第7話0110
「ノノラ様!もう3隻も船が沈められました。すでに戦闘出来る状態ではありませ…きゃっ!」
雨が降る中、ノノラが乗る王旗船が大きく揺れて軋む。
「くっ!全魔導空撃を乱射しつつ引け!私たちの敗北だ…全力をもって撤退せよ!」
掛け声とともに魔導飛行船にある全砲門が開く。そしてそこから一斉に狙いも間隔もバラバラに魔法と空撃を撃ち出す。さらに王旗船を守る盾の様に防御に特化した魔導船が前方へ回りこむ。
「はぁ、だめだ、ダメ。先制攻撃をしておいて撤退は愚の骨頂。簡単に逃がす訳ないじゃないかぁ。旋風船、高度を下げて王旗船に直接魔導機兵を乗り込ませろ」
男が支持した通りに細長いカヌーのような飛行船が高度を下げつつ猛然と敵艦の下へ潜る。
「これで白翼も終わったか」
そう言って男はうんざりとした顔で司令室に入っていった。
突如として王旗船が激しく上下に揺れ、魔導機兵が甲板まで迫って来た。
「なっ、船底を突き破って一瞬でここまで来たというのか!」
ノノラは歯ぎしりをした。まさか帝国の魔導機兵がこの様な事が出来るとは思わなかったのだ。
しかしそれは仕方ない、誰が船の下へ潜って直接乗り込んで来るなんぞ考えるか。魔導機兵の力もそうだがそれを実行した司令官も司令官であるが。
「ここは私が引き受けてます。ノノラ様は何がなんでも逃げて下さい」
「なっ!船の王である私が王旗船を放棄出来ない!そんな事すればルーシャ達全員ッ!…それに私なんかよりお前のほうがっ!」
「大丈夫です。ノノラ様が生きていれば全員笑って死ねます。ですのでお許し下さい」
そう言ってルーシャはノノラを蹴り飛ばした。彼女の体が宙を舞い、背後のガラス窓を突き破って船外へと放り出される。
次にノノラが見た光景は落ちていきながら体を槍で貫かれ、倒れるルーシャの姿であった。
「報告。白翼、王旗船の致命的な破壊を確認、支援を受けていた守護船も瓦解しました」
「落ちた船員達にとどめをさすな。あくまで私達の目的は白翼の壊滅だ。皆殺しまではしなくていい」
「はっ!」
(つっても、あの高さから落ちれば生き残りはいないだろうな…飛行ハーネスもつけてなかったし)
「よしっ、戦果は上々だ。これよりこの区域から撤退する」
空戦の結果は、2隻失ったものの帝国側の圧勝だった。工業都市であるイザベラ帝国はその技術力の向上に日々を費やして来たのだ。逆に勝てなければ問題であると言えよう。
悠々と撤退を始める帝国魔導飛行船をただ一人地から見つめる者がいた。
「白翼の騎士団など…やはり所詮は戦争ごっこをしてるだけに過ぎなかったのだな」
右腕がねじ曲がり、破砕物によって右足は押し潰されているが、かろうじてノノラは助かっていた。もっとも何もしなければこのまま死んでしまう。だがそれでも良いとノノラは思う。
「私が…私が民を守る翼になるなんて戯言をあの時していなかったら!」
空で散って逝った仲間達の姿が思い浮かぶ。
「私は…ただ自己満足のために皆を犠牲にして…挙句私のミスで皆を殺してしまった」
あの時、敵将は戦闘を避けようとしていた。だが自分は焦り、攻撃をしてしまった。悔やんでも悔やみきれない。もっと良い方法があったはずだ、もっと早めに降伏していればまだ大勢が助かったかもしれない。
「ああぁ…煌天の神よ、罪深き私を早くお召しになって下さい。そして私を永遠の劫火によって私を焼き尽くして下さい」
朦朧とした意識の中ノノラがそう祈った時だった。
空が、雲が裂ける。そしてノノラも帝国側の人間も、その場にいた全員が見た。
夜を塗りつぶした様に真っ黒で巨大な戦艦を、空一画をいくつもの真っ黒な巨体が空を押し潰す。その圧倒的質量にその場の全員が胸を押さえる。
「あぁ神よ…」
ノノラが言った。
「おいおい、神話にもこんなもの載ってねぇぞ」
帝国魔導部隊の司令官であるガドアが呟いた。
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