないが、それでも王女には会っておきたい。
……やっぱ、かわいいな。確かに幼く、年は12歳ぐらいか? クリッとした愛らしい目に、ふわふわの金色の髪。
勇者適性が高く、かわいい妹がいる。ここの王子はリア充予備軍と言っていいだろう。その妹が言うには兄はマイペースで、のんびりしているので、いろいろなところに行くだろうという話。
これは……何かヤな予感がする。
そして、俺はこの先、東の洞窟に行き、洞窟の奥にたどり着くと、アベルはもう洗礼を終え、俺のいた城ジーノに向かったとの情報を得、ジーノに着くと、実の親であるジーノ王からアベルは南にある祠に向かったと言われ、南にある祠に着くと、アベルはすでに出ており、もう一回シルハに向かったという話を聞く。
なんなんだ。このたらい回し。
そして、この間、毒持ちのモンスターに会い、その凶悪さのために2回死んだ。ちなみにこのゲーム、全滅すると『約束の言葉』を聞いた場所まで戻される。この場合は、シルハまで戻される。
リセットができない以上、『約束の言葉』は無用だと思ったが、それは違った。少なくとも、全滅したときに戻されるブックマークとしての意味はある。いちいち、最初のジーノまで戻されていたら、キリがない。
毒持ちモンスターはサソリのモンスター、オオサソリだったわけだが、まず、こいつが毒持っているくせに打撃が強い。打撃が強く、HPがゴリゴリと削られる上に、攻撃されると体感4回に3回は毒を食らう。
どうやら毒持ちの攻撃はシッポのようだったので、シッポを斬ろうとしたがどうしても斬れなかった。ダメージは通っているみたいだが、斬れたことはない。確かにゲームでは敵にダメージを与えても、弱くなるってこともないし、グラフィックが変わることもほとんどない。あるとすれば、イベントで戦うような特別な敵だけだ。こちらも条件は同じなので、どっちもどっちと言えばそうなんだけど、毒を受けたくない。
そうはいっても、容赦なく毒状態になる。減らされたHPで毒状態、歩く度にHPが減っていくので、歩いていて死んだ。
装備品を含めて持てるアイテムは8つまで、装備は今、3つ。持てる回復アイテムは5つまで。これだと、毒消し草は2つまでで、後は薬草になる。
で、そのサソリに会うたびに毒をくらって、毒消し草を消費。2つでは到底足りないYO! でも、薬草を減らすこともできないNE! エンカウント率の高さと毒持ちが合わさるとこれだけのクソ要素になるのかとおもい知らされた。
レゲー特有理不尽その4
「やたらと高い、状態異常になる確率」
おかげさまでレベルは上がった。
全滅するのでお金はたまらない。
己の肉体のみで戦い続けるべし。
自分で確認して悲しくなった。
それなりに強くはなったが、回復手段が薬草と宿屋しかないので、道中にはリクタによる。
すると、宿屋の主人が
「いやー今日は部屋がいっぱいでね。今は泊まれないんだよ」
とかいつもと違うことを言ったので、遠慮なく奥に入り、部屋の扉を開ける。
もちろん、とがめられることはない。勇者はタンスやツボの中を見たり、タルを壊したりしてもおとがめなしなのだ。
自由っていいね。
すると、中に見慣れないやつがいた。見慣れないというのは、モブではないということだ。この時代のゲームキャラが全員違う顔をしているわけがなく、同じ顔ばっかりだ。正直、その仕様に慣れるまで何か気持ち悪くて仕方がなかった。
というか、ジーノの王様の顔とシルハの王様の顔が同じっていうね。この世界のアイデンティティはどうなっているのか疑問に思う。
部屋の中のやつは、いきなりドアを開けられるも何も話さない。
話しかけるまでは何も話さないんだよな。
で、話しかけると
「あなたが、カナデ王子ですか。いやー、探しましたよ」
それはこっちのセリフだ。
第一、俺はまだ名乗っていない。どうやって俺の名前を知ったのか知りたい。
こうして苦労して会ったアベルだが、整った顔立ちでかっこいいのだが、なんだろう? 実にまのぬけた顔をしている。会ったら、文句の一つでも言ってやろうかと思っていたが、何か毒気を抜かれてしまった。
とりあえず、仲間になったので、これからのことを相談しようと思う。
そう思ったんだ。
この出会いからして気づくべきだったんだよな。
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