第12話1011

トーラ王国第3層門。壁と同じ白亜の宮殿のとある部屋。王国の重鎮であるストレイン大臣が報告書を眺めていた。


「ふん。悪く思うなよ第6王女、これも国のためだ」


コン、コン


白湯木の執務室のドアがノックされる


「入れ」


扉を開けたのは銀髪のメイドであった。


「ストレイン様、追加の報告が上がってまいりました」


「ご苦労。あと、真茶をいれてくれ」


「かしこまりました」


銀髪のメイドは深くお辞儀をし、1階へと降りて行った。


「さて。なに? ガドア強襲部隊が全滅だと!?まさかあの小娘あれだけの戦力を相手に勝ったのか?」


「いや、こちら側の報告では王旗船の残骸は見つかっている。飛行ハーネスも装備さておらんし、勝ったと言うよりは玉砕したのだろう。しかしあのガドアもまさかあんな小娘に刺し違えられるとは、落ちたものだな帝国も」


実際には天災と言うべき宇宙からの来訪者によって粉微塵にされたのが正しいが、状況を見れば誰もが白翼の騎士団が玉砕したと思う事だろう。たとえそれが帝国側の船の損壊が騎士団より激しくてもだ。


「しかし妙に引っかかる。帝国はまだ何か報告していない事がある?いや考え過ぎだな、帝国も小娘に強襲部隊を壊滅させられたとあったら面子が立たんか」


「だが…念のためだ。メイシュー!」


「はっ」


「わしの魔道偵察科にもう一度戦闘跡を調査させる。今度はノノラ=トーラ・エスミルムス本人の死体もしくはその残骸を見つけよと伝えろ」


「かしこまりました」



ベース基地中央司令部


私がここに来て煌天暦で39日が経った。ミコトお姉様をはじめとした彼女達アンドロイド含め惑星と銀河系の概念、果ては途方もない宇宙の話。全部最初は信じられなかったけれど、今こうして私の目の前にその存在があるのだ。


「何を見てるんですか?」


「あ。ミコトお姉様」


「お姉様は恥ずかしいですって言ってるでしょ!もう」


「私にとってはお姉様です。諦めてください」


「はぁ、それで何をテラスでぼーっとしてたんですか?」


「なんとなく、自分が凄い遠くに来てしまったなと。考えを巡らせていたんです」


「あなたの故郷から84万キロ離れてますからね」


「物理的にもそうですがっ!私が言いたいのは文化や知識的な事ですっ」


「ふふふ、分かってますよ。冗談です。ノノラ、あなたはどう思いましたか?私達の事、この世界の事を知って」


「ミコトお姉様達は例え命がない機械と言っても人の心を持ったちゃんとした人間です!私達の世界は…そうですね、最初こそ驚きましたが色々と納得しました」


「そう、あなたは間違いなく惑星系で初めて世界の全貌を見た人間。あなたはこれからどうしたいんですか?ここでの知識を得て」


「私は…そうですね、伝えたい。私達の世界はこんなにも広く、美しいのだと」


そう言ってノノラはテラスからのぞく3つの惑星と銀河を見た。


「ノノラ、あなたの心は分かりました。ですのでこれから伝える事があります」


ミコトは優しく微笑んで語りかける


「でもこの言葉は私からではなくゆうと司令から聞く方がいいです。強制はしません、でもあなたの為に聞いてほしいです」


「お姉様。分かりました一度は死んだ身。何があっても受け入れる覚悟です」



時は僅かに遡る


「ノノラの調子はどうだミコト」


「私達アンドロイドとも隔たりなく接してくれてます。最初こそは王女様が板についていた様ですが、最近は年相応の振る舞いもしてくれますよ」


「なら良かった。わずか16歳にして一艦隊を任され戦い、信じていた祖国から裏切られたんだ。それでも前を向き歩み続ける彼女の精神には感服するよ」


「そうですね。それに精神だけではありません。彼女自身なぜ祖国に裏切られたか正確には分かっていませんが、私は彼女の能力が高く何か国にまつわる秘密を知ってしまった、あるいは感づかれる可能性があるため排除したのだと思います」


「と言うと?」


「はい、彼女はまさに天才のそれです、一を書いて十を知る。この短期間で惑星や銀河、宇宙の概念を難なく理解し簡単な日本語の読み書きなら問題無くこなせます。さらに数学の知識、それに付随する位取り記数法を完全にマスターしてます」


これには流石に驚いた。言語だけでなく物事の概念をもたった1ヶ月弱で理解すると言うのは口で言うほど簡単ではない事など誰に聞いても分かる話だ


「ということは、出る杭は打たれたと言う事か」


「あくまで可能性ですが」


俺は考えを改める。


「彼女にはこの世界の人間について多くの情報を提供してもらっている…私は彼女にこれからの計画を話す」


「いいのですか?話せば彼女と敵対する事になりますよ?」


「それこそミコト達はいいのか?俺はおそらく彼女なら理解してくれるとは思うが、万が一敵対すれば彼女とは居られない。特にミコトはお姉様と呼ばれる程慕われているんだろ?」


「私達アンドロイドは何があってもゆうと司令のご意志に従います。それに、私も彼女は理解してくれると信じています」


「そうだな。ミコト、彼女を司令室まで呼んで来てくれ。俺からちゃんと伝えなきゃならないと思うからな」


「はい!行ってまいります!」


そう言ってミコトは司令室を後にしてノノラを迎えにいった。


「さて、俺も英文を作成しとかないとな」


しかしなぜこの世界の共通語は英語なのだろう。最初聞いた時は元いた世界と何か関係があるのかと疑ったが、話を聞く限りそれらしい事は一切無かった。


「まあ、完全な異世界語だったら大変だっただろうから助かっているけど」


こうして俺は彼女に伝えるべく日本語を英訳する作業に入った。と言っても喋った事を機械が自動で翻訳してくれるが、ニュアンスなど細かい所は今の技術を持ってしても100%ではない。そのため微調整をする必要があるのだ。

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